24:愛しのチョコフォンデュ


それは2月13日の夜の出来事。


「花子ちゃん…そのチョコの山ってもしかしなくても…」


俺が恐る恐るそのチョコの山を指させばにっこり微笑む花子ちゃん。


「明日バレンタインでしょ?だから10人分のチョコの材料買ってきたの!大変だった!」


「よ、よかった…!10人分って事は俺のもあるんだね…!」


安堵のため息を一つ吐いて、花子ちゃんの彼氏と言うポジションでありながら彼女にチョコを貰えるか不安だった自分が情けない。

10人分って事はきっと逆巻さん達6人と俺達無神家4人のものだ。
ああ〜よかったぁ!逆巻さん達だけにあげるんじゃないかと思ってひやひやしたよ…!
すると俺の安心をよそに花子ちゃんは爆弾発言。


「え、コウ君の分とか用意してないよ?」


「………え、」


真顔でそんな事を言う花子ちゃんに掴みかかってガクガクと体を揺らせばキモチワルイ!酔う!って思いっきり頭突きが返ってきてしまったけれど今はそれどころじゃない。


「え!?な、何で!?10人分デショ?って言う事は逆巻さんと俺達の分じゃないの!?」


「確かに天使達とルキさんとユーマ君とアズサ君の分だけどあと一人はコウ君じゃないよ。」


「おい誰だよ、ソイツ殺してきてやるからその分で俺の作ってよ。」


すると花子ちゃんは徐に携帯を取りだして誰かに電話をし始めた。
嫌な予感しかしない。


「あ、もしもし。カールハインツ様ですか?コウ君が今から貴方の事殺しに行くらしいんですけどー」


「いやぁぁぁあ!ウソウソ!嘘です!ごめんなさい!心を込めてカールハインツ様にチョコを作って差し上げてください花子様ぁぁあ!」


大慌てで彼女から携帯を取り上げて必死にあの方に弁解してその場にしゃがみ込めば花子ちゃんの小さなため息。


「仕方ないじゃん。コウ君は全国のエム猫ちゃんからチョコもらうんだから、私のなんて食べきれないでしょ〜。」


「…花子ちゃんがチョコくれるならそんなの全部捨てるし。」


「さぁて!忙しくなるぞー!キッチン貸し切り状態だ!」


「ちょっと!俺今すごくいい事いったのにスルーってどういった神経してんの!?」


大きく喚いても花子ちゃんに届くことはなくて、彼女はそのままキッチンへと消えていってしまった。
…うぅ、酷い。ひどすぎる。
けれど俺はめげない。めげないのである。


「貰えないならあげればいいんじゃん!」


現在では逆チョコというモノがある!
通常運転だけど俺が日頃どれだけ花子ちゃんを大事に思っているか伝えたい!
…あ、でもチョコってどうやって作ればいいんだろう。
うーん、折角だし女の子の趣味も考慮したいし…
あ、そうだ!
ごそごそと携帯を取りだしてとある人物へと電話をかける。


「あ、もしもしエム猫ちゃん?ちょっとお願いしたいことがあって…今からそっち行っていい?」




そして2月14日当日


「アヤトきゅーん!コレ、手作りなんだけど…折角だからたこ焼きモチーフにしてみたんだよ?食べてくれる…」


「おぉ!?スゲー!サンキューな!花子!」


「やだもっと…もっと撫でてアヤトきゅん!」


うわぁぁぁん!俺の花子ちゃんの頭なでなでしないでよアヤト君!
まるで等身大の青春カップルだよ!俺が!彼氏だから!


「きゃなときゅんにはコレ★いろんな形の可愛いチョコセットを作ってみました!」


「わぁ…!すごいです…ふふ、ありがとうって…テディが言ってます」


「ああんもう可愛すぎるきゃなときゅんまるで妖精の類!」


抱き付かないで!抱き付かないでよ!酷いよ!抱き付くならカナト君じゃなくて俺にしてよ!
メルヘン世界から出てきたバカップルみたいになってんじゃん!


「ライト君にはユイちゃん型チョコをプレゼントー!チチナシ具合も完全再現したんだよ!」


「んふっ♪ありがとう花子ちゃん。わぁ本当に胸がないや。これは面白いね」


「今度はユイちゃんのフィギュア作ってきてあげるからそれにチョコぶっかけるがいいよ〜★」


や、やめてあげてよ!エム猫ちゃん泣いちゃうよ!
ていうか本当に精巧にできすぎているんだけれど花子ちゃんは職人さんか何かなのかなぁ?



「レ、レイジさんにケンカ売るのはどうかと思ったんですがどうしても手作りで差し上げたくて…!受け取ってくださいませ!」


「おや、トリュフ…ですね。ふむ…中々旨く出来ています。合格点です。」


「あ…ああああああそんな優しげな微笑みプライスレス…!ウェディングドレスはやっぱり純白がいいですかね…!?」


に、逃げてレイジ君…!超逃げて!
ほぼ100%その純白ドレス、レイジ君が着る羽目になるよ…って、レイジ君の身体撫でまわさないで!厭らし過ぎてセクハラで訴えられる!


「しゅ、シュウ様…!あ、あのチョコ…ビターなんで、食べるのめんどくさいのなら私が口移しで…っ!」


「…あーん」


「はぁはぁはぁはぁはぁ」


「っアウトォォォォ!花子ちゃんアウトォォォォ!シュウ君も受け入れ態勢になってんじゃないよ!馬鹿馬鹿!」



「あ、あの…スバルきゅん、コレ…手作りなんだけど…よかったら…」


「お、おう…その、さんきゅー」


ちょちょちょっと…甘酸っぱい…甘酸っぱすぎるよ青春万歳かよ。
リア充爆発しろよ。…アレ、俺が彼氏だった。




そんな感じの一日で結局学校では花子ちゃんにチョコを渡せずじまいだった。
うーうーうー…いいもん、家でゆっくり渡そう。そっちの方が後でイチャイチャできるもんね!


もやもやしがら俺はいつも通り帰路についた。



「ヘイ!ユーマ君、私からのプレゼントだ受け取りたまえよ!」


ガスッ!


「いてぇ!ば…っ、オマ…!食いモン投げてんじゃねぇ!」


「ふっふっふ…ユーマ君専用ゲロ甘チョコなのだよ。心して食すがいい」


「マジか!でかしたぞ花子!」


わしゃわしゃ。
…アレ、無神家に妹っていたかなぁ。
もうなんかユーマ君と花子ちゃん兄妹みたい。うん、なんか…うん。
でもユーマ君はユマシュウ18禁本にご出演させられてることを知らないんだよね…あれだ、知らぬが仏ってやつだ。



「はい、アズサきゅん!ハッピーバレンタインだよ〜!」


「え…俺も…もらっていい、の?」


チラリ。
ギロリ。


アズサ君は俺の事を気にしているようでこちらを申し訳なさそうに見つめる。
それと同時に花子ちゃんが「お前余計なこと言ったらぶち殺すからな」って視線で睨みつけてくる。
俺は引き攣った笑顔で全力で首を縦に振る。


「あり、がと…うれしい」


「やん、もう無神家の天使可愛すぎてハゲる。」


「おい、花子。貴様、俺に渡すものがあるだろう。」


アズサ君と花子ちゃんとのやり取りをソファで座ったまま見ていたルキ君が彼女に向かってそう言えば
花子ちゃんはそのまま華麗にルキくんにスライディング土下座を決めて恭しくチョコを献上する。


「ルキ君、ルキさん、ルキ様本年度もごはんやら修羅場など色々お世話になりましてこちらはほんの気持ちですお受け取りください」


「ふ…、いい心がけだな。」


…え、何コレ。
賄賂?汚職の瞬間?
二人してすっごく悪い笑顔なんだけど…アレ、バレンタインってこんな極悪な行事だったっけ?



そんな事を脳内で考えつつも俺は隙をついて花子ちゃんに手作りチョコをずいっと差し出した。
するときょとんとした花子ちゃんは首を傾げる。


「俺からのバレンタインだよ!エム猫ちゃんに作り方教えてもらって頑張ったんだー!」


「………つまりコウ君は私に浮気チョコを食べろと。」


「酷い言われよう!」


彼女の酷過ぎる言葉にじわりと涙を浮かべていると花子ちゃんは何も言わないままひょいっと俺の作ったチョコを一口。
もぐもぐと口を動かして少しだけ淋しそうな笑顔。


「うん、ユイちゃん好みの味だ。」


「あ………、」


そっか、そりゃそうだ。
エム猫ちゃんに教えてもらったんだから、彼女の好みの味になって当たり前だよ。
俺、もしかしてとんでもない事しちゃったんじゃないかな。
花子ちゃんにだいすきって伝えたかったのに、どうして俺って肝心な所抜けちゃうかなぁ。


ぽいっと自分のチョコを投げ飛ばして空いた手でぎゅっと花子ちゃんを抱き締めた。
するとやさしくぽんぽんって背中を撫でてくれる。
その優しい手に遂に瞳に溜まっていた涙は零れ落ちてしまった。


「ごめ…花子ちゃん、ごめんなさい。」


俺の謝罪に彼女はクスクスと笑ってちゅっと涙を唇で拭ってくれる。
くすぐったくて体を捩れば今度は額を小突かれる。


「まぁコウ君が私の事想って頑張ってくれたのは事実だもんねー。仕方ないからコレで許してあげる!」


そう言って何処からか取りだしたものに俺は首を傾げてしまう。


「チョコフォンデュセット…?」


「エム猫ちゃん達のチョコ、1人じゃ食べきれないでしょ?一緒に食べよっか。勿論チョコを付けるフルーツとかマシュマロは全部私のお手製さ!」


「う…うえぇぇん花子ちゃんだいすきー!」


そっか、チョコは沢山の女の子にもらうから、キミはこんなの用意してくれてたんだね。
ああ、うれしい、やさしい、しあわせだなぁ。
嬉しくて嬉しくてまたボロボロと泣いてしまえばぐいぐいと今度は指で拭ってくれた。


「ほらほらいつまでも泣いてないで、食べちゃおうよ!ね?」


「うん!」


にっこりと俺の大好きな笑顔がそう言うから
俺も飛び切りの笑顔でそれに答えてみた。


来年は俺一人だけでチョコづくり頑張ってみよう。そして今度こそ花子ちゃんを感動で泣かせて見せよう!


だいすき、大好き!
花子ちゃん、あいしてる!



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