27:哀の歌
彼は問う、遺された者の痛みについて。
そんなに苦しいのならと、私は史上最低の選択肢をチョイスした。
“なら、消しちゃいます?”
貴方が苦しまないのなら私は悪役にだってなんだってなる覚悟だ。
「うーん…おかしい。一体何なんだよ…」
あの日から俺はアイドル絶不調である。
何もかもが心から楽しめない。
そりゃそつなくこなす程度なら出来るし、たいていのエム猫ちゃん達は誤魔化せるけれど
そうじゃない子たちもたまにいて、最近俺の体調を心配するファンレターも届くようになってしまった。
そして一番の大問題はこれだ。
「もうすぐ新曲の発表ライブだって言うのに…」
歌が歌えない。
今回の新曲はどうやらラブソングのようで
いつもならすんなり一発OKな筈なのに何度もリテイクされてしまっている。
こういうの、どうやって歌ってたかどうしても思い出せなんだ。
「花子ちゃんって子なら知ってるのかな…」
小さな独り言の中にぽつりと自己主張する女の子の名前。
以前この子の名前を呟いて大泣きしてしまったのは記憶に新しい。
一体どこの誰だか知らないけれど、あれから俺の気持ちが凄く揺れてしまっているのは確かで
色々な人にその「花子ちゃん」って人を知らないか聞いてみたけれど誰も知らなかった。
「あ…もしかしたら、」
思い立って急いで自室へと駆けだした。
そして徐に捨てようとしたけれど、どうしても気になって取っていた封筒たちとネックレスを取りだす。
確かこの二つを捨てたときもおかしな感覚だった気がする…。
不意に封筒の中身を確認しようと全部開けていく。
するとそれぞれ二枚ずつ出てくる便箋の内容に思わず固まってしまった。
「え、…ド変態じゃない?」
それぞれに書かれていたのは逆巻兄弟への気持ち悪いノロケばかりだった。
けど、どうしてか内容は全て俺に語りかけられている。
うん、全然意味わかんない。
盛大にため息を吐いて、それぞれのもう一枚を覗き込んだ。
そこにはそれぞれ一文字が小さく書かれているようで…
「た・あ・し・い・て…?」
適当に並べても言葉の意味が分からず首を傾げる。
一体何を伝えたいんだろう…
そんな時チラリと最後の便箋が視界に入る。
それはキモチワルイ文章でも小さな一文字でもなくて
少しだけ震えた字で書かれていた一文。
「“来世でもどうか私に愛されてください”…、…っ!」
瞬間、弾かれた様に先程の一文字ずつの便箋を並べ替える。
これは…これはきっと、
「あ・い・し・て・た………愛してた、」
がすっと頭を鈍器で殴られた感覚だ。
なんだかこの言葉…すごく、悲しい…
多分この感覚は二度目で、覚えのある酷い動揺と悲しみに耐えることは出来ないで
そのままボロボロと涙を流し、抑える事のないまま声を大にして喚いた。
何に対して喚いているのか分からない。
けれど…ああ、けれど
酷く悲しくて
酷く寂しくて
酷く切なくて
俺の悲痛な叫びはこれから歌わなければならない愛の歌とはかけ離れていて
酷く淋しくて悲しい、哀の歌のようだった…
誰にも届かないはずのその声に、誰かの表情が歪んだ気がした。
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