10:無神コウの秘密


スーパー人気アイドル無神コウ。
そんな彼にはひとつ、秘密がある。




「お疲れさまー!コウ君、今日もよく頑張ったね!!」



「あったりまえだよね!だって俺はスーパーアイドルだもん!!」




ニッコリ誇らしげに笑う無神コウはとても眩しい。
実は最近までこうではなかったのだ。
舞台上では明るく人懐っこいし、裏でも人当たりはいいと思うが
それらすべてがどうしてだか張り付いたものにしか思えなかった。



けれどいつの日からか、彼はいつだってとても無邪気に笑うようになったのだ。



「ええと、花子ちゃん?は元気?」



「え、なになにマネージャー花子ちゃん気になるの?ダメダメ!ぜぇぇったい駄目だからね!!これ以上ライバル増えるとか無理!!花子ちゃんは俺のだし!!俺が!!!彼氏です!!!」



花子ちゃんと単語を口にしただけでマシンガンのような独占欲丸だしな言葉が彼から発せられて苦笑。
極秘ではあるがこの“花子ちゃん”という女性が彼の最愛らしい。



きっと彼が変わったのは彼女のおかげだろう。




「くそう!もっと花子ちゃんをメロメロにしたい!!格好良いって何だ!!!」



とか



「ううん、掛け算がまさかのカップリングだったとは思わなかった…卑猥すぎる」



とか



「もう厭らしいポーズ取るの勘弁してほしい!!!筋肉痛になる!!!」



とか。
少し意味の分からない言葉が多すぎではあるが
彼女の事を話しているコウの表情はとても生き生きしてる。
きっと自分自身では気付いていないだろうが、彼女と交流しだしてからコウは変わった。




「あ、コウ君。そろそろレコーディングの時間だよ。準備は?」



「バッチリ!今日もサイッコーの愛を歌っちゃうからね!!」



私の言葉にコウはニコリと笑ってレコーディングルームへ駈け込んでいく。
アイドルである彼が花子という女性と付き合っていると判明しても尚、それを暗に了承している理由はこれが大きい。




レコーディングルームへ入り、スタンバイするコウ。
スタッフたちが見守る中歌へと集中する彼が奏でる音楽と声色にその場にいる全員が感嘆の声をあげる。
ある日から彼の歌が変わった。
今までの歌でも十分に売れる歌ではあったが、ある日を境に彼の歌に「愛」が乗った気がする。
優しくて暖かで…それでいて少し切なくて愛おしい。



只のアイドルがここまで感情を乗せる事が出来るものなんて中々いない。
それは十中八九、彼女である花子という女性の影響だろう。
だから我々は彼を無理に彼女から引き離さない。




「最高の愛の歌だ…」




思わず漏らしたプロデューサーの声に私はつられて微笑んだ。
だって当たり前だ。
きっとコウはいつだって彼女に…“花子ちゃん”に向けて最上級の愛を紡いでいるのだから。




「お疲れ様、コウ君。今日も一発OKだったね。」



「ん、アリガト!!今日もいっぱい詰め込んじゃったからね!コーレっ」



私にしか見られないようにこっそり両手でハートマークを作るコウに苦笑。
全く、頼むから関係者以外にばれるような事はしないでくれよ?
なんたって君はスーパーアイドルなんだからね?



「ああホラ、そろそろ行かなくていいのかな?確か花子ちゃんとデートじゃないの?」


「は!や、ヤバい!!早くいかなきゃまた“遅刻とはどういう事?アイドルだからって調子乗ってんのか”って怒られながらコブラツイスト掛けられる!!!」


「ははは、そんなまさか。アイドルにそんな仕打ちする女の子なんていないよね。」



私がチラリと時計を見せてやって囁けば顔面蒼白でそう言ってしまうコウに思わず苦笑したけれど
どうしてだが「コイツ現実分かってない」と言うようなジト目で睨まれて首を傾げた。




「いやいや!取りあえず行かなきゃ!!マネージャー、明日からのスケジュールメールに入れといてね!!お疲れ様っ!」



「お疲れ様、くれぐれも変装はしっかりしておくんだよー!?」



「分かってるー!!!」



ぶんぶんと走りながらこちらに手を振ってくれるコウは本当に幸せそうで
何だか自分の事ではないのにふわりと胸が幸せで充ち溢れてしまう。




スーパーアイドル無神コウ。
彼にはひとつ、秘密がある。




それは彼には、彼を根本から変えてしまった素敵な恋人がいると言う事。







「こ、コウ君どうしたの?なんで泣いてるの?」



「き、昨日やっぱ遅刻しちゃって罰として野郎の局部修正させられ…うぅっ」




…そしてその恋人はスーパーアイドルに鬼のような仕打ちをしてしまっていると言う事。
マネージャーとしてこのまま二人を見守っていいものかどうか少しばかり首を傾げそうになってしまった。



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