11:腐女子な君を愛した俺の負け


「結局海に行けなかった可哀想なコウへプレゼントをあげようと思う。」



「…ありがとうございますカールハインツ様。」



べ、別に俺が花子ちゃんと海に行けなかったのは俺達の作業が遅かっただけで
別に急遽カーシュウを描けとか言っちゃったカールハインツ様の所為じゃないもん俺達が悪いんだもんとめちゃめちゃ言い聞かせてるけど
心の奥底では「解せぬ」と喚き散らしてる俺がいる。



けれどそんな複雑な心境な俺をよそにカールハインツ様はずいっと何かを差し出してきた。
思わず受け取ってみれば、それはちょっと安っぽい小さな紙切れたち。




「たこやき…金魚すくい…スーパーボールすくい…これ、」



「もうすぐ花火大会があるらしくてね。屋台が一緒に出るみたいだから引換券を沢山買ってしまったよ。花子の水着姿は残念だったけれど浴衣姿を見ておいで?」



「…っ、…っっ!ありがとうございます!!」




その言葉が嬉しくて嬉しくて、じわりと涙を浮かべて直角に体を折って素敵な王様にお礼を言って
そのまま全速力で花子ちゃんの元へと走り抜ける。


嬉しい!水着も勿論楽しみだったけど彼女の浴衣姿とかもう絶対色っぽいじゃん!!
嗚呼、心のどこかでカールハインツ様が余計な事言わなきゃ今頃花子ちゃんときゃっきゃうふふだったのにチクショウ!とか思ってごめんなさい!!



「カールハインツ様だいすきいいい!!!」




俺の歓喜の雄叫びの後、遠くで「くちゅんっ」と王様らしからぬ可愛いくしゃみが聞こえた気がしたけれど絶対気のせいだと信じたい。








「わ、わぁ…花子ちゃん、綺麗…きれいだ、よ」



「あああああ肌蹴た胸元、色っぽい首筋…ゆ、浴衣逆巻たまんねぇぇぇ!!!!」



「だ、黙って!!黙って花子ちゃん!!綺麗な見た目が光の速さで台無し!!!」




くそう!人生思い通りにいかないのは分かってるけど一度くらい思い通りになれよ俺の人生!!!


あれから花子ちゃんを花火デートに誘ったら原稿が落ち着いたって理由ですんなりOKしてくれたんだけど
どうやらカールハインツ様が兄弟の親睦を深めろとかいう理由で逆巻さんも花火大会に強制参加させられたらしく
俺と花子ちゃんは彼等とバッタリ遭遇してしまったのだ。


うぅ…こんな可愛くて綺麗な花子ちゃんの姿は俺だけのモノにしたかったのに!!!



じとりと俺の最大のライバルである逆巻さんを睨めばその視界ににゅるりと自身の彼女が介入してしまう。
花子ちゃん!離れて!!!そんな可愛い格好で奴等に擦り寄らないでよ!!!特に大天使シュウ・サカマキ!!俺勝てる気がしない!!



「うわん!花子ちゃん!!俺!!俺は!?俺だって浴衣だよ!?格好良いよね!?絶世の美少年だよね!!!」



「はいはい格好いい格好いい。ああん!シュウ様!!本日も、いえ…いつも以上に麗しいですね!!この世の奇跡シュウ様!お写真一緒に宜しいですか!?」



「ぎいいいい!!シュウ・サカマキめぇぇぇ!!!」




シュウ君の腕にスリスリ絡みつきながらこちらを3秒だけ見て真顔で抑揚なさ過ぎる声色で俺に賛美?の言葉をテキトーに浴びせたかと思えば息を荒げて花子ちゃんはシュウ君と問答無用ツーショットタイムである。
くっそ!俺が!!彼氏だっつってんでしょ!!!




その間もすれ違うエム猫ちゃん達は俺の顔を見て黄色い声をあげたり顔を赤くしたりだ。
…キミ達にキャッキャ言われても全然嬉しくないんだよ。
俺は花子ちゃんにときめいてもらいたい。



「んもう!逆巻タイムは終わりなんだから!!ホラホラ行くよ!!こうなったら花火上がるまで屋台で格好いいとこ見せたげる!!」



「…コウ君が私にケンカ売るって?上等だよね。売られた喧嘩は全て買う主義だよ。」



この美し過ぎる美貌に全く惹かれてくれないなら後は態度でときめかせるしかないって思って
俺はカールハインツ様に頂いた券を片手に持って空いた方の手で彼女の手を握ってちょっと小走り。


全く…どうして花子ちゃんはここで素直に「やだコウ君の格好いいとこみたいなぁ」とか言ってくれないかなぁ。
ま、花子ちゃんらしいって言ったら花子ちゃんらしいんだけど。



「まずは金魚すくいからだよ!!格好いい俺にひれ伏せ!愛しの花子ちゃん!!」



「甘い!ひれ伏すのは間違いなくコウ君だよ!!私のテクに涙を零し膝から崩れ落ちるがいい!!」




バチバチと火花を散らしてもはや既に当初の目的を忘れちゃってる俺にちょっと離れたところからシュウ君が
「俺は怠いからツッコまないぞー」ってぼやいたけれどもはやそれまでだ。
負けない!!負けないんだから!!!






「誰か嘘だと言ってくれ!!!」


「彼女に完全敗北とは無様だな無神コウ。」


「ぎいいいい!!!くや、悔しいいい!!」



数十分後、彼女の言葉通り俺は膝から崩れ落ちて悔し涙。
両手には沢山のヨーヨーやハイパーボールに金魚達。
でも、うん…花子ちゃんの両手には俺の倍以上の景品たちである。



な、なんで俺はこう花子ちゃんに勝つことが出来ないんだろう!!
悔し過ぎる!!!もう今度はカールハインツ様に花子ちゃん攻略の裏ワザとか聞きたい!!



ぶるぶると震えてれば上の方からドーンと言う音と様々な所から歓声。
あ、花火始まったんだ。



「花子ちゃ、」



顔を上げて彼女を名前を呼べば思わずドキリ。俺が。悔しいけど。
だって夜空を見上げる花子ちゃんはとっても綺麗。
うん、なんか…うん。
花子ちゃんが花火みたいだなぁって思った。



でっかくてキラキラ煩い。
でもすっごく綺麗で見てて胸があったかくなる。
そしてそれはとても一瞬。




うん、花子ちゃんは花火だ。





ドーン、ドーンと大きな音を立てて次々に上がる綺麗な夜空の華は皆の心を奪っては消えて奪っては消えて…。
皆は感嘆の声をあげるけれど俺は何だか胸がいっぱいだ。
気が付けば俺の両手はぐっと伸びて花火とは違ってすぐ届く彼女の体を包み込んでた。



「コウ君?どうしたの?」



「あ、あれ?えっと…」




何で自分がこんな事したのか分かんない。
…分かんないけど俺の腕は自身の意志に反して花子ちゃんを離そうとしない。
意味が分からずに混乱してれば花子ちゃんは俺の腕の中で悪戯に微笑んだ。



「だーいじょうぶ。まだちょっとだけ時間はあるよ。」



「花子ちゃ、」



「ホラ、馬鹿やって沢山私に想い出頂戴よ。ね?」



ドーン、ドーン…パラパラ。
一瞬だけ光っては消える。
花火は人間そのものだ。寿命はとんでもなく短いクセにその光はヤバいくらい眩しい。




「花子ちゃん…あのね、結婚式…したいなぁ。」



「レイジさんも一緒?」



「あーもう!はいはい、それでもいいよもう…花子ちゃんと素敵な式がしたいんです俺は!!」




相変わらず通常運転な彼女に大きく叫び散らしながらもその体をきつく抱き締める。
うん、お別れの時間…近いんだね。




「花子ちゃん、やりたい事あるかなぁ。花子ちゃんのやりたい事全部したいよ。」



「ええとコミケとコスプレと後逆巻家をもう一度襲いたい。」



「…彼氏として浮気を許さなきゃいけない俺は悲劇のヒーローだね。」



困ったように笑っちゃう。
なんだろーなぁ…お別れ近いのに悲しいだけじゃないんだよね。
うーん…なにコレ。




「花子ちゃーん…しあわせ?」



「コウ君は?」



「悔しいけどムカつく位しあわせー。」



多分お別れが悲しい以上に花子ちゃんとの思い出全部が幸せで溢れてるんだ。
いつだって馬鹿で腐っててホモばっかだけど、なんだろ…そう言う下らない毎日がすっごく幸せなんだよね。


「コウ君さ…私の事、どう思ってる?」



「あいしてる」



「そっか…へへ、そっかぁ…ふへへ」



初めの頃はすぐに出てこなかった“愛してる”。
花子ちゃんが教えてくれたこの言葉の意味は俺はずーっと忘れない。



ちゅっと俺の腕の中の儚いけど馬鹿で煩くてイケメンな花火にキスをして
ニッコリ微笑んだ。




「花子ちゃん。だーいすき、愛してる。」




後何回君にだいすきと愛してるを伝えられるかなぁ。
彼女が腐女子じゃなくて普通の女の子ならもっと囁けるんだろうけれど…うん、腐女子じゃない大人しい花子ちゃんとか俺は愛さなかっただろうし。




「くっそ、俺の完全敗北かぁ。」




腐女子でわかりづらくて強引で…
でも確実に俺の中に愛を植え付けてくれた花子ちゃんだから俺は好きになったんだ。




腐女子な花子ちゃんを愛しちゃった俺の負けだよね、完璧に。



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