13:格好イイの基準
「んんんもおおおお!!!また!また可愛いって!受けって言われた!!格好いいの定義を誰か教えてください!!」
「……相変わらずなんだなお前ら。」
だんだんっと目の前のテーブルを何度も叩きながら愚痴りまくるコウに対してでかい溜息をつくけれど今日は退室することは無い。
これは契約なんだ。
コウの奢りであるコンビニで少し高めのジュースを飲みながら週に一度、こうして花子の愚痴と言うか後半絶対に惚気になってしまう独り言に相槌を打ってやる簡単な仕事をこなしている。
「ねぇスバル君これどう言う事かな!?俺今までで二回くらいしか格好いいって言われた事無いんだけどどう言う事かな!?」
「や、もういっそその二回を大切にしてもいいんじゃねぇか?」
「やだよ!俺はいつだって花子ちゃんに攻めだと思われたいんだ!!」
…いや、格好いいって思われたかったんじゃねぇのかなんだ攻めって。
コウ本人は気付いてないかもしれないがこいつはもはやオタク系アイドルとしても十分やっていけそうなくらいの知識を埋め込まれちまってる。
ある意味可哀想な男だ。
「つーかそんなに花子の格好いい基準知りてぇなら考え読めばいいだろ?目、あるんだし。」
「…………。」
普段隠されているひとの考えを読めちまう瞳を指さすけれど
コウはピタリと固まってデカくて長い溜息をつく。
ん?俺なんか変な事言ったか?
「スバル君さ、彼女の思考読んで2時間トイレで吐きまくった俺の気持ち分かる?」
「は?」
「花子ちゃんの頭の中はホモばっか!それもノーマルからマニアック、アブノーマルまで至れり尽くせり!!ホモの高級デパートだよあれ!!もう二度と読む気にはなれない!!」
「あ、うん。わりぃ。」
聞きたいなら一部言ってあげるけどどうする?と聞かれて真顔で首を横に振った。
そうだった花子は腐女子ってやつだった。それも相当末期な奴だ。
きっと付き合い始めの時にでも軽率に彼女の考えを読んでしまったのだろう。
そしてそれがトラウマになって現在に至ると。
うん、コウの気持ちはすげぇ分かる。
どうせ花子の事だから俺達兄弟の誰か二人がなんかうん、すげぇ事になってる妄想してんだろう…いやもしかしたら二人とか生ぬるいもんじゃないかもしれない。
小さく溜息をついてるとコウが少し真剣な表情になって
何かを思いだすように一つ一つ、大事に言葉を紡ぎ出した。
「後、もう花子ちゃんをあそこまで怒らせたくなくてさ。」
「どう言う事だよ。」
「あのね、初めてのデートの時完璧にエスコートしたくて事前に花子ちゃんの考えを読んでその通りにデートしちゃったんだよね。」
ちゅーっと俺と同じジュースを飲みながら語り始めるコウの表情はいつもの馬鹿みたいなものじゃなくて
本当に…真剣に反省しているようなものだから思わず黙って言葉の続きを待った。
「普通女の子って理想のデートとか喜ぶものでしょ?花子ちゃんもそうだって思って頑張って彼女が考えた通りのデートしたの。」
「おう。」
「そしたらさ、最後…ぶたれちゃった。」
ちょいちょいと左頬を指さして苦笑してるコウに何も言えない。
只々彼の言葉をじっと目をそらさずに聴くだけだ。
「きっと花子ちゃんは只自分の考えをトレースするだけのデートじゃなくて大好きな俺に色々考えて欲しかったんだよね。」
「コウ、」
「だからそれ以来むやみに彼女の考えは読まないようにしてるんだ。」
「………そうか」
「もう、あんなに心が痛くなるビンタはごめんだからね。」
愛おしそうに自身の頬を撫でてそんな事を言ってしまうコウは俺には酷く格好良く見えて小さく笑ってしまった。
多分格好いい基準がおかしいのは花子じゃなくてコウの方だと、思う。
だってコイツ、自分が今どんだけすげぇ格好いい事言ってるのか全然気付てない。
「だから!花子ちゃんの考えを読まないで格好良いを極める為にすっごく頑張ってるの俺!!結婚式くらいは格好いいって言われたいしさ!!」
「……や、そうやって言ってる間は無理じゃね?」
「な ん で だ よ !」
すぐにいつもの花子曰く総受けなコウに戻っちまって訳き散らすので
また溜息をつき、小さく言葉を紡げばその声は更に大きくなってしまう。
「ま、でも…カッコイイんじゃねーの?たまーにだけど。」
「え?マジ?何処?どこが格好いいの?ちょ、スバル君!!」
「それは自分で気付けばーか」
ビスッ!っと額を小突くと「アイドルの顔面をボコボコにしていいのは花子ちゃんだけなんだからねっ!」とこれまた頭悪い発言が飛んできて苦笑。
毎日どんだけボコボコにされてんだよお前。
「ま、花子の言う格好いい基準。俺は分かったけどな。」
「え、嘘。スバル君って腐男子だったの?」
「おう今すぐ表出ろぶっとばしてやる。」
こんな会話も何かどっか楽しくて、でもやはりその発言は許せないので一発殴りたい。
多分…花子が格好良いって思うのは、
キチンと自分に向き合ってまっすぐ気持ちをぶつけてくれる
アイドルとか見た目にこだわらない格好悪すぎる無神コウという男なのだろう。
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