14:託す想い


「さて、そろそろこの気まぐれな物語も幕閉じ…いや、そうでもないかな?」




パラパラと数ページしかない本をめくりながら苦笑する。
嗚呼、何だかこの短すぎる物語は人間の一生のようだ。
けれど、うん…その分一ページ一ページ、全て濃厚で楽しく、幸せだ。




「ねぇ花子、もしかして私があの時気まぐれに教会に入らなければ君は普通の人間としてもう少し長い人生を生きることが出来たのかな?」



「え?や、そうですね確かに。あ、と言う事は私が死んじゃうのはコウ君が原因ではなくカールハインツ様が原因…おおう、」



「…………ねぇ、少しは『そんな事ないですよ』とか慰めてくれる言葉言ってくれてもいいんじゃないかな?」



「いやいや私はマブダチに手加減はしませんよーっと!」




ごそごそと身の周りの整理をしながらも全くフォローをしない友人に溜息と苦笑をしてしまう。
全く…吸血鬼の王にここまで塩対応だなんてホント、花子は恐ろしいというか何というか。
今は彼女の部屋だが普段の様に原稿も同人誌も散らばっていない。
そして彼女愛用のPCも今はココにはない。



「怖くはないかい?」



「んー…どっちかって言うと何でしょう…満たされた感じです。」



キュッと最後の同人誌の束に紐を括りつけながらも彼女は本当に幸せそうに笑う。
もう花子は長くない。
それは本人も感じているようで、本日彼女の歴史を大処分中なのである。
彼女曰く逝くときは全て綺麗にして逝きたいと…そう言う事らしいが…



「あ…懐かしい。見てくださいよカールハインツ様、私の聖書です。」



「ふふ、ホントだ。全く…初めて見たときは驚いたんだからね?」



ずいっと私の目の前に出してきたのは懐かし過ぎる彼女曰く聖書。
私はこの聖書と言う厭らしい本の為に教会を彷徨って見つけるや否やほったらかしにされてしまったのだ
忘れろと言われても忘れられない。



「これも捨ててしまうのかい?」


「まぁ…そうですねぇ。残してても誰も見ないでしょうし。」



彼女がその思い出の品も一緒に捨てようとしたのですっとその手から厭らしい本を取り上げる。
そしてじっと互いに見つめ合い、暫くして二人で悪い顔。
ああ、うん。やはり長年連れ添った友は素晴らしい。



「それをエデンの書庫の隅に隠してレイジさん辺りが発見して断末魔を叫んじゃうのを録音するんですね分かります流石王様。」



「いやいや私の思考を読めてしまう花子だってなかなかだよ。」



互いにちいさくクスクスと笑って悪だくみをひとつ。
まぁこれは建前で、彼女と関わるきっかけになったこれを…まぁ内容は酷いものだけれど灰にしてしまうのはなんだかもったいない気がしたのだ。




「ええと、心の準備は出来ているかな?明日は結婚式だろう?」



「はい、ばっちりです。コウ君を泣かします!!」



「……………結婚式でも通常運転なんだね。」




私の言葉に意気込んで望んだものと違う答えを出してしまう彼女にまた苦笑。
全く…少しばかりコウに同情してしまいそうだよ。



「後、カールハインツ様…これ、」



「ビデオテープ?」



不意に彼女から差し出されたビデオテープを取って首を傾げる。
すると花子は少しだけ頬を染めて可愛らしく笑う。
嗚呼、コウは彼女にこういう顔をさせれるようになったんだね…




「これ、私が死んでから丁度100年後…コウ君に、」



「…分かったよ。このラブレターは王様が責任もって預かるからね。」




きっとこのテープの内容は彼女の愛が詰まったコウ宛の最後の告白なのだろう。
それを私に預けてくれるなんて何だか本当に友として嬉しく感じる。
ちゅっと小さな額に唇を落として微笑んだ。
後わずかではあるが最後の最期まで彼女の命に幸せが宿りますように。



「えへへ、額へのキスは祝福ですね。…ありがとうございます。」



「流石、同人誌を書いてるだけあるね。こういう耽美な知識は豊富だ。」



また一緒に二人で笑う。
きっとこうして二人きりで笑い合うのは最後だ。
本当の最期の瞬間は私も最愛と過ごしてもらいたいと願っている。




嗚呼、何だか初めて花子と会った時みたいだな…




なんて、少しばかり自分らしくもなく感傷に浸ればコツンと額を弾かれる。




「花子、」



「私、短い人生でしたけどカールハインツ様や逆巻さん…そしてコウ君に会えてとても幸せでした。」



「………うん。」



何度か優しく頭を撫でられる。
嗚呼、どうしてだろう…いつだってこういう役目は私な筈なのに
何故今私は花子に慰められているのか…もしかして私も受けと言うやつなのだろうか?




「カールハインツ様、あの時教会に来てくれてありがとう。貴方のおかげで私は最高に楽しくて幸せな人生を送れました。」



「…まだ時間はある。そうだろう?花子…最期まで…最期まで楽しみなさい。」



「はいっ!!」




静かな声に返って来たのは底抜けに幸せな声。
嗚呼、良かった…私は花子の生に幸せを与えていたのだね。




ひとりの腐った幼女とひとりの異形の王の物語。
どうやら完全にハッピーエンドとは言い切れないがヒロインの幼女はとても幸せそうに笑うから…まぁ



「それもアリか。」



1人で小さく呟いて満足に笑う。
さて、私もそろそろ準備しないと…
なんせ明日は吸血鬼の王なのに牧師様の役目なのだ。
ううん、何ともミスマッチ…
けれど友人がそう望むのならば私は応えるさ。




「明日、どうなるのだろうね。花子。」



楽しみと近付くサヨナラに少しばかり複雑な心境のまま、ひとつ息を吐いた。



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