15:世界一しあわせ


ううう…緊張。
緊張しかない。



アレだよこんなんだったら24時間生放送超シリアスドラマと主役とかの方がよっぽどマシだと思えるくらい緊張しかない。




待合室で独りきり、ソファに座って小刻みに震えながらも
チラリと鏡に映る自分自身を見つめる。
だ、大丈夫…今日の俺は世界で一番格好いいに決まってる大丈夫。



受けじゃないし!!!!



今日は待ちに待った最愛…花子ちゃんとの結婚式だ。
俺はカールハインツ様とお店の人総出で選んでもらったタキシードに身を包みながら
生まれて一番の緊張に包まれている。




や、別に花子ちゃんを幸せに出来るかどうかの自信とかは余裕である。
世界で一番彼女を愛してるのは紛れもない俺だって自負してるし。
でもどうしてか今、ヤバい位のこの緊張感に今俺は完全に精神的にぺしゃんこだ。




「うううううしっかりしろ!無神コウ!!こんなんだとまた花子ちゃんに受けって言われちゃう!!!」



「全くその通りですしっかりなさい。」




「うわぁぁぁぁ!?」




自身を奮い立たせる為に大きな独り言を叫び散らせば
まさかの返答に思わず変な声が出てしまった。
びっくりして後ろを振り返ればあきれ果てた表情のレイジ君が溜息つきながらこちらを見てた。



う…黒のタキシードに青色のポケットチーフ格好いいじゃないか。
くそう、こんなの花子ちゃんが見ちゃったら「やっぱりレイジさんと結婚する!」と言い出しかねない気しかしない。
いや、彼女を信じろと誰かが言うかもしれないけど今までの花子ちゃんの言動見てたら信頼度なんてもはやマイナスなんだからね。




じっと格好イイレイジ君を見つめてると彼はそのまま俺の腕を引っ張ってぐいぐいと何処かへ連れ出そうとする。
え?ちょっと待ってアレ?どこ連れてく気?
彼の思考を読みたくてもずんずんと前を歩いているのでレイジ君の後頭部しか見えない。



「ね、ねぇレイジ君!どこ行くんだよ!!俺もうすぐ結婚式、」



「は?分かってますよ?だから行くんじゃないですか?」




……………ん?




彼の意味不明な言葉に首を傾げるしかできない。
行くってどこに?
まだ式の開始には時間…あれ?




「れれれれれれレイジ君レイジ君俺はもしかしなくてもやらかした系ですか?」



「そうですね、緊張しすぎて時間を忘れ、結婚式開始時間になってもやってこない新郎に対して新婦は恐らく…コウ、ご愁傷様です。」



「カールハインツ様!!カールハインツ様お願いです!今日だけ!!今日だけでいいんで時間!!!時間マジ戻して俺死にたい!!!」




チラリと歩き進める通路に置いてあった時計に目をやって顔面蒼白。
もしかしなくてももう既に予定では結婚式が始まってる時間だ…


な、なんで誰も呼びに来てくんなかったの!!!
5分前とかさ!!!ちょっとホント何でヤバい絶対花子ちゃん怒ってる!!!
ていうか普通の女の子なら怒ってるというかもしかしたら泣いちゃってるかもあああああどうしよう!!!




ぐるぐるといろんな事を考えパニックに陥りながらも神様に等しいカールハインツ様に助けを求めまくっていたら
連れて来られたのは大きな扉の前。
そしてぐいっとレイジ君に腕を組まれてしまって顔面蒼白から更にもっと顔が青ざめてしまう。



………ちょっと待ってくださいレイジ君ていうか花子ちゃんこれはあんまりだよ。



ぐいいいっと足を突っ張ってその場に留まるように必死に踏ん張るけれど
眉間に皺を寄せたレイジ君が馬鹿みたいな力で俺をずるずるとそのまま引きずり出してしまう。
い、嫌だ!!!幾ら可愛いとか受けとか言われ続けたとしてもこれだけは嫌だ!!!




「嫌だぁぁぁぁ!!!!な、なぁんで俺がバージンロード歩くんだよ!!!!しかもレイジ君と一緒に!!!!」



「ええい!煩いですよ!!式に遅刻した貴方が悪いでしょう!?覚悟を決めなさい!!!」



「だからってこんな罰ゲームあってたまるかぁぁぁ!!!」




そう、俺が今レイジ君といる場所は式場の前。
扉の先には真っ赤なバージンロード。
ここは本来ならば花嫁である花子ちゃんが歩くはずの場所なのに恐らく既にここを歩いてしまった彼女の代わりに今度は俺が歩かされようとしている。


きっと…というかこんなの絶対100%花子ちゃんの差し金だし!!ヤバいどうしよう花子ちゃん予想以上に怒ってる!!!



必死の抵抗虚しくバーン!と勢いよく開かれた扉の先にはやっぱり花子ちゃんが待っていて
神父役のカールハインツ様は飽きれた様に笑ってて彼女も意地悪に笑ってる。
そして参列者…と言うか逆巻さんとルキ君、ユーマ君、アズサ君達はブルブルと体を揺らして必死に笑いこらえてるけど…



もう!皆堪え切れてない!!!必死すぎて涙目じゃん!しかも時々声漏れてるからな!!!!




「いやだぁぁぁ!!!!ここ歩きたくないいいいいい!!!!」



「我儘を言うんじゃありません!!!予防注射怖がる子供じゃないんですから!!!」



「例えがお母さんだよレイジ君だから皆におかんて言われ…わあああ!ごめ、ごめんなさい失言でした引っ張らないでマジごめんって!!!」




俺の失言に完全にキレてしまったレイジ君にそのままずるずると引っ張られて
赤い絨毯を巻き込みながらズルズルと花子ちゃんの元へ連れていかれる。
すると俺が通り過ぎる度に参列者のみんなが堪え切れず大きな声をあげて大爆笑だ。
くそう!結婚式まで俺めちゃめちゃ格好悪い!!!



「う、うぅ…」


「ようやく来てくれたねコウ君。」


「ひ、酷いよ花子ちゃん!!幾ら遅刻だって言ってもあんまりすぎでしょ!!なぁぁんで俺が花嫁ロード歩く羽目に!!!」


「うるせぇ!!!黙れ旦那!!!」



ゴスッ!と通常運転の如く顔面にめり込んだ花子ちゃんの鉄拳。
けれど今日はそのまま「アイドルの顔面に鉄拳は酷い!」って喚き散らすことなく大人しくなってしまう。
だって今の俺の顔は真っ赤だ。
決して花子ちゃんに殴られたからではない。




さっき…花子ちゃん、俺の事旦那、って…




「ううううわあああああ」



「一々赤くなっちゃって…ホント、コウ君ってはこんな日でも受けだよね。」



「ええと…花子、コウ…そろそろいいかな?」




いつものような会話をしていたら目の前から咳払い。
二人で顔をそちらに向けるとカールハインツ様が困り果てたように小さな本片手に笑ってた。


そうだ、今日は花子ちゃんとの結婚式。
こともあろうに吸血鬼の王が牧師様という訳のわかんない配役だけど一番俺と花子ちゃんらしい結婚式。
気を取り直してピシっと背筋を伸ばす。
穏やかな声で読み上げてくださるのは俺と彼女が最期まで一緒にいようねって言う誓いの言葉達…



じわり
じわり




気を抜けば涙が零れちゃいそうだけど必死に我慢する。
だってここで泣いたらもう絶対逆巻、無神両家認める総受けになっちゃうもん。




「無神コウ、健やかなるときも病める時も、死が二人を別つまで、彼女…花子を愛すると誓いますか?」



「はい、誓います。」



「イイコだ…私の友人を宜しく頼むよ?では花子、」




少し…ほんの少しだけ声は震えたけどカールハインツ様の目をまっすぐ見て言えた誓いにじわりとまた涙が浮かぶ。
どうしよう…俺、今すごく幸せだ。
カールハインツ様も俺の言葉に満足したのかニコリと微笑んでその視線を花子ちゃんへと移す。
嗚呼、今度は花子ちゃんが誓ってくれる番…



「花子、健やかなるときも病める時も、死が二人を別つまで、彼…無神コウを愛すると誓いますか?」



「だが断る」



「そうだよねぇ〜やっぱそこは断っちゃ…ぅえええええええ!!!!?」



しみじみと、カールハインツ様と花子ちゃんの言葉を聞いていれば
真顔でそう言っちゃう彼女に思わずノリツッコミをしてしまった。
え、ちょ!だが断るって…だが断るってどう言う事!!!!?
ガシリと小さな肩を掴んでもうここが式場とか今式の真っ最中とかそんなの関係なしにガクガクと彼女の体を前後に揺する。



「どおおおいう事だよ!!!なんで!?え、ちょ、何で!?俺が総受けだから!?可愛いから!?花子ちゃんは攻めじゃないと結婚したくないの!?」



「ほらほらカールハインツ様それちょっと違いますよね?ホレホレ。」



「………え?」



俺の必死な問い詰めを完全無視して彼女は目の前の吸血鬼王の牧師様に
真顔で意味の分からない言葉を紡ぐ。


どういう事かわからずに彼女を揺さぶる腕をピタリと止めてカールハインツ様を見やれば
数秒きょとんとされてたけど、花子ちゃんが何を言いたいのか分かったようでぶふっと王にあるまじき可愛い吹き出し方をして
目に涙を溜めながら再度誓いの確認の言葉。



「そうだった…ごめんね?花子。花子は健やかなる時も病める時も…死が二人を別とうがそんなの関係なくコウを愛するって、誓っちゃうかい?」



「はい!誓っちゃいます!!」



「…っ!…っっ!!花子ちゃん…!!」



仕切り直しの言葉に対して待ってましたと言わんばかりに笑顔で答えちゃった彼女に
遂に俺の涙腺は大崩壊してしまった。
嬉しい…すごく…ううん、すごくって言葉じゃ表せない位嬉しい。




花子ちゃんは俺に「自分が此処からいなくなってもずーっと愛してるよ」って言ってくれたんだ。




「うぇ…花子ちゃん、うえぇぇぇぇ」



「うへへ、コウ君すっごくぶちゃいく…泣き顔カワイイね。」



声をあげてボロボロと零しまくる俺の涙を優しく拭ってくれる花子ちゃんはやっぱりイケメン…
けど俺だってそんな素敵な花子ちゃんにもう一度ちゃんと誓いたい。



「花子ちゃん…花子、俺も…君がいなくなってもずっと…ずーっと君の事大好きだよ。…愛してる。」



「うん…ありがとう、総受けコウ君。」



「だから…俺は総受けじゃないってば、」




ぐずぐずと未だに泣き止まない俺に困ったように微笑む彼女がとても綺麗に見える。
薄い桜色のドレスも相まって今の彼女は本当に素敵だなぁ…なんてぼんやり考えてると
不意に視界の端に見えたみんなの表情にまた更に涙は零れ落ちる。




なんだよ…みんな幸せそうな顔しちゃってさ。




「ねぇ花子ちゃん…俺ね、今…サイッコーに幸せ。絶対世界一しあわせ。」



ちゅっと誓いのキスを交わして間近で微笑めば彼女は俺よりも、もっともっと素敵な笑顔で対抗しちゃう。




「ざんねーん。コウ君は世界で二番目。一番幸せなのは私って決まってるの。…コウ君、私を愛してくれてありがとう。」


「…もう、どこまでいってもイケメンだよね俺の彼女…じゃなかった、俺の奥さんは。」



互いに笑い合ってこんな事…昔の俺じゃぁ考えらんないなぁ…なんて。
今この最高な瞬間を俺に与えてくれた花子ちゃんに心の底から感謝をしてもう一度そっとその同じ体温になる事の叶わなかった温かな唇を塞いだ。




ねぇどうしよう…こんなにも幸せでちょっと怖いよ。
だいすき…だいすきだよ花子ちゃん




本当に、愛してる。



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