16:ありがとう、バイバイ
ああ、しあわせ…
しあわせだなぁ…
でも、うん…
花子ちゃん、君はなにも言わないけれど
ごめんね…読んじゃった。
最後の最期でサイテーな俺で…ごめんね?
「さて、かしこまった式はここまでだ。コウ、花子、シュウ…準備はいいかな?」
「え?」
目の前の幸せに浸っていると仕切り直しと言った感じでカールハインツ様がそう言ってパチンと指を鳴らした。
するとさっきまで式場だったのに気が付けばそこは魔界のダンスホールで、なぜか俺と花子ちゃんと…
ムカつくけど大天使シュウ・サカマキと三人だけ。
シュウ君は俺を見て意地悪に笑うけど、
…勿論目の前の花嫁も同じくである。
「え?何?どういう事?え?」
「コウ君は私のしたい事、全部叶えてあげたいっていったじゃん。だから、ほら。」
花子ちゃんが強く俺の腕を引っ張ってダンスホールの中央へとかけていく。
待って待ってそんなヒラヒラのドレスのまま走らないでこけちゃう!!
慌てながらも彼女について行ってようやく止まった花子ちゃんに首を傾げる。
何だろう…花子ちゃんのしたいことって。
「花子ちゃん、あの」
「私、コウ君とこの曲で踊りたかったの。」
うへへって色気のない声で笑いながらもやっぱり花子ちゃんは幸せそうだから
正直式の後は二人きりでいちゃいちゃしたかったけどこういうのもいいかなって思って俺も笑う。
するとゴホンと彼女の大好きな大天使の咳払いがホールに響き渡った。
「おい花子、そろそろいいか?…大天使、結構もう眠いんだけど。」
「ああん!シュウ様ごめんなさい!!私の旦那が緊張で時間遅れるとか馬鹿野郎な事したばっかりに!!!」
「た、確かに今回は全面的に悪いけど態度!!!俺とシュウ君との態度の落差!!!ねぇ!花子ちゃん!!!」
夫婦って奴になっても相変わらずの扱いに通常運転の如く喚いてももはや花子ちゃんの視線はシュウ君一点集中で
もう俺はどこまでいってもこのごくつぶ大天使には勝てないのか!!って思わず泣きそうになる。
けれどそんな俺達のやり取りを見たシュウ君は困ったように笑って徐にバイオリンを取りだした。
「ったく…親父に記憶全部持ってかれたときは流石に焦ったな…これ、忘れたままだったらどうしようって。」
「え、シュウ君?」
「コウ、大天使シュウ様からの施し…ありがたく受け取れよ。」
彼が何を言ってるかわからなかったけど、隣の花子ちゃんは待ってましたとばかりにその笑顔を更に輝かせてじっとシュウ君を見つめる。
そして彼の指から奏でられるのは何とも暖かで優しい…それでいて何処か切ない旋律。
「コウ君、」
「…花子ちゃん、」
先程とは違って優しく手を取られてそっと引かれる
そしてシュウ君の旋律に合わせてゆっくりと、穏やかに彼女リードの元、ステップを踏んでいく。
あ、どうしよう…なんかこの曲、すごく泣きそう。
されるがままに彼女のステップに合わせて踊ってそのままじっと見つめていると
花子ちゃんは悪戯っ子のように…でも嬉しそうに微笑む。
うん、ホント…花子ちゃんを名実ともに俺のモノにしてよかった。
こんなにも嬉しそうな彼女を見る事が出来たのだから。
「コウ君、この曲ね?シュウ様が作ってくれたんだよ?私とコウ君のラブソングって、」
「え!?嘘!?シュウ君が!!!?…って、煩いね、ごめん…っと、」
彼女の言葉に思わず叫んでしまったけれど鉄拳が飛んでくる前に謝って
今までされるがままだったステップをぐいっと彼女を引っ張って俺優位へと変える。
さっき、彼女の目を見て読んでしまったのだ…
きっと、今日が彼女との最期の日
「コウ君?」
「えっへへー…俺はプロのアイドルだからね、ダンスは俺に任せてよ、ね?」
「………全く、最後の最期までコウ君はデリカシーないなぁ。」
ボロボロと涙が零れ落ちる。
いやだ。
やっぱりいやだよ花子ちゃん。
なんで花子ちゃんは覚醒できないんだよ、馬鹿。
言葉はおどけているのに声は震えて、今の俺の顔はとても酷い。
自分じゃ見えないけど絶対ぐしゃぐしゃだ。
そして俺の声と表情の意味を汲み取った花子ちゃんは困ったように微笑んで、ひと粒…
たったひと粒だけ、静かに涙を零した。
「なんでだよ…花子ちゃん…なんで…なん、で…っ」
「やだなぁコウ君、泣かないでよ。」
「やだ無理そんなの絶対無理もう総受けでもいいから泣くんだもん。」
ポタリポタリと床に俺の涙が零れ落ちる。
けれどステップはやめない。やめたくない。
だってこれが終わったらもう…そのまま君は逝ってしまうんでしょ?
ねぇお願い…
お願いだからこの曲…俺と花子ちゃんのラブソングを終わらせないで。
「花子ちゃん…花子ちゃぁん…う、うぇ…うぅぅ」
「あーあ、やっぱりコウ君の中から消えてた方が良かった?」
「それは絶対無理。でも泣かないのも悲しまないのも無理。」
ひたすら涙を零す俺にそんな酷い事を言っちゃう花子ちゃんに必死に反論するけれど
うん、ごめんね…最期は笑って君を送りたいなって格好いい事思ったけどさ…
どうやら最期まで俺は可愛い可愛い総受けみたいだから、許してね?
「花子ちゃん…愛してる…愛してるよ…ずっと、ずーっと愛してる」
「コウ君、もうちゃんと愛してるって…言ってくれるようになったんだね。」
「花子ちゃんのスパルタ教育のおかげかな。」
笑う、花子ちゃんは泣きながら捧げる俺の言葉に嬉しそうに笑う。
そうだよ、花子ちゃんが教えてくれたんだからね?
「好き」と「愛」の違い。
「花子ちゃん…ありがとう…またね。」
「コウ君…ありがとう…バイバイ。」
きっと来世でも君を見つけるよって、そう込めて「またね」って言ったけれど
花子ちゃんは「バイバイ」って言う。
俺は馬鹿だから、まだこの時、彼女の言葉の真意を掴めずにいた。
流れる曲が穏やかながらもクライマックスを迎える。
嗚呼、もうすぐ…もうすぐ俺はキミのこの手を離さなければならないのか。
やだ…やだなぁ
花子ちゃん、俺…君を離したくないよ。
「コウ君、覚醒も出来ない私がコウ君を愛してごめんなさい。」
「…………なんで今更そんな事言っちゃうの、馬鹿花子。」
最後の最期に聞けた彼女の心の本音。
そんな事言わないでよ。
俺が今そんな事を聞いて「うん、そうだね」なんて言う訳ないじゃん。
君のおかげでどれだけ楽しく愛おしい日々を過ごせたと思ってるんだ。
「花子ちゃん…花子、」
そっと優しく震えていた唇を塞いであげる。
同時に流れていた音楽も消えて某大天使の気配も消えた。
全く…ホント空気読んじゃう大天使マジ罪深いや。
君が悪い事なんて一つもない。
俺はキミに色んな事を教えてもらって
それこそもう無理って位沢山愛してもらったんだ。
…すごく、分かりづらかったけどね。
ただそう、敢えて…敢えて悪者を見つけるのだとしたら
いつだって俺より攻めでイケメンで格好よかった花子ちゃんの瞳が揺れる。
そうだよね、そうだ。
逝くのが怖くない訳ない。
俺を残して逝くのが淋しい訳がない。
誰よりもこの瞬間が怖くて悲しくて寂しいのはキミだ
だったら君の最愛の俺が出来る事はひとつだ。
もう、君に寄りかかるばっかりじゃない。
最期位、俺に包まれればいいよ。
ニッコリ安心させるように笑ってあげて
静かに囁くのは俺の本音。
そうだよ、いつだって悪いのは…
「腐女子の花子ちゃんを愛した俺がわるい、デショ?」
その言葉に彼女は…花子ちゃんは
今までで一番最高に幸せそうに微笑んで目を閉じた。
「おやすみ、花子ちゃん…花子、ちゃ…う…花子…っ」
きっともう目を覚まさない彼女をぎゅっと強く強く抱き締めて
その場に静かに膝をついた。
ウエディングドレス…そのまま死装束になっちゃったね。
そしてひとつ、ふたつと零れる涙は次第に多くなっていって
俺は彼女を取り戻したときに宣言した通り馬鹿みたいにその体を抱き締めて
子供の様に泣いて喚いて…吠えて嘆いた。
彼女の「バイバイ」の真意を知るのは
これから丁度100年後、
最期のラブレターを手にするまで、少しの間…お預けらしい。
ばいばい、花子ちゃん
愛してた。
ううん、
愛してる。
―fin―
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