3:プロポーズ


「レイジ君!早く…俺が抑えてる間に…早く逃げて!!」


俺の後ろで怯えてしまっているレイジ君に向かってそう叫べば彼はとても辛そうに顔を歪めてしまう。
いいんだ…いいんだよ。
俺はその顔を見れただけで満足だ。



「しかし…!私が逃げてしまった後、コウはどうなるのですか!!!」



悲痛な叫びに、俺はもう全てを悟りきったような顔で彼を安心させるように微笑んだ。



さようなら…執事系ドS…



「俺はいつも通りのパターンだから平気…」



「コウ…っ!」



じわりと涙を浮かべたレイジ君が悲しげに下を向いて走り出した。
そう、それでいい…それでいいんだよレイジ君。
そして俺は今抑えている化け物に小さくため息をついて叫び散らかす。



「んもおおおおお!いい加減レイジ君お嫁さん計画諦めてよ花子ちゃん!!」



「うるさい!コウ君の馬鹿馬鹿!!ああ、またレイジさんを逃してしまった…!コウ君がアイドルじゃなかったら腕バキバキにへし折って追いかけるのに!!」



「彼氏に向かって物騒すぎる!!そして俺アイドルでホント良かった!!!」



ようやく腕の中でおとなしくなった花子ちゃんを解放したらいきなり顔面にげんこつ。うん!通常運転!!泣きそう!


花子ちゃんに殴られた美しい俺の顔をさすりながら唇を尖らせる。
全く…俺の事好き好き愛してるって言うくせになんでレイジ君をお嫁にしたがるんだろうか…
チラリと彼女の右手を見てみれば小さな箱。
…中にはレイジ君のサイズの指輪が入っている。
くそう!俺が!!欲しいのに!!



「もうもう!俺だって花子ちゃんとの婚約指輪欲しいよー!」



「アイドルのクセにナマ言ってんじゃないよ殴り飛ばすよ?」



「ねぇ!?ここは私も欲しいぃ…とか可愛く言っちゃうパターンでしょ!?何で花子ちゃんはいつもフラグベキベキに折るの!?」



おもわずぶわわっって涙を浮かべながら花子ちゃんをガクガク揺らせば響き割らる溜息。
くっそ!何でいつも俺がこうやって乙女な思考なんだよ!!
花子ちゃんが彼女だっつってんでしょ!!!


そんな事を考えていれば不意に胸のあたりのリングに触れられてピタリと動きが止まる。
これは花子ちゃんが俺の誕生日にくれたとっても大切なもの…



「ねぇコウ君…これだけじゃ不満?」



「そうじゃない…けど、」



そうじゃない。
このリングは本当に特別。
花子ちゃんが俺の事が凄く大好きで愛してるって伝えてくれた想いが詰まってるリング。
でも…うん、やっぱり花子ちゃんを俺のっていう確固とした証が欲しいのかもしれない。



何も言わずに黙っていればまた溜息。
あ、やっぱりまた総受けって思われちゃうのかな…
いつの間にか俯いていた顔を恐る恐るあげれば呆れたけれど何処か嬉しそうな花子ちゃんの顔。



「じゃぁ結婚式とかする?」



「え…えぇ!?」



彼女の意外過ぎる言葉に素っ頓狂な声をあげれば
「うるせぇ!」ってまた顔面にげんこつ。
だ、だから…アイドルの顔に…!ていうか普通こういう美しい顔傷付けるって…ホント!



「やぁっぱ牧師様はカールハインツ様がいいなぁ…そんで讃美歌は大天使にして頂いてフラワーブーケはぎゃんかわみつごちゃんに…」



「花子ちゃん…」




のらりくらりと語られる彼女の言葉に思わずじわりと胸が熱くなる。
なんだろ…それってすっごく素敵な気がする。



ドキドキ
嬉しくて嬉しくて胸が高鳴ってれば
ぎゅっと抱き締められちゃって思わずビクリと体が揺れる。
…ん?アレ?



「…………花子ちゃん、あのさ。」



「なぁに?総受けコウ君。」



「やっぱりね!そうだと思った!!これって、これって逆だよね!!!プロポーズは俺がしたいんだけど!!!」



じたじたと花子ちゃんの腕の中で大暴れしてしまっても全然腕の力は弱まらない。
だ、だから…だからさぁ!なんで花子ちゃん時々こういった超人的になっちゃうかな!!
というか本当にプロポーズは俺からしたいんです!!



「もうもうもーう!今のなし!!今のなし!!ノーカウント!!俺が!俺からプロポーズするー!!」



「はいはいはーいわかりましたよ仕方ないから言わなかったことにしてあげるよーんもう我儘だなこのアイドル。」



こいつウゼェって顔をしながら俺を解放した花子ちゃんはそのまま唇を尖らせて
ぶーぶーと文句を言いだした。
く、くそう!なんで俺こんなに馬鹿にされてるんだよ!!悔しいな!!


けれどそんな考えも花子ちゃんの次の言葉で全て一掃されてしまう。



「仕方ないか。こんな我儘アイドルだけど私の大好きな旦那様だから。」



「花子ちゃん…花子ちゃぁぁぁん!!!」




彼女の口から旦那様って言葉…すっごく嬉しい!!
ぶわっとまた泣いてしまえば困ったように笑う花子ちゃんはやっぱり可愛い。



「ちゃんとプロポーズして盛大に働いてね?未来の旦那様?」


「うん!花子ちゃんを養わなきゃいけないもんね!!」



「そうそう、そうだよ。二人も養わないといけないからね」



「………………え?」



彼女の爆弾発言にビシリと固まってしまう。
ちょっとまってちょとまってちょっとまって。
それは無理…それだけは無理だから!!



分かってる…分かり切ってる。
今までの流れから分かり切ってるよ俺は!!
これアレだよね、子供が出来ちゃったとかそんなほんわかした可愛いお話なわけないもん!


そしたらこれから予想できる彼女の台詞はただ一つだ。
ブルブルと首を横に振って否定しても無情にも彼女の口から想像しきった台詞が紡がれる。



「私がレイジさんをお嫁にもらうから必然的にコウ君は私とレイジさんを養わないとね!!」



「だろうと思ったよ!!ぜぇーった嫌だし!!」



「大丈夫!コウ君は素敵なタキシード!!そして私とレイジさんは純白のウェディングドレス!!素敵!!」



「素敵じゃないよ!!気持ち悪い!!あ、どこに行くの花子ちゃん!もしかしなくても採寸!?レイジ君のドレスの採寸!?逃げてレイジ君ー!!!」



バタバタと全力疾走してその場からいなくなってしまった花子ちゃんを必死に追いかける。
おい!プロポーズ!プロポーズをさせろよ馬鹿花子!!
ああもうやっぱりこうなりますか!酷い!!神様酷い!!



「俺は!いつ!君にプロポーズできますかぁぁぁあ!!!?」



俺の悲し過ぎる叫びと数秒後に聴こえてきたレイジ君の断末魔は
悲しい事に夜の空に消えてなくなってしまった。



戻る


ALICE+