6:ひそやかな恋心


「いやぁもうこの世の中は受けばかりで愛おしい!!原稿が進む!!」



「ふー…ん。僕はよくわかんないけどなぁ…」



「あ、そのまま3分キープねライト君っ!」



「おっけー。頑張るよ、んふっ♪」



「ちょっとぉぉぉお!何が頑張るよ、んふっ♪だよ!!!俺を助けてよぉぉお!!」



僕の下でジタバタと大暴れしてるのは花子ちゃんの彼氏のコウだ。
今僕はベッドの上でコウを押し倒して厭らしい体制をキープしている。


これはもはや恒例行事となってしまっているけれどコウは未だに諦めていないのかこうして僕に攻められるたびにぎゃんぎゃん喚き散らす。
もういい加減諦めればいいのにね、んふっ。



現在花子ちゃんR-18同人誌濡れ場参考ポーズのスケッチ大会真っ只中である。




「っはー!描いた描いた!!ちょっと休憩ねーんもうお疲れ様ライトきゅん!!」


「んふっ、コレ位お安い御用だよ。案外楽しいしね。」


「ちょっと!俺!!俺は!?花子ちゃん!一番可哀想な君の大本命彼氏に労いの言葉はないの!?ライト君ばっかり狡いよ!!」



あ、コウ…そんな事言っちゃうと花子ちゃんの鉄拳が…って、あーあ、遅かったか。
相変わらず花子ちゃんは美形なコウの顔面向かって鋭い右ストレートをめり込ませて
コウも相変わらず涙目になりながらアイドルの顔に鉄拳ヤメロっつってんでしょ!!って激怒する。
…あーあ、なんだかんだでお似合いだよね。この二人。



だってさ、二人ともすっごく生き生きしてるんだもん。



その光景が何だか面白くなくていつもニコニコしてる顔が気が付けば仕事してなかった。
チラリと鏡に映る僕の顔は酷くご機嫌ナナメだ。
すると絡みついてきたのは荒い呼吸の可愛い女の子。



「花子ちゃん?」



「うへ…うへへへへ。ライトきゅん可愛い。ぎゃわいいいいい!!!!」



今の僕のどこが可愛いのか全然わかんないけれど花子ちゃんは僕の腰に抱き付いて可愛いと連呼する。
何で?今の僕、全然可愛くないじゃん。
だってほら、君達の事見てたらすっごくムカムカするんだもん。



「大丈夫だよライトきゅん。ライトきゅんの事、大好きだからね?」



「………でも、愛してはくれないんでしょ?」



コウには聞こえないような声で囁いてくれた花子ちゃんに対して僕も消え入るような声でそう呟いた。
…ずるい。コウはずるいよ。


僕は花子ちゃんの“大好き”しか手に入れられないのに、コウはちゃんと“愛してる”を手に入れてる。
わかってる…花子ちゃんは絶対に僕のものにはなってくれない。
だって彼女の心は結局はコウでいっぱいだ。



いいなぁ…コウは本当に幸せ者だなぁ。



「………花子ちゃん、どうせならもっと恥ずかしい体位スケッチしよっか。折角だから協力してあげる!んふっ♪」



「ホント!?やったぁ!!ライト君だいすきっ!私の彼氏好きに使ってライト君が知りうる限り、一番受けが恥ずかしい体位オネシャス!!」



「ちょっと!!!人権!!!俺の!!!人権を!!!少しは見てあげてください!!!」


僕の提案に大はしゃぎな花子ちゃんとは対照的にもはや涙腺決壊なコウに向かって意地悪に微笑む。
イイでしょ?コレ位の嫌がらせ。
花子ちゃんの愛を手に入れる事が出来なかった負け犬の僕に八つ当たりの権利位くれたってさ。



「ほーら、コウ。カ・ノ・ジョの花子ちゃんの許可がおりちゃったよ〜?んふっ♪覚悟してねっ」



「な、な、なんでそんなにいつも笑顔黒いのさライト君怖い!!!!」



そんなの、コウお得意の考えを読むその瞳で見ればいいじゃないか。
そしてびっくりすればいいよ。
花子ちゃんを気に入ってるのはコウだけじゃないって思い知ればいい。



「さぁね、僕が変態だからじゃない?」



けれどそんな余裕がないコウはいつだって僕の下で花子ちゃんの名前を叫びながら
ぎゃんぎゃんと彼女への悪態を付きまくるだけだ。
んもう、きっとこのままひそやかな僕の片想いに一生気付かないまま君達は幸せになるんだろうなぁ。



「…くやしいなぁ。」



それは花子ちゃんが僕のモノにならないって意味と
そんな花子ちゃんがコウのモノになってる事実と
でもこの二人を心の底からは憎み切れない僕にへと



みっつのくやしいを心の中に持ちながら
僕は今日も花子ちゃん曰く変態天使として彼女の最愛をベッドに組み敷くのだ。




(「わぁ!その体位、私知らなかった!こ、これ新刊で使おうー!!ふんふんっ」)


(「ぎゃぁぁぁ!!お、俺が!俺がライト君と花子ちゃんに穢されるぅぅぅう!!」)



(「………腐女子を愛しちゃったコウが全面的にイケナイよねぇ。んふっ♪」)



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