5:映画のチケット(二枚)


「おー!花子!今日誕生日なんだってな!!ん!」

ドカドカと私に近付いてきたアヤト君が得意気に私の前にずいっと自分の腕を差し出してきた。

「え、な、何ですか?」

「今日は特別な日だからなー!俺様の血、飲んでもいいぜ!!」

「…遠慮させていただきます。」


私はヴァンパイアではない。繰り返そう私はヴァンパイアではないのだ。
なので誕生日に他人の血を啜っちゃえるほど頭おかしい人間ではないのである。まぁアレですよね。アヤト君は失礼ながら多少頭が足りてないお方なのでこう言った考えに行きつくのも頷けるのだが。

「んだよー。我儘なやつだなぁ。んじゃやっぱこれか?」

ガシガシと頭を面倒そうに掻きながら
ちょっとまってろよーと、洋服のポケットをガサガサあさる彼を黙って見届ける。
なんかいろんなお菓子やらゴミやら大量に出てきているが大丈夫なんだろうか。そしてお目当てのモノを見つけたのかパァっと顔が明るくなって今度こそと言わんばかりに勢いよくそれを私の前に差し出す。

「映画のチケット…?」


彼がふふんと胸をふんぞりかえして得意気に笑う。


「誕生日プレゼントにこの俺様がデートしてやるぜ!俺様は“オンナゴゴロ”が分かってる“プレイボーイ”だからな!」

「………ぶはっ!」

「あぁ?んだよ、なんか文句でもあんのかよ。」


「や、ち…違…っ!アヤト君格好良すぎると思って…!」

「!!だよなっ!そーだよな!!」


私の言葉にとても嬉しそうに笑う彼には悪いが私は笑いを抑えるのに必死である。
だって…だってコレ…!!ヤバい、流石女心が分かるプレイボーイなだけある。

「ありがとうございます。アヤト君…嬉しいです。」

「あったりまえだろ!花子は俺様のなんだから、所有物の嬉しがる事なんておみとおしだっつーの!!」

何処までも得意気な彼に思わずこぼれる笑み。
冷たい手が私の手を包み、そのままグイッと引っ張られて思わず態勢を崩しそうになる。
ホント、何処までも強引なヴァンパイアだ。

「ホラ、早く行こうぜ!映画始まっちまうだろ!」

「そ、そうです…ね…ふふっ」


彼の手に持たれた二枚のチケットにでかでかとプリントされている現在女の子達に大人気のアニメ、プリティー魔法少女対戦のタイトルをもう一度見て私は再び吹き出したのだ。
だから、ホントそう言うどっか抜けてる俺様な彼がたまらなく愛おしい。



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