6:初心者向け料理本


再び家に戻るとリビングには小さな彼がいつも以上に小さく蹲っていて。いつもなら腕に抱いている可愛い彼の相棒は雑にそこら辺に放り出されている。そして同じく見慣れない本が一冊。


「カナト君…どうし…え、泣いてるんですか!?ほ、ホントどうしたんですか!?」


近付いてみると肩を揺らして小さくすすり泣く声がしたので私は驚いて駆け足で彼に近付くと乱暴にその肩に手を置き、こちらへと向けさせた。

「ああ、乱暴にしてすいません。でもどうしたんです?誰かに泣かされたんですか?」



「………ケーキ。」



「ケーキ?あ、もしかしておなかすいてたんですか?ちょっと待っててくださいすぐ全力で作りま…」



「違うんです…。」

ぎゅうっと、カナト君が今にもキッチンへ駆け出しそうな私の服の端を掴んで俯いたままそう呟いたので、一体どうしたものかとそのままおとなしく彼の傍に戻ると、ぽつりぽつりとその涙の訳を話してくれた。

「アナタに…花子さんに、ケーキ作って上げたくて…いつもおいしいお菓子もらってるから…
今日、花子さんが誕生日ってユイさんに聞いて…あの本を見たら僕でも作れるかなって…でもキッチンに行ったら材料がなくて…それで…うぅ…」



そんな途切れ途切れの言葉にチラリと横目で放り出されていた本を見てみるとそれは初心者向けの料理本。
そう言えばレイジさんが誕生日祝いするのに材料がないって愚痴ってたっけ。



「僕が…この僕が、いつも馬鹿で愚図でのろまな花子さんを驚かせてあげようって…思ったのに」

「………うん?」


数々の大暴言に若干心が折れそうになってしまったがあのカナト君が私の為に何かしてくれようと思ってくれたことは事実で
それはとんでも無く光栄で嬉しいことなのだ。



「カナト君が、私の為にそこまで行動に起こしてくれたことが嬉しです。ありがとうございます。」


「………本当?」


ふいに顔をあげて不安げに首を傾げて問うてくる彼が相変わらずとっても可愛らしくて、私は勢いよく自分の首を縦に振った。



「ふふ…よかったです。」



「本当にありがとうございます。カナト君。」


ほっとしたように笑う彼の笑顔がとびきり愛おしくて私も彼につられてふにゃりと笑ってしまった。



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