7:とっておきの景色


「ん」

「ん?」


だるそうにシュウさんが何故か両手を広げて私を待ち構えていた。意味が分からず私は只、首を傾げるしかしなかった。暫くそんな膠着状態が続いていたのだが、シュウさんがそれはもうながーい溜息をついて一言。

「…うっざ。」

「意味が分かりません。」

や、だってホントに分からないんだもの。
彼はそんな私の言葉に眉間にしわを寄せて不機嫌な顔をつくってゆっくりと私に近付いてきた。

「何?全部俺がやんなきゃいけないの?とんだお誕生日様だなアンタ…」

「え、な?ってはぁぁぁぁ!?」

「うるさい…耳元で騒ぐな…」

「マジで降ろしてくださいシュウさんお姫様抱っこだなんて私にはまだ早い大人の階段ていうか…!」


事もあろうに一言小さくぼやいた彼はいきなり私を横抱きにして、乙女の夢であるお姫様抱っこ状態で家を出たのだった。
いけない…これはいけない。私みたいな一般庶民がこんなイケメンにお姫様抱っことかもうホント心臓爆発しますから。

「しっかりつかまってろよ…落ちても知らないからな。」

「は?いったい何…おわぁ!?」

「…女なら“きゃー”ぐらい言えないの?ホント色気無いな…」


「無茶を!ていうかどこ行くんですか!!」


彼の腕の中で大慌ての私をよそに彼は相変わらずだるそうな表情でなんと空を飛んでいる。もうホント、ヴァンパイアというものは万能なんだな。そんな事をぼんやり考えながら私は落ちないように必死にシュウさんにしがみついた。


「うわ…すっごい綺麗…!」

「あーだる…疲れた…」

連れてこられたのはとある山の上だった。
ここは都会の光がないから、綺麗な星たちが沢山輝いて見える。もうそれはとても幻想的で、私は思わず感嘆の声を漏らしていた。

「シュウさん、シュウさん…素敵です…本当にありがとうございます。」


「あんた大袈裟すぎ。まぁでも本番はこれから…」


「え?」


「誕生日だからな。特別だ、花子。」


そう言って微笑んだ彼が徐に取り出したのは
愛用しているヴァイオリン。

「え、シュウさん…もしかして…嘘、」

「お前の為だけに、弾いてやるよ。」



そう言って彼の指先から奏でられる音楽はとても愛おしくて暖かで…
満天の星空の下、こんな、素敵な音楽・・・ずるい。

「ぅ…うー…もうホント、ロマンチスト様…」


嬉しくて悔しくて、私が真っ赤になって涙を流していたら
彼はそんな私を見て満足げに笑っていた。



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