11:蓋をした思考


「スバル、スバル出て来なさい。話があると言ったでしょう」




「……………」





「困りましたね……」





予定は大分違ってしまったけれど
漸く一番初めに花子に会わせる予定だったスバルの部屋に来てみたは良いものの
先程からこの状態……乱暴者ではあるが一番気性としてはマシであろうとそれだけを思ってきてしまったがそうでした…スバルはこういう子でしたね。




「レイジ、さっきから棺桶に話しかけてる……死者は喋らないって本に、」




「嗚呼、いえ死者ではなく中に……」





ダンッ!!!




先程からスバルが入って一向に出てこようとしない棺桶を何度もノックして名を呼んでいれば
花子が後ろから不思議そうに首を傾げ私に問うてくるので本日何度目かなんてもう忘れてしまった溜息を付き、弁解しようとすれば
乱暴な音をたてて、棺桶の内側から自分は死者じゃないアピールをしてしまうスバルにまた溜息。




ええ、ええ…分かります。
分かりますよスバル……けれど人間である花子には我々の常識など通用しないと言うか
同じ吸血鬼である私もきちんとベッドで眠っていますからね。
彼女が疑問に思うのは当たり前なのですよ。




けれどそんな呆れた考えを巡らせてもう一度ため息をついてしまう前に
突然の大きな音に驚いてしまった花子が小さな悲鳴と共に
まるでそれが当たり前かのようにペタリと床にひれ伏し頭を擦りつけてしまったので思わず目を見開いてしまう。





「花子…………?」



「……………」





スバルの棺桶から離れ未だに床にペタリとひれ伏したままの彼女の元へと歩み寄れば
その体が小刻みに震えてしまっているのが分かった。
嗚呼、………花子、貴女
奴隷として生きている間、主人の癇癪に触れた時はいつもこうしていたのですか?





「花子、花子……此処は逆巻邸です。今まで貴女が居た場所じゃない」




「…………」




「奴隷である自身を捨てなさい……貴方はもう“奴隷”ではなく“花子”なのです」




「…………」





目の前で静かに膝を折り、彼女に言い聞かせるけれど
一向に頭をあげようとしない花子に何故か、ズキリと胸が痛んだ気がした





嗚呼、彼女は今まで本当に「優しさ」に触れた事がないのか…





奴隷市場で売られていたと言うのだから…
人間が恐ろしいと感じているのだから当たり前の事と言えばそれで終わるけれど
嗚呼、実際……目の前でこうして反射的に“奴隷”になる彼女を見てしまうと、何故か何とかしたくて仕方がない





「花子」




「!」





ぐいっと無理矢理腕を掴み幼く軽い体を起こしてやれば
この世の規律に反してしまったと言う絶望の表情の彼女とバチリと目が合う。
花子……もうそんな貴女の世界の摂理は要らないのですよ。




真っすぐ彼女の瞳を射貫き、言葉を紡ぐ
花子……私を神だと言うのなら、きちんと徹底的に全てを委ねなさい。





「花子、貴女の全ては私だ」






本当に神に等しい存在に見てもらえない私を神だと言うのなら
私に捨てられたくないと必死に努力し、足元が傷付いても尚背伸びをしようと言うのなら…
中途半端に前の世界を引き摺るのはおよしなさい。





自身の胸に沸いたその感情に笑ってしまいそうになる。
だってこれではまるで……私が彼女の昔の主に嫉妬してしまっているようだから…







「“花子”」






もう一度、私が付けた彼女の名を呼ぶ。
はっきりと、強く…鮮明に
そう、花子……父上から押し付けられたとはいえお前は私のモノなのだ…
所有物が過去の呪縛に捕らえられるだなんてありえない……そうでしょう?





私の言わんとする意図を汲んだのか
彼女はゆっくりとその強張っていた表情を緩め、ふにゃりと笑顔になる
ええそうです……貴方はもう一奴隷ではなく、私の花子なのですよ。





そして………




「スバル、そんな不安そうに棺桶から覗く位なら最初から内側から叩かないで頂きたい」



「!う、うるせぇ!!べ、別に心配なんかしてねぇよ!!ただそいつが普通の人間より半端なく怯えやがったら……っ」



「…………だからそれを心配と言うのですよ。」




先程から動揺しすぎた視線が背中に突き刺さって耐えかねたので背を向けたまま視線の主に話しかければ
バタンと大きな蓋が開く音と共に帰ってきたなんともまぁ典型的な素直じゃない言葉に思わず今度こそ呆れてため息が出た。
ええ、ええ……ほら、貴方も根は優しいのですから不用意な暴力でこれ以上花子を怯えさせないでくださいね。





「レイジ、」




「嗚呼、紹介が遅れましたね。彼はスバル……末っ子で所謂ツンデレと言う奴ですから…先程の乱暴にも悪意はありませんよ。」




「〜っ!誰かツンデレだっつーんだよ俺はそんなんじゃねぇ!!」





ズカズカとこちらによって来た彼の姿を見て「誰だ」と目で訴えてきた彼女に小さく笑って最後の弟を紹介する。
すると相変わらずテンプレートのような彼の言葉にまた吹き出してしまいそうになるのを必死に堪えて彼女と漸くの対面だ。
彼女が私を神と言ってから奥で燻っていた独占欲…それを自覚してしまいながらもそっと花子の背中を押す。




ええ、私を神だと言うのなら
貴女の中の世界を全て塗りつぶして差し上げましょう。
自身の奥底に眠っていたそんな感情に気付いてしまえばもはや笑いしか起きなくてどうしようもない…




花子、貴女が私を神だと…
私が全てだと言うのなら………言ってくれるのなら




その後の思考はひとつ
今はまだ早いと、静かに自身の中で蓋をした。





(「レ、レイジこいつ大丈夫か?ちょっと触ったらぐしゃっとかいかねぇ?」)




(「………そんなケーキや豆腐ではあるまいし。人間はそこそこ丈夫ですよ…ただしキチンと加減をしてくださいね?」)




(「お………おお」)




(「(一度触れ合えばこうも気を遣えるのですから……全く、素直にすぐ棺桶から出てくればいいものを)」)



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