2:100までの数え歌


あれから渋々花子を屋敷へと連れ帰り、弟達に事情を説明して
一応彼女を寿命まで育てると言う名目であるから絶対に血を吸うなと釘を刺し自室へと連れてきた。
…まぁすぐにでも部屋を割り当てても良かったのだけれど奴隷市場に今までずっといたようで
普通の生活の勝手がわからないようだったので仕方がないだろう。




此処に連れてくるまでも首がちぎれてしまうのではないかと言う位
きょろきょろとあたりを不安そうな瞳で見まわしていたのだから。





「では着替えはこちらに用意しておきますから後は………はぁ、そうでした」



「?」




今は彼女の服なんて用意していないので
取りあえず自身のシャツで代用しようとそれと体をふくためのタオルを手渡してやるけれど
花子はそれをじっと見るだけで全く動こうとしない…
嗚呼、そうだった。彼女は入浴と言う行為も恐らく知らないのだ。




「最初だけです。こちらにいらっしゃい」



「レイジ?」



「今から貴女に入浴をお教え致します。」



「!?」



彼女の手を引っ張って浴室へと向かう。
すると花子は何を思ったのかその小さな足を突っ張ってその場から動かないように必死に抵抗し始めた。




「ちょっと貴女一体何なのですか!!私に手間をかけさせ…っ」



「……っ……っっ」



「………はぁ、」




彼女の意味の分からない抵抗にイラつきを覚え、勢いよく振り返ればその表情を見つめてもう一度ため息。
嗚呼、そうでした…彼女が今までいた場所を忘れていた。



「花子……よくお聞きなさい。今からその薄汚れた体を綺麗にする方法を教えるだけです。………別に何処かへ売りさばいたりしませんよ」



「………ほんとう?」



「ええ、残念ながら貴女をきちんと育てなければ父上に罰を受けてしまいますからね。さ、いらっしゃい。」




振り返った先の彼女は顔を真っ青にしてその瞳に沢山の涙を溜めていた。
言葉なんて紡がなくてもその表情は「また捨てられる」と言ったもので、
嗚呼、彼女はこうして何度も何度も主人と信じた人間に裏切られ、売られてきたのだろう。




なんだかそれは少し……




「………はぁ、」



もう何度目か分からないため息で
私は自身の中の思考を強制的に遮った。








「そうです、そうやって体をタオルで擦って…嗚呼、あまり強くしてはいけません」



「……、……、」



「ええ、そうです。中々飲み込みは早いようですね。」




浴室で彼女に体の洗い方を一から教えてやる。
勿論私は服を着たままだが当たり前であるが彼女は一応隠してはいるが生まれたままの姿で黙々と私の指示を忠実に実行して学ぶ。
……まぁ、こんな幼すぎる体に欲情なんてしませんがね。
というか、本当にペットに教育している気分です。




「さて、体の洗い方は上出来です。次はそう…泡をすべて湯でこうして洗い流して…」



「…っ、」



「こ、コラ!身体を震わない!犬ですか全くっ!!」



「…………ごめんなさい、」




ザバリと今日は見本なので私が彼女の体に湯をかけてやれば
ブルブルと体を振り、自身にかかった湯を払おうとするのでその水滴がこちらにもかかってしまい思わず叫べは
花子は酷く落ち込んだ様子で小さく謝罪の言葉を口にした。
………少し怒鳴っただけでここまで委縮されると正直やり辛い。



「……構いませんよ。初めてでしょうし。今後気を付けてください。…そして最後に湯船に浸かり…そうです。」




ぽちゃりと彼女の体を湯船へと誘導してやれば
キチンと肩まで浸かり、漸くリラックスできたのか和らいだその表情につられて私も微笑めば彼女はまた名前を付けてやった時の様に嬉しそうに笑みを深める。




けれど…まぁ…




「ではそのままで100数えたら上がってきなさい……と言っても恐らく数字もろくに知りませんか…仕方ありません。今日だけですからね?1…2…」



「?」



湯船に浸かる目安時間も教えようとしたが
彼女にはまだ数字などは早いと思い、今日だけだと念を押して湯船の傍に座り込んで数字を数えてやる。
すると私のしていることが理解できなかったのかきょとんとした目でコチラを見つめながらもあがって良いとの指示があるまで健気に湯に浸かっている様子に知らぬうちにまた笑みが零れてしまった。





「56…57……58…」



「ごじゅう、はち?」



「ええ、58です…明日から教養もきちんとお教えしますよ。低能な人間とはいえ、私の所有物が愚者のままなのは気に食わない。」




ずっと数字を呟いているのが気になったのかその中の一つを復唱したので
明日より教養も身に着けさせると伝えれば、またよくわからないといった表情で首を傾げる花子にまた溜息。





嗚呼、やはり人間は愚かで低能で大嫌いだ。
だが……




「86…87……88…」



「は、はち……しち、はち、はち…」




低能で愚かしいが必死に私の言葉に付いて来ようとするその健気さはまぁ…
もしかしたら嫌いではないかもしれない。



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