夜の嗜好


「シン君、なんで使い魔の躾ちゃんとしてないの?」




「そ、そんな俺だってちゃんと躾して、」




「してないよね?」




「……………」





今俺は最愛の花子に何故だか使い魔の躾について怒られている最中
正直俺はちゃーんと使い魔の躾してるし、俺が襲えって命令しないと誰彼構わず襲わないし…まぁ、一回スイッチ入っちゃったら止められない時もあるけど
けど花子が此処まで怒る程の何かをやらかす程俺はこいつらを野放しにはしてないつもり…




だって花子は人間だけど俺の最愛で、一応…大切なひとって奴だし





だから使い魔にも花子には絶対に手出ししない様に伝えているし
寧ろ動物が好きな花子と仲良くするように位言ってる…前手出ししない様にってだけ伝えて使い魔が寄ってこないって泣いてたからさ
…ま、俺が狼の姿になれば使い魔なんて比べ物にならない位可愛がってくれるし嫉妬なんて偉大な始祖はしない…
っと話が逸れた今はそれどころじゃない。
その偉大なる始祖が一人間の最愛である彼女のとんでもない威圧感によって縮こまっている状態だ。





ねぇ花子、その怒ったら威圧するの兄さんに似てきてない?
兄さんは尊敬してるけど最愛が兄さんみたいになるのはちょっとやだなぁ…




そんな事を考えながらも目の前の不機嫌すぎる最愛にチラリと視線を配れば
むすっとした表情其のままに、ずいっと黒い布を差し出され思わず目を見開いた。





「…………タイツ?」




「そう!いっつも使い魔達が私にじゃれついて爪でタイツビリビリに破っちゃってもうストックないんだけど!!」




「そ、それは使い魔がうろうろしてるこの屋敷でタイツ履いてる花子が悪いんじゃないか!!!俺悪くないよね!?」






彼女の言葉に反射的に叫べばそれでも躾けるのが飼い主の役目だろ!と無茶苦茶な言葉が返ってくる
だって仕方ないじゃん!俺の使い魔は狼なんだし、爪があって当然でそりゃじゃれたらこんなうっすい布なんてあっさり破れちゃうよ
けど花子が動物好きだからこうして仲良くしろって気遣って命令してるんだからそれはもう俺と言うか花子の配慮不足としか思えない!





そう言えば毎回俺の部屋に来る前に変な断末魔が聞こえてたなーって思ってたけどあれは花子が使い魔にタイツを破られていたからで
だから毎回ドアを開けるときは素足だったのかとちょっと納得……まぁ、廊下で敗れたタイツを脱いじゃうのはどうかと思うけど
そんなの誰かに見られたら襲われちゃうよ?花子。




そんな彼女の顔をじとりと見つめてればどうしてかその瞳を伏せてしまってちょっと内心慌ててしまう
え、俺そんな酷い事言ったっけ?当たり前の事しか言ってないつもりだったんだけど





「ええと……花子?」





「だ…………つ、………ん」





もしかしたらちょーっと強く言い過ぎたかと思って慌てて彼女へ近付いてその表情を覗き込もうとするけれど花子が下を向きすぎてそれさえも叶わない
俺と花子の不穏な様子を察したのか使い魔達も心配そうな鳴き声を上げて周りによって来る
うう、困ったな……俺、今まで始祖こそ頂点って思ってたからこういう配慮に欠けるんだってよく花子に言われてたのにその本人をもしかして酷く傷つけちゃったのかな…





恐る恐る俯いたままの彼女の身体を抱き締めれば
先程は聞き取り切れなかった言葉をもう一度、今度も消え入るような声だったけれど二度目は聞き逃すことはなかった。






「だって……タイツ、使い魔に破られるよりシン君に破って貰いたいんだもん」





「え、」





「ネットで調べたんだけど何だかそういうの……良くない?ちょっと憧れてて……けど毎回此処に来るまでに使い魔に…うう」





「よし、ちょっと躾けてくる」





呟かれた言葉は俺の予想外過ぎるもので
確か俺と愛し合う間では何も知らないまっさらな音だったはずなのにいつの間にそう言うの調べてきてたんだとか
結構マニアックな嗜好なものを選んだなぁと言いたい事は沢山あるけれどまず使い魔達への命令を少しだけ変更するのが先だ





今後花子にじゃれる時は顔を摺り寄せるだけにする事
前足、後ろ足で触れるのは厳禁!





「で?そんなエロい事ばっか考えてる花子は俺に厭らしくタイツ、破かれてされたいんだよね?」




「だからその前にタイツ全部破かれちゃったって言ってんじゃん」




「あ」




まぁけれど使い魔達への伝達よりも先に目の前の厭らしく成長しちゃった最愛望みのプレイでもしてやろうかと
彼等を払って勢いでベッドに押し倒したのは良いけれど、ムードぶち壊しの花子の言葉にハッと我に返って苦笑を一つ
嗚呼、やっぱりもっと先に俺が使い魔にもっと配慮するように言っとけばよかったかもなぁ





「ま、タイツはまた後日って事で……今はいつも通り素足のアンタを頂くよ」




「んん、タイツ…………シン君も誰かに躾してもらう?」





「…………………ぜーったいヤダ」






ちゅっ、ちゅっと無数のキスの雨を降らせながら
花子に大人の時間を強請れば未だに諦めきれてない彼女からそんな言葉が降ってきて
一瞬兄さんの顔が浮かんだけど、兄さんの躾とか命いくらあっても足りそうにないので何度も首を横に振ってもう黙らせてしまおうと自身のソレをそっと重ねて彼女の言葉を飲み込んだ





次の日、少し多めにタイツを買い歩く花子と俺を見つけて
ヴァンパイアの帽子変態野郎が「へぇ〜?始祖でもそういうプレイしちゃんだ…皆に報告しちゃおー……んふっ♪」
と言って去っていったのを全力で追いかけてしまったのはまた別の話






後日、少し兄さんの俺を見る目が少し変わったのは
別の理由だと願ってやまない。



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