月が!綺麗!ですね!!


良い事を聞いた。
良い事を聞いたぞ!!!



自称ミスターロマンチスト、スーパーアイドル無神コウ君から聞いてしまった
素敵な口説き文句に私の足はもう早足どころではなくほぼ競歩の状態で特別教室へと向かう
いやぁ知らなかった……と言うか知らないと言えば逆に驚かれちゃったけど
今時の男女はそういうロマンチックな言葉で愛を語り合うのだろうか…なんかすごい




「カルラさーん!!!」




急いでやってきた愛しの人がいる特別教室。
今日も今日とて勢いよく扉を開ければ最愛の眉間に深い皺が刻まれてしまうが今はそんな事はお構いなしだ。
ずんずんと足を彼の元に進めていき至近距離まで来たら今日色々教えてもらった口説き文句の中から一番ストレートな言葉をひとつ




「カルラさん、カルラさん、今日は月が綺麗ですね!!!」




「…………」




「うっわ花子ってば大胆だね……俺が居るのに兄さんにそんな事言っちゃうなんてさ」





今日覚えたての口説き文句を鼻息荒くカルラさんに言えば
本人は少し目を丸くして固まっちゃったけどその隣に居たシン君は「あー熱い熱い」って笑ってくれてる
そう、月が綺麗ですねって言うのは貴方を愛していますって意味らしい




他にも色んな例え文句を教えてもらったけれど
私はやっぱりこの“貴方を愛しています”を伝えたくてこの言葉を愛しのカルラさんに捧げたのだ



すると暫く黙っていた彼がニィっと笑って
凄く……すごーく悪い顔で私を見つめぽつりと全身が縮み上がるようなお言葉をひとつ





「嗚呼、花子……今日の月も綺麗だろうが明日の月は更にとても綺麗だろうな」





「ひ、ひええええ!?」




「え、ちょ、兄さん!?」




其れこそ魔王の様な笑みで返された言葉はこれまたコウ君に予め教えてもらった
口説き文句でもとても恐ろしい、告げる相手には気を付けないといけないよリストに入っていた単語






明日の月は綺麗でしょう……
それは






貴様を殺すの意






「ちょっとおおお!?何で!?カルラさん怒ってんの!?え、私只遠回しに月浪カルラアイラブユーって言っただけじゃないですかなんで殺されるんだ!!!」




「そ、そうだよ兄さん!!馬鹿で愚鈍でロマンチックの欠片もなかった花子が頑張ってちょっと洒落た事言ったのに流石に…始祖の俺でも人間に同情しちゃう!!」




「煩い黙れそして死ね」




「痛い!」





その恐怖の言葉を一身に受けてガタガタと身体を震わせ近くに居たシン君に抱き着いて
自分の最愛を見上げればどうしてかその眉間にふかーい皺を刻んで何か難しそうな本の門で思いっきり頭叩かれてしまって花子ちゃんのライフはもうゼロである。
な、なんなんだ仮にも恋人にこんなロマンチックな事を言われてもときめかないとか始祖王どうなってるんだ恋愛脳大丈夫か!!




さっきまでシン君に抱き着いていた両手でぶん殴られた頭を涙目で摩っていれば
ふいっと顔を逸らしちゃったカルラさんの綺麗なお口からぽつり、聞こえるか聞こえないような声で言葉がひとつ





「そういう事は………二人きりの時に言え」





「か、か、か、カルラさん……っ!」





「あー……えっと、俺用事思い出した気がするからちょっと出てくるよ」




その言葉は意味は違うけれどカルラさん大好きっこな私とシン君の耳にしっかりと届いてしまって
もはや私は感激と嬉しいのとカルラさん可愛いので涙目だし
そんな私達を見て何かを察したシン君はそそくさと特別教室から足を踏み出して何処かへエスケープ





そしてふるふると感激で震えながらじっと顔を逸らしっぱなしの彼を見つめ続ければ
シン君の足音が遠くなった頃合い、ちらりと視線だけこちらに寄越してくれちゃうからもう私は我慢の限界だ。






「カルラさん!!!!!!月が!!!!!!!!滅茶苦茶きれいですね!!!!!!!」





その私の色んな感情を込めた愛の雄叫びは特別教室どころか
嶺帝学院高校全体に響き渡ってしまい。
数日、“あの月浪カルラが何処かの女に盛大に口説かれていた”と噂になってしまい
暫く口どころか目も合わせて貰えなくなってしまったのは言うまでもない。



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