ありがとう狼さん


嗚呼、寒い…寒すぎる
けれどこれは冬の寒さじゃないのは私が一番よくわかってる




花子ちゃん、どうやら風邪をひいたらしい





「ふーん、やっぱり下等種は風邪とか引くんだ。ウケる」




「ははは、か弱くて思わず守ってあげたくなっちゃうでしょくそ野郎崇高なる始祖様に移してやろうか」




今日も今日とて学校へ行こうと思ったけれど
最近感じる悪寒が酷くてまさかと思うも熱を測ってみたらものの見事に数字は39.8を差していた。
こんな状態で登校なんざ出来るわけないと大人しくベッドに潜ったは良いけれど暇を持て余した最愛が私の家に遊びに来ちゃって今に至る。
全く……お見舞いに来てくれたのかなーって期待した私が馬鹿だった本当に暇を持て余しただけか。




相も変わらず人間を馬鹿にしまくったような態度の彼に今は怒鳴り散らす気力もない
そもそも人間を見下しているくせに私を最愛に選んじゃうなんてシン君ってばちょっとどうかしてるんじゃないの?




ベッドの中からもう風邪っぴきの私の観察は飽きたのかそこら辺の雑誌を読んじゃう彼をじとりと見つめながらもやっぱり悪寒は収まらなくて
ガクガクと身体震わせていればパチリと振りむいたシン君と目があった




「シン君?」




「はは、無様だねぇ…風邪でガクガク震えちゃってさぁ。ホント、花子達人間って脆くて弱すぎ」




「おおう、一瞬でも大丈夫?俺が暖めてあげようか?みたいな台詞を聴けると思った私が馬鹿だったよチクショウ」




目が合ったからほんとは裏の裏を返してやっぱり心配してくれてるのか?
と思ったら鼻で嘲笑って出てきた最高に辛辣過ぎる台詞にもはや私はどうしてこの月浪シンと付き合ってるのかが分からなくなってしまったが
まぁ此処まで言われても奥底から嫌いだと思えない時点で惚れた方が負けと言う言葉が適用されるのだと
虚しい悟りを開いて弱った私を楽しそうに観察するシン君を無視して限界が来ていた意識を手放して夢の世界へと旅立った










「んお?」




暫くして漸く意識を夢から引き戻せばか私の身体はとても暖かなものに包まれているような感覚を覚えていた。
なんか体中がもふもふしている……そんな感触がするのだけれど
ゆっくりと目を開ければ確か布団の中に入っていたはずなのに何かの毛皮に包まれていて、それが酷く暖かで心地よいのだが
此れが一体何なのかが寝起きの頭では理解できない…
もぞもぞと身体を動かして少し上を見れば漸くわかったもふもふ毛皮の正体





「………………始祖ってほんっっと素直じゃないよね」





視線の先には震えていた私の為にわざわざ狼の姿になって包み込んでくれているシン君の寝顔
あれだけ散々辛辣な事を言っておきながら私が眠ってしまった後は此れだ。
きっと私を包み込んだ後何もする事なくなって寝ちゃったんだろうなぁ…
本当に……下等な人間以上に素直じゃなくてとんでもなくかわいくて………そして愛しい





「ありがとう、私の狼さん」





小さく笑ってそんな愛しい彼の鼻先にキスをひとつ
本当は唇にしたいけれど今は狼の姿だし、其れに風邪も移したくないしこれで我慢だ。





「さて、もふもふのままもうひと眠りしようかなぁ」





ぽつりと呟いてシン君のもふもふの中でもうひと眠り。
今度起きたら熱が下がってる気がするのはやっぱり最愛のこういった優しい所を見れたからかもって思うと
シン君の言う通り人間って本当に愚かで単純に出来てるのかもしれない。




けど、そんな愚かで単純な私をこうして気遣ってくれる崇高なる始祖様って
ほんと………





「愛しいなぁ」





眠る直前呟いたその台詞にピクリと彼の大きな耳が動いたのにはまだ気づかない
次起きたらちゃんとありがとうって言おう。
沢山辛辣な事言われちゃったけどやっぱりこれは嬉しいもの






「全く……ほんと花子は馬鹿で愚かで脆弱で救いようないよね…………早く治しなよ?」





そんな彼の言葉は夢の中の私に届くはずもなく
ほわりと部屋の中に溶けて消えた。



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