馬鹿で愚かで単純で


今日はとてもとても寒い大寒波
此れは僕のビッチちゃんに暖めてもらう大チャンスでしょ!んふっ




そう、勿論人肌で!!!



「花子ちゃん!今日はとーっても寒いねぇ、僕体温ないから凍えちゃいそうだよ…んふっ♪」



「えっえっ、そんなライト君凍えちゃうの!?」




ひょっこり最愛、花子ちゃんの部屋に現れてそんなわざとらしい言葉を口にすれば
馬鹿で単純な愛しい花子ちゃんは真に受けて涙目でこっちに駆け寄ってきちゃうから本当に愛しくてたまらない
本当、花子ちゃんって僕の言葉はどんなものでも信じちゃうんだから……僕の愛してるって言葉が嘘だったらどうするんだろうか
なんて、何処までも真っ直ぐに僕を信じてくれる馬鹿な君だから本当に愛してしまったんだしその言葉だけは偽りは無いけれど



心配そうに僕を覗き込む花子ちゃん
そうそう、寒い時は人間である君が身体を使って暖めてくれなきゃね?




にっこりと微笑み浮かべて両手広げておいでのポーズ
鈍感な花子ちゃんはここまでしても首を傾げてしまうだけだから
そんな君にも分かるように毎度毎度こういう時はちょっと恥ずかしくても僕が言葉にしてあげなくちゃいけない
本当に、鈍感が演技に思える時もあるけれど彼女は此れで至って真剣なんだから仕方ないよね





「花子ちゃん、あのね?僕、吸血鬼だから体温がほぼ無いんだよね…だーかーらぁ、花子ちゃんのあたたかーい人肌で僕を温めて?んふっ♪」




「……………」




「あれ?」





いつもならこうやってハグのお誘いをするとほっぺ赤くしながらも嬉しそうに抱き着いて来てくれるのに
今回は只僕との距離は少し開けたままの膠着状態。
彼女は何かと葛藤しているようでその内容までは分からない…
分からないけれど数秒俯いて悩めば決心がついたような表情で顔上げこちらをじっと見つめてきてくれる?




「花子ちゃん?」




「分かった……ライト君がそう言うんならそうだもんね……失礼します!」




「へ、何を言って………うわあああ!?」




何かの覚悟を決めたような花子ちゃんが意を決して僕に抱き着いてきてくれた
そこまでは僕の正しく計画通り、だったのだか……





問題はヴァンパイアの僕以上に冷え切っている彼女の体温と言うか特に指先だ




「え、ええ!?冷たい!!花子ちゃん寒い!!!」




「私相当な冷え性だからライト君に抱き着いたら寒いんじゃないかって…現にライト君の方が温かく感じるけど本人がそう言ってるんだからいいんだよね!」





「えええええ、嗚呼……う、うん……花子ちゃんあったかぁい……」




「えへへ、良かった……冬はライト君にぎゅってしちゃ悪いかなって思ってたけどこれからは気兼ねなく抱き着けるね!」




予想外!!!
予想外だったよ花子ちゃん!!
君がまさかここまで体が凍っているだなんて思ってもみなかった…!



さっきまでは花子ちゃんとくっついていちゃいちゃしたいって思っていたけれど
今は一刻も早く離れたくて仕方がない本当に冗談抜きで凍えちゃう…!




救いようがない程の冷え性な彼女の冷たい身体は
無い筈の僕の体温さえみるみるうちに奪っていく気がしてカタカタと小さく震え始めてしまう。
そう言えば何処かで聞いた話だと体温と言うか手が冷たい人間は心と言うものがとても暖かだって聞いたなぁ
もしそれが事実なら彼女は情熱のビッチちゃんだ。




ちらり




こっそり僕に抱き着いているそんな情熱の花子ちゃんの表情を盗み見る
すると彼女は熱いとまではいかないが本当に嬉しそうに……心底幸せそうに暖かな笑顔を作っていたので
そんな態度の彼女を寒くて死んでしまいそうだからと無理に引き*がす気にはなれなくて……






「……ライト君あったかい?」




「…………うん、あったかいよ?花子ちゃんのお陰だね」





寒すぎる筈の彼女の身体を自らも離さないようにぎゅうと抱き込んでやれば
彼女は僕が温かくて離したくなくなったのだと勘違いして僕の腕の中で満足そうに笑う
全く……本当に君は僕の言葉は全て信じ切っちゃう馬鹿で愚かで単純な人間だ。





けれど





けれどそんな君の嬉しそうな笑顔は本当に
僕の胸の奥を暖かにさせるから不思議





これが君達の言う心と言うものなら
身体は冷え切ってしまったけれどその心は君のお陰で十分暖まったと思うんだ





「花子ちゃん、あったかいね。ありがとう…んふっ」





僕の半分嘘で半分本当の言葉に
彼女は笑う、嬉しそうに笑う





そんな彼女の表情を見て
僕は胸元のぬくもりがじわり、広がる感覚にくすぐったさを覚えながらも
小さく間抜けなくしゃみをひとつ落とした



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