僕の様な男


私の傍には背の高くて美しい、まるで僕のような男がいる




「嗚呼、今日も良く寝た」



「ふふ、おはようございます花子さん。今日も随分とよく眠っておられましたね」




「ええ、お陰様でね」




大きな欠伸をして起きるのは深夜一時
この時間に起きる様になったのはいつからだろう
すぐ傍で響いた低くて甘い声にちらりと視線やればぱちりとその真紅の瞳と交差して溜息ひとつ。




「おや、私の顔を見て溜息だなんて酷いお人ですね」




「何言っているの?レイジ。憂鬱な夜だもの溜息ついて当たり前よ」




「其れはいけません。花子さんの心に霧がかかってしまっては私が困ります。」




張り付いた笑顔に本日二度目の溜息を付けば
彼は……レイジは眉下げて今日は私のご機嫌を取らないと、なんて呟いてしまうからまた溜息
本当にこの逆巻レイジと言う男、欲望に忠実な生き物である。




「今日の御召し物は白のシフォンドレスをご用意しました。嗚呼、勿論アンダードレスも忘れずに」




「………レイジってほんっとうに趣味悪いよね」




「ふふ、聴き飽きましたよそんな言葉……嗚呼、その前に入浴を済ませましょうね」




目の前に差し出された胸元まで大きく開いている美しい純白のドレス
デザインは可憐なのにその開き具合がなんともアンバランスで今度は苦笑。
けれどそんな私お構いなしに彼はこの体を軽々と横抱きしてバスルームへ向かう
途中「体重、落ちましたか?」と、問い馬鹿みたいに今夜の晩餐を考えながら。





「入浴剤もボディーソープも全て薔薇の香りで揃えましたよ」



「はいはい、ご苦労様ーってくすぐったいよ」



「タオルなどで洗ってしまえば肌が傷付いてしまいますから…」




噎せ返る華の香りに満ちたバスルームで当たり前のように私の身体をその手で洗って来るレイジに
くすぐったさを覚えて身を捩るも譲らない彼は我慢してくださいと苦笑して隅々まで丁寧に身を清めてくれる
本当に……本当にこいつは念入りな男だ。





「さぁ、花子さん。食事の時間です」



「……………、」




綺麗に身体を洗われ、用意された純白のドレス纏えば
其れが合図だと言わんばかりにいつもの台詞。
その瞬間私は彼の前に静かにドレスの裾を摘まんで淑女の真似事をしてこれまたいつもの如くそっと頭を下げる




「レイジ………いえ、レイジ様。どうぞ今宵も私の血を召し上がってください」




「ええ、勿論です。その為にこうして貴女の身体を手入れして差し上げているのですから」




「あ…っ」




私の言葉にその真っ赤な瞳は満足気に弧を描き
手首を掴んでぐっと強い力で引き寄せられてしまう




逆巻レイジ、彼は吸血鬼




私が深夜に起きる様になったのは彼の生活に合わせているから



私が憂いて焦るのは気分によって血の味が変わってしまうから



白のドレスを着せるのは零れ落ちた赤が残酷な程映えて美しいから



胸元まで開いているドレスなのは彼が牙を突き立てやすいように



肌を傷めないように洗うのは牙を突き立てる感触が不快なものにならないように




全ては私の為ではなく彼の為
彼がいかに有意義に「餌」を楽しめるか、其れだけだ




勿論私の体重が軽くなったのは彼が昨晩酷く酷くこの血を吸い上げたから






本当の僕は私
私は彼の為だけに生き、彼の為だけに死ぬ





「レイジ様、」




「ええ、今宵もとても芳醇な香りがします……きっと変わらず貴女の血は極上なのでしょう」




うっとりとした眼差しで早く吸って欲しいと懇願すれば
彼はそっと私の首筋に舌を這わせそのままぶつりと私の皮膚を貫いた




ぽたり、ぽたり
零れる赤が白を穢していく





嗚呼、私が彼に魅入られてからどれ程の時間が経ったのだろう
そんな事を考えながらも器から吸い上げられる血の量に今宵もぷつりと意識を手放した





私の傍には背が高くて美しい管理者がいる




今宵も彼の手で手入れされ、捕食され、一日が終わるのだ。
そう、私は彼の餌であり僕




貴方の為にこの血の器を良好に保ちましょう



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