月浪カルラを所望します!


「まさか風邪とはな……所詮始祖王の女と言えど脆い人間と言う訳か」




「仰る通りです所詮私単なる生ごみで呼吸をして二酸化炭素を排出することさえ許されなく糞雌でございます…ううう」




「…………」





今朝起きて身体が酷く怠くて視界も歪んでおかしいなと思い熱を測れば其処に知るされた数字はきっかり「40」。
日頃何だかんだで疲れているのに更に無理をして…が祟ってしまったようで
今日は無理だと先程会社に連絡を入れたら何処から嗅ぎつけて来たのか私の最愛がドアをお得意の魔力でぶち破って乱入してきて今に至る。




いつもならカルラさんが登場してくれたらテンションうなぎ上りで迷わず彼に抱き着くけれど
いつもなら彼の辛辣な言葉全てご褒美として受け取り大興奮してしまうけれど…
けれど……





「所詮私なんてホント、カルラさんのお慈悲で始祖王の女にしてもらった何も魅力のない豚野郎ですから…ええ、所謂メス豚ですよユーマ君の養豚場に入れてもらうしかない」





今の高温で弱り切った身体と心ではそれも儘ならない。
彼に抱き着いてはしゃぐ気力もなければいつものようにその棘しかない言葉で喜ぶ心も持ち合わせていない。
今の私はこうして布団の中に潜り込んでいつも以上に彼の言葉を拾い上げネガティブな発言を掠れた声で落としまくる事しかできない。





まぁそもそも彼女に向って先程の様な辛辣な言葉を掛けるのもどうかと思うが
今日は其れが一層心に響いてしまうようで、ひたすらに布団の中で呪詛の様に後ろ向きな言葉を並べていれば
不意にベッドが少し沈んでぽふりと上に何かが乗った感触がしたので、ひょっこり顔を出してみれば
彼が私の傍に腰掛けて優しく、ゆっくりと撫でてくれていたのだ。






「カルラさん、」




「花子、貴様の頑張りを私は知っている……愚かで無知で愚鈍ながら……いや、今はこんな言葉を言ってしまえばまた妙な上げ足を取られそうだ」




穏やかな声色ではあるがやはり辛辣な言葉達を並べられて遂にじわりと涙を浮かべてしまえば
彼は少し困ったように眉を下げて笑ってその言葉を途中で切断してもう一度…もう一度初めから
今日の私に合わせた飛び切り甘い言葉をゆっくりと、確実に捧げてくれる





「花子は毎日、慢心せずに頑張っている……そんな貴様が今日高熱を出して倒れたと聞いた。だから私は此処にいる」




「え、あ、う…」




「くく、熱で頭が回らないか?やはり貴様は愚か……いや、可愛らしいと言っておこう」





突然の、しかもこんなの滅多に見れないカルラさんの優しいデレに
発熱した頭はついていけず彼が言いたい事を察することが出来ないでいれば
カルラさんは可笑しそうに笑って両手で私の頬包んでそっと触れるだけのキスをひとつだけ落として微笑んだ





「愛しい貴様が倒れたと聞いて心配して飛んできたと言っているんだ……ほら、何か欲しいものはあるか?私が全て用意してやろう」




その言葉を聞いた瞬間の私の体温は恐らく沸点を軽々と超えただろう
だって、だってだって!いつも辛辣な言葉しか言わない彼が…あの始祖王月浪カルラが私を心配してこうして飛んできたと言うのだ
そんなの……熱があろうがなかろうが後ろ向きな考えは全てこの瞬間自身の中で消し炭である。





「風邪っぴき花子ちゃんは!!!月浪カルラ様を!!所望します!!!」





風邪で痛めまくった喉から出た其のかすれ切った言葉は自室の外まで響き渡り
その雄叫びで全ての力を使いつくした私の意識は其処で度切れ
驚いたカルラさんがシン君や和解したカールハインツ様を呼び出して大騒ぎになってしまったと聞いたのは自身の意識が戻った後だった。




普段一切デレない男のデレと言う者は
風邪人の意識を飛ばすには十分な威力があると言う事をまざまざと思い知らされた一日…
嗚呼、けれど……





けれど、あんなカルラさんが見れるのならまた40度の熱を出してもいいかもしれないと
思ってしまったのは私だけの内緒話だ。




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