眼鏡に嫉妬


私はシン君が大好き。
勿論シン君だって私の事が大好き。
だから私たちはいつだって仲良しカップル……な、筈なんだけど





「ほーら、見てみなよ花子…この眼鏡、格好いいだろ〜?新型!」



「……………へぇ、イイネカッコイイ」




目の前でご機嫌に微笑むのは私の最愛、シン君
そしてそんな彼の浮かれた声にこたえる自身の声色はこれ以上にない位にイライラしているものだが
新型の眼鏡を手に入れた彼にはそんな些細な変化にさえ気付いてくれない。



今、愛しい彼の腕の中には私ではなくその新型眼鏡。




「あれ?花子、どうしたのさ、ちょっと不機嫌?下等種族のくせに一人前に不機嫌になる訳?」



「…………」




漸く私の様子がおかしい事に気付いた彼だけれど
やはり新しい眼鏡に浮かれているのかその新作眼鏡を身に着けてニコニコした笑顔でビスビスと強めに頬をつついてきちゃうので
次第に私の顔面にひとつ、またひとつと青筋が浮かび始めてしまう。
そして遂に我慢の限界を迎えた私は勢いよくその新品の眼鏡レンズに向けて私の渾身の人差し指が牙を向く。
ねぇねぇ、もう何時間そうやって私にオニューの眼鏡自慢してると思ってんの?





ビスッ




「!?いったぁぁぁ!?」



「さっきからめがね眼鏡メガネって何だお前はレイジ君か!!」



「はぁ!?俺をヴァンパイアなんかと一緒にしないでよね!!いくら花子でも許さな…っ」



「うるっさいよ!!」




ズムッ!!




「だから痛い!!!!」




さっきから浮かれまくって私にその新しい眼鏡を自慢しまくっている彼のレンズを思いっきり押してやれば
その衝撃で鼻の部分が思い切り彼の顔にめり込んで偉大なる始祖様らしくなさすぎる間抜けな声をあげちゃったシン君に対して今まで我慢してた事をぶちまければ
お約束通り帰ってきた彼の反論に再び青筋を浮かべながら再度もっと強くレンズを押すと再び響き渡る断末魔とべっとりとついた指紋に満足気に笑みを浮かべる。




ざまぁ見ろさっきからメガメ眼鏡煩いからこうなるんだ……やかましい彼氏にお灸を据えれて満足して横目で見れば
彼がもう一度眼鏡をはずしてそれを大事そうに両手で扱って必死に私の指紋をぬぐっていた。





違う





其処は眼鏡の場所じゃないでしょ





「花子?」




「…………、」




無言で彼の手からその彼曰く新作オシャレメガネを取り上げて
じとりと顔を見つめれば何をしたいのか分からないと言った表情でこちらを見つめ返すのでむっと表情を顰める。
なんなの、偉大な始祖様なら下等種族の女の子の気持ち位察しなさいよ。





「え、え、あれ、花子?えっと、何?」




「さっきから眼鏡めがねばっかり煩い……それにシン君の手は眼鏡のお手入れにあるんじゃないの」




すっと彼の胸元に滑り込んでさっきまで眼鏡を愛でていた手をぎゅうと握って見つめて
鈍感すぎる始祖様に漸く胸の奥底の本心を紡げばその顔はゆっくりと緩んでだらしなく微笑んじゃうもんだから
心の奥で偉大な始祖様が台無しだなぁと呟くけれど、私はこの表情のシン君が大好きで仕方がない。
だってこの顔は始祖様の彼ではなくて、私の彼氏であるシンくんの表情だから




「!馬鹿だなぁ……モノに嫉妬とか流石花子は下等だよね」



「…………煩いよ」



「はいはい、ごめんって……あ、でも眼鏡無いから花子の顔よく見えないなーっと、」




私の大人げない言葉にクスクスと笑いながら酷い事を言うけれど
その手は優しく頭や頬を撫でてくれるから少し恥ずかしくなって照れ隠しに悪態をついてしまう。
そんな私を見つめていた彼がもっともらしい理由をつけてずいっと唇と唇が触れ合いそうな距離まで近付いてきてしまったので思わず頬を染めてしまう。
だって視界一面に好きな人の顔だなんて……流石に照れて当たり前だもん




「かーわい」



「んぅ!?」



「あはっ、びっくりした?嫉妬させたお詫び…ありがたく受け取りなよ?」




照れてしまっている私を暫くじっと見つめていた彼が小さく笑ってそっと動いた瞬間
数センチだった私と彼の唇の距離はゼロになって、ちゅっと可愛いリップ音が響き渡り今された事を自覚してしまえばもう駄目だ
さっきまで威勢よくレンズに指紋つけたりシン君に暴言吐いていたとは思えないほど顔を赤くして恥ずかしくて嬉しくてそのまま彼の胸に顔を埋めてしまう。
うう、ホント私ってチョロイなぁ…さっきまで眼鏡にシン君取られてイライラしてたのに今はとっても胸が暖かいや。





「花子、ご機嫌なおった?」



「ん、なおった……」



「だよねーやっぱこの俺がここまでご機嫌取ってやってるんだから当然……ってうそうそやめてやめて眼鏡割ろうとしないで眼鏡無いとホントまずいからごめんなさい」





相変わらず一言多い彼の腕の中で眼鏡に手を伸ばそうとするけれど
流石に破壊されるのはまずいと焦ったのか必死に私を抱き締めて離さない彼に聞こえないように小さく笑いを零す。
全く、眼鏡をかけてるシン君は格好良くて素敵だし…新しいの買えて喜ぶのも可愛いけれど程々にしてよね




「やだ、シン君が私より眼鏡ばっかり構うから眼鏡壊しちゃう」





でないとこうしてシン君大好きな私が拗ねちゃって
シン君と眼鏡に酷い事しちゃうんだからね。






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