天使で魔王で神様で


「シュウさん、今日は天使の日ですって!さぁ私の事を存分に、」


「言う訳ないだろ調子に乗るな」



「せ、せめて最後まで!最後まで言わせてくださいシュウさん!泣きそう!」



今日も今日とてベッドの上で心地よさそうに微睡んでいる彼に対して思い切り勢いを付けて多い被されば「う、」と少し苦しそうな声を上げでその綺麗な瞳を先程より大きく開き、私を見つめてくれるシュウさんに早速いつものオネダリをしようとすればこれまたいつも通り言葉の途中でバッサリ切られて涙目花子ちゃん。



ぅぅぅ……せめて最後まで言わせてください悲しいじゃないですか。




「うわぁぁん、いいじゃないですかシュウさん私の事俺の愛しきマイエンジェルスイートハートって今日位言ってください将来誓いあった仲でしょー?」



「そもそも花子は天使って柄じゃな……っておい、何だそれ天使の前後2気持ち悪い単語付いてるぞ死んでも言わない」



「ちくしょう!たまには、偶にはラブラブカップルしたいのにー!」



彼と私は所謂恋仲より少し先に進んだ関係で、今日はお休みだからこうしていつも通りベッドでまったりな彼だけど
普段はお父様の跡を継いだから何気に公務に大忙し……私と将来を誓う前とは本当に大違い。
それもこれも、私と一緒になる為にお父様から出された条件なのだけれど



私はイブではなく普通の人間だからと
だったらせめて周りに何も言わせないように跡を、と



今まで跡を継ぐなんて死んでも嫌だと言っていた彼なのにその条件を出された時、どうしてか二つ返事で承諾してしまったシュウさんを私は今でも忘れることが出来ない。



だからこうして偶にある休み位
他のイチャラブ甘甘なカップルみたいにしたいなーって思ったんだけどなぁ




「うー……天使って呼んでくださいシュウさん、そしたら私もなんだいエンジェルって返すんで」



「気持ち悪い」



「ひどい!っと、うわぁ!?」


ベッドのそばでぐすぐず駄々をこねていれば返ってくるのは辛辣な言葉のみで、思わず大きな声で喚くと逞しい両腕が私の体を捉え、そのままベッドへと引きずり込んでしまう。




「だから、あんたは天使なんかじゃないって何度も言ってるだろ……むしろ魔王」



「え、え、魔王……ですか?」



「よーく考えてみなよ、あんたに出会ってから今までの俺を」



すっぽりと彼の腕の中に収まってしまい、モゾモゾと動きながらもシュウさんの言葉に首を傾げるけれど、続いた言葉に素直に彼の現状と言うかココ最近の出来事を振り返る



私に出会うまでシュウさんは何事も無気力で無関心で……常に何処かで眠っていて本当に呼吸をしてるだけの……言うなら生ける屍のようなひとで……


でも私と出会って私が彼を思い切り振りまわしてシュウさんもそれに応えるまではいかなくとも何だかんだで付き合ってくれて……想いが通じあって愛し合い、今ではとても多忙な身……
きっと彼は私に出会わなかったら緩やかな時間の中、ただ穏やかに息をしているだけで済んだのに



私と出会って
私と恋をして
私と愛を知ったから




いま、彼は目まぐるしい時間の中を「生きて」いる




「シュウさん、嫌でした?」



「嗚呼、嫌だな……俺はいつだって眠っていたいのに……ったく」



「うー……」



彼の腕の中でおずおずとその変化を嫌っているのかと問えば肯定の台詞に思わず涙目になってしまうけれど、溢れそうになったそれは寸前で彼の唇によってちゅっと可愛いリップ音と共に吸い取られて消えた。




「しゅ…………?」



「嫌なのにどうしてだろうな……花子、あんたと共に在れる為なら苦じゃない」



「う、う、う」




「俺を根本から変えちまったあんたが天使なんて生温い生き物な訳がない……ねぇ、花子、あんたは何者?魔王?それとも神か何か?」


何度も愛しげに頬をなでながら問うてくる彼の瞳に映る私はとても嬉しそうな顔をしている
そうか、私と言う存在がシュウさんの考えそのものを変えちゃったのか……



それって何だか、とても嬉しい



そっと私の頬を撫でるその手を取って静かに指をからめて今の気持ちを表情へと表す……嗚呼、きっと私は今、幸せに満ち満ちているのだろうな



「シュウさん、私は魔王でも神様でもないです」



「天使でも?」



「えへへ、そうですね……私は」



私の言葉に少し意地悪に聞いてくる彼に思わず声を漏らして笑ってしまう。
そうだなぁ、私……やっぱり天使じゃないや




「シュウさん、私……私はどこにでもいるただの人間です」



「ふはっ、只の俺達の餌か……なのに怖いな」



「ええ、怖いんですよ?」




ぎゅぅぅと私の体を抱き込んでくれる彼の腕が少し苦しいけれど心地よい……
私は天使や魔王や神様みたいなあまっちょろい者じゃなかった



こうして、愛する人を根本から変えてしまえる愛情をもった人間だった



「んん、でもやっぱり天使って言って欲しかったなぁ」


「しつこい」


「いたい!」



うまく丸め込まれてしまった自身に少し不満気に漏らせば彼渾身のデコピンが額を直撃したので大きな声を上げる



うん、今日も全てが変わった吸血鬼と、そんな彼を変えてしまった人間は割と平和に過ごせてる。



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