愛情、怠慢、唐辛子


ケーキにキャンディ、
アイスクリームにキャラメルソース





どれもこれも私の好きなものは
最愛の味覚には程遠い…





「ううう、こんなにも愛してるのにさっぱりだ!!」





ごちんと、机に額を打ち付けて自身の不甲斐なさに涙を浮かべてしまう
今日は私の愛しい愛しいアズサ君のお誕生日…
彼の為に大好きな七味唐辛子をプレゼントしようと思い立ったのはいいけれど






「そうだよ……辛いものに全く興味がないんだからこんなもんだよ泣きたい」




突っ伏した目の前に広がるのは彼の大好きな七味唐辛子の山
けれどぜーんぶ、そこらのスーパーで売っているものばかり。
私が好きなのは彼と正反対の甘い甘いスイーツばかりなんだからこの結果は当たり前と言えば当たり前なんだけど…





「分からない、七味なんてどれもこれも同じに見える…く、くそう」



折角の誕生日なんだし、ちょっといい七味をプレゼントしようって考えまでは良かったが
辛いものに興味が全くない私としてはどれがどういいかとか、何が違うのかとかさっぱりで…
そもそも七味専門店とかがあるかどうかさえ分からなくて手あたり次第買っては来てみたものの
そこら辺で手に入るこれらを誕生日プレゼントなんてなんの嫌がらせだ送るのは最愛アズサ君って言ってるだろ





「あああ…けどいつも食べないものって大体こうなるよねー……って」





今年のプレゼント選びは大失敗してしまったと嘆いていてふと気付く
いつも私と一緒にスイーツ選びに付き合ってくれてるアズサ君の事





“ねぇ……花子、さん………このケーキ、とっても可愛い…花子さんに、似合うよ?”





“花子さん……これ、どう……かな?カナトさんに聞いたんだけど……凄く、珍しい…キャンディだって”





いつもいつも、甘い香りだけでも苦手だろうに嫌な顔一つせず付き合ってくれるどころか
甘いものなんて全然興味ない筈なのに私の好きそうなスイーツを選んでくれたり、カナト君に事前に聞いて情報を知っててくれてたりする。
それって………それってなんだか





「私が好きなモノだから頑張って色々してくれてるみたい…」





ぽつりと言葉にした瞬間それはみるみる自覚の意識をもって
ぶわわと、顔は真っ赤になり胸の内もむずむずくすぐったくなる
うん、きっとアズサ君は私が甘いの大好きだから一生懸命頑張ってくれてるんだ……
あ、どうしよ…私すごく愛されてる…





「それに比べ…」




チラリと視線を動かして目にするのは
大量生産であろう七味唐辛子の山。




私は自分の好きなモノばっかりで
アズサ君の好きなものに関して全然知らない…




「………よしっ」




一つ息を吐いて表情を引き締めて勢いよく立ち上がり目指すは最愛がいるお部屋
アズサ君、アズサ君ごめんね?
私、馬鹿だからアズサ君のそう言うさりげない愛情に気付かなかった…




「アズサ君!!!」



「?花子さん……?どう、したの?」




勢いよく扉を開いけばその衝撃に驚いちゃったのか
ビクリと身体を揺らせてこちらを振り返る彼にぐっと胸から愛しさがこみ上げる。




アズサ君、いつもありがと…
私の事気にかけて、愛してくれて
だから、だからね?
私もその分…それ以上をアズサ君にあげたいの




けれど、ごめん
今まで貴方のさりげない愛情に甘えてきたから…
つかつかと彼に歩み寄り、ぎゅうとその手を握って情けなさすぎる懇願をひとつ。



これから……これからもっともっと貴方だけでなく、貴方が好きなものも知る努力をするから今年はどうかこれで許してね




「アズサ君ごめん!アズサ君の誕生日プレゼントに七味唐辛子プレゼントしたいんだけど、どれがいいかさっぱり分かんない!!一緒に選んでくれる!?」




「!花子さん………俺に、プレゼント…くれるの?嬉しい……うん、一緒に選ぼう?選んでる間も……花子さんと一緒……ふふ、プレゼント、ふたつだね」



唐辛子の知識がゼロなんだったらもう本人にアドバイスをもらいながら一から探すしかないと
本日主役なのに一緒にプレゼントを選んでくれと情けないお願いをすればどうしてか彼は酷く嬉しそうにプレゼントが二つだと喜ぶ
プレゼントが二つ?どういう事だろ……疑問に思いじっと彼を見つめれば
アズサ君はとても嬉しそうに、幸せそうに笑って私の疑問に応えてくれた。





「俺……七味も、好きだけど…花子さんは、もっと好き……だからそんな花子さんと、七味選べるの……嬉しい、から」




「………………アズサ君ってそう言うとこあるよね」




「?」



今日は彼に沢山の愛を上げる筈だったのに
こんな日でさえ彼はそうやって私に愛されているのだと自覚させる。
本当に、全くもってこの愛しい彼には適わない




どうして私が顔を真っ赤にしているのか分からないと言った様子で覗き込んでくる彼に
ひとつ、咳払いをしてぐいっとその手を引っ張った。



「ほら、アズサ君いこ?誕生七味デート」



「ふふ、面白い……名前、ん……行こうか…行きつけの専門店……そこに、おいしいの…あるんだ」



「やっぱり専門店ってあるんだ!!!」




そのままぎゅうっと手を握り合って
私の今までの愛情の怠慢から始まってしまったデートはゆっくりと幕を上げた
アズサ君が大好き過ぎて本人ばかり見ていてごめんね、
気の利かない彼女で申し訳ないなぁと思いながらも来年はひとりで彼の好きそうな七味を選べたらなぁ…なんて





「(…………けど)」





隣で本当に嬉しそうに微笑んでいるアズサ君を見つめて
やっぱり来年も一緒にプレゼント、選ぶデートをしてもいいかもしれないと思う。




きっと彼にとっては私と過ごす時間も
とても嬉しいものなんだろう…




なんて酷く自惚れた事を考えてしまった昼下がり





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