08:不思議な誕生日


ふと目を開ければ目の前にはどうしてかシュウさんの顔
更にどうしてかわからないけれど私をぎゅうと抱き締めて眠ったままだ
いつも見てるはずなのにそれが酷く懐かしく感じてしまうのはどうしてだろう





「というかなんでシュウさんの部屋なのにベッドで寝ないで床で寝てるんだろ」




じっと未だに眠る彼を見つめながらも抱いていた疑問をふと口に出してしまう。
大体シュウさんは何処でも寝るけど同じ寝るならやっぱり寝心地のいい所が好きだからこうして部屋にいるときは大体ベッドで眠るはずなのに今は床だ
しかもこうして私を抱き締めて……あれ、昨日なんかあったっけ?




「というかなんかちょっと長い夢見てた気が………ってうおわああああ!?」




「ん………んぅ、なんだ煩い……って花子か。どうしてあんたが俺の腕の中にいるんだ俺がねてる間に忍び込んできたのかド変態というかなんで床…」




「ちょっとシュウさん私仮にも最愛なのになんでそんな辛辣な言葉ばっかり懐かしい…ってあれ?懐かしい?」




もぞもぞと彼の腕の中で携帯を見てみればそこに表示されたのは10月18日と言う日付と珍しく朝早い時間。
思い出した!そうだ私シュウさんの誕生日が近いから、誕生日何してほしいか聞くためにこうして彼の部屋を訪ねて…
あれ?それからどうしたっけ……ううん、よく覚えていないけれど多分そのまま寝ちゃったんだろうな。
というかやっぱり長い夢を見てた気がするからきっとシュウさんの部屋に入るや否や爆睡でもしちゃったんだろう…
まぁ今はそんな事より誕生日!シュウさんの誕生日だ!!嗚呼、事前調査して準備しようと思ったのに結局当日になっちゃったよ!!




色んな感情が入り交じり、思わず大きな声をあげてしまえばようやく目を覚ましたシュウさんが
酷く不機嫌そうな顔と声色で懐かしすぎる辛辣な台詞で私のガラスハートを抉り始めたので思わず真顔になってしまうけれど
んん?どうして懐かしく感じるんだろ……私は毎日シュウさんに酷い言葉しか投げかけられてないのになぁ。





少し自身の中の違和感に首を傾げながらも当日になってしまって時間がもったいないと
勢いよく飛び起きてぐいぐいと彼の手を引っ張って必死にその身体を起こそうとする。
シュウさん、シュウさん、私今年はなんだかあの子の分もシュウさんをお祝いしないといけないんです






あれ、あの子って誰だ?





「シュウさん、お誕生日おめでとうございます!!今年も愛して愛して愛しぬきますよー!!!」




「くぁ……そんなの誰も頼んでないだろ…花子が勝手に、一方的に俺を愛してるんだ……それに何度も言うように誕生日とかどうでも……、…?」




「シュウさん?」



何とか彼の身体を起こしてぎゅうとそのまま抱き着いて毎年の如くお祝いの言葉を捧げる
するとやっぱりシュウさんも毎年のように最高に素直じゃない言葉を返してくるんだと思ったのにそれが途中で止まってしまったので
どうしたんだろうって思って彼の顔を見上げればシュウさんはくたりと首を傾げて何かを考えていた。





「花子、」




「?、?はい?」




「………………………ありがと」





「!?」



普段とちょっと違う彼の様子をじっと伺っていれば
この日……彼の誕生日に初めて聞いた感謝の言葉に思わず目を見開いてすごい勢いで彼の額に自身の手を当てる
シュウさんが……あの誕生日とかどうでもいい祝いたいなら勝手に祝ってろスタンスのシュウさんがお礼とか絶対におかしい熱があるに違いない!!
そう思って彼の体温を測ったけれど彼の額はいつも通りひんやりクールのままだ。





「ど、どういうことだ…おかしい、シュウさんがおかしくなった。」




「花子、失礼過ぎ俺はいたって普通だから……………何だか言いたくなっただけ。」




「そ、そうですか……あ!そうだシュウさん、シュウさん今日してほしいことありますか!?お誕生日だから何でもしちゃいます!!」




いつもとちょっぴり様子のオカシイ彼に戸惑いを見せるけれど
それ以上にこうしてシュウさんからお礼の言葉をもらえる事実が嬉しくてによによと表情を緩めながら彼の部屋を訪ねた本来の目的をようやく口にできた。
まぁシュウさんの事だから血吸わせろーとか寝かせろーとか、普段煩いから黙ってろーとか言われるのは目に見えてるけどさぁ
それでもやっぱりシュウさんから望みを聞きたいと願う私は我儘だろうか。




毎年の誕生日なら本当にほぼほぼ即答でそれらの答えを返すはずなのに
またシュウさんは何かをじっと考えてどうしてかそっと私の手を取って予想外過ぎる言葉を口にした





「遊園地、行って…………帰り、カフェ行きたい。」




「シュウさん本当にどうしたんですか頭でも打ったんですか大丈夫です?」




「俺もよくわからない……分からないけれど、どうしてか花子…今日はあんたとそれで過ごしたい」




紡がれたその言葉は本当にシュウさんらしくなさすぎる答えで
いよいよ眠りすぎで頭がおかしくなったのかと思ったけれど、どうしてかその答えに私は酷く懐かしさを感じてしまって
何だかおかしくなったのかもしれない彼の心配よりその望みを聞いて胸を躍らせてしまっている。




嗚呼、今日は私もシュウさんもちょっとおかしいかもしれない





「シュウさん、シュウさん…何だか今日私達変ですね」




「嗚呼、確かにおかしい……けど考えるのめんどくさいから誕生日の所為って事にしとく」




「えへへへ、そうですね誕生日できっと浮かれちゃってるんですね」




「認めたくないけどな、ヴァンパイアが誕生日に浮かれるとか」




ぎゅうと手を繋いだままその足を珍しく遊園地へと向けながら二人で言葉を交わす。
あれ、こうしてシュウさんを見上げるのも久しぶりかもしれない。






『花子さん………“僕”も花子さんがだいすき』





不意に、頭の中で誰かのそんな声が響いた気がした




「シュウさん、あの」




「ん?何?花子」





不意に珍しい場所へと進める足を止めて私の腕を引っ張る彼に問いかける
あの時……あの子はああいってくれたけれど……今、今のシュウさんはどうなんだろ
『あの子』が誰なのかはどうしても思い出せないけれどこの疑問は彼にぶつけたいと、じっと振り返って首を傾げる彼に言葉の続きを紡ぐ
ねぇシュウさん……今のシュウさんは、どう思ってくれてますか?





「シュウさん………シュウさんも私の事、だいすきでいてくれてますか?」




「いや、俺はあいつと違って花子…あんたを愛してる。」




「!はい!!」




互いの言葉に疑問を抱く単語があるけれど
疑問に抱きながらもそれがしっくりと腑に落ちるからこのまま追求せず、彼の返答に満足気に笑みを浮かべ再び足を進める





今日はちょっと私もシュウさんもおかしなことばかり
けれどどうしてか私も……きっとシュウさんもそれがおかしいと思いながらもおかしくないと思う。
その二つの考えは酷く矛盾を起こしているけれど、きっとこのままがいいんだろうなぁ…そう思うんだ。





「シュウさん、シュウさん、私、今年は二倍お祝いしたいです……よくわかんないですけど」



「今年は二倍煩いのか……誕生日が災難になりそうなんだけど」





ぎゅっと繋いで歩く道
何処かで小さな子供が嬉しそうに笑っている気が、した









「確かに永遠を生きる我々ヴァンパイアにとって誕生の日を祝うなど無意味かもしれない」




楽園(エデン)で独り、使い魔越しに普段なら考えられない二人の出かける姿を眺め楽し気に笑う男
その笑みはまるで一つの物語を読み終えたように穏やかだ。




「けれど、………たまにはこのような誕生日も悪くないだろう?」




覚えていない筈の記憶から珍しい場所へと行きたいと望む自身の息子を見つめ、
覚えていない筈の幼子を想ってその子の分まで祝いたいと張り切る娘の笑顔を見つめ、
彼は笑う……誰にも気付かれないように小さく笑う





「シュウ、誕生日おめでとう……幼いお前も、きっといい思い出を作れただろう」






全て周りの言う通りにしてきた、諦めてきた幼い自身の息子に与えたのは一握の希望
きっとこれから先、酷く苦しくて辛い事ばかり起こるだろう
けれど、それでも生きていれば……生きてさえいれば数百年後、こうして全てを愛してくれる最愛に出会えるのだと
記憶は消してしまったけれど、こうして今の彼が欠片でも覚えているようにその想いを留めていればと彼は切に願う




「どうか幸せに……きっと、こんな事今更都合が良すぎると言うだろうから直接は言えないがね」




誰もいない楽園で息子の手を取り幸せそうに微笑む彼の最愛と
彼女につられてまんざらでもない、今まで見せたことのないような穏やかな彼の表情を見つめ
そんな二人の背中を遠い場所から見送るその顔はまさに…




「花子君、私の息子を愛してくれてありがとう」




その言葉は
その笑みは
偉大なヴァンパイア王の物ではなく





只々、息子を案ずる父親のソレだった事はまた別の話





-fin-



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