素敵な味をプレゼント
「こ、これは何処かの企業から特別に取り寄せた代物でしょうか…?」
「そんな訳ないでしょう。私の手作りですよ。」
「レ、レイジさんの女子力高すぎて私は女をやめてしまいたい!」
女の子がチョコに愛を込めて大好きな人にそれを贈る日、私はなんと愛しのレイジさんから小さくて上品にラッピングされた箱を渡された。
ドキドキしながら開封してみれば、そこにあったのはとても可愛らしいチョコ細工のクラウン。
そこだけまるで御伽の世界のようで思わず息が止まった。
「うええん、食べるの勿体無いですよコレ…」
「馬鹿を言っていないでお食べなさい。貴女の為に作ったのですから。」
コツンと額を小突かれてそんな台詞。
もう、レイジさんは私を赤面させる天才である。そんな私の反応を見てレイジさんはクスクスと嬉しそうに笑う。
「花子さんのその顔、好きですよ。…私だけが貴女を愛しているのではないと安心させてくれる…」
「え、」
何ソレ…何ソレ!
嬉しくて恥ずかしくてくすぐったくて心臓が先程から酷くうるさい。
彼の好きだと言う真っ赤な顔で固まってしまっていると可愛らしい音を立てて鼻先に唇を落とされてしまった。
「レイジさ…っ、」
鼻先同士がコツンと触れ合って、困ったような嬉しそうな表情の彼は普段より浮ついた口調で言葉を紡ぐ。
「私はね、必死なんですよ。貴女に愛される為に、努力を惜しみません。だから先程から隠しているソレ…頂けますよね?」
片手で後ろに隠していた不格好な手作りチョコにちょんと触れてニッコリと彼は笑う。
けれど私はすんなりこれを渡すことが出来ない。
「無理ですよ…だって、レイジさんのチョコみたいに綺麗じゃないし…味だってどうだか、」
チラリと彼お手製のチョコクラウンを見つめる。
まるで本物の王冠の様に綺麗に輝く姿はとても眩しい。けれどレイジさんは渡さないと言う選択肢を華麗に踏み潰してくる。
「ねぇ、花子…オネガイ」
そんな、そんな…
今までそんなレイジさんからおねだりなんかした事無かったじゃないですか。
どうしてこんな時にそんな事言うんですか貴方は…
もう観念して差し出してしまえばそれはひょいっと彼の手へと渡ってしまう。受け取ったレイジさんは酷く嬉しそうでこちらが恥ずかしくなる。
そして中身を取りだして私の手作りチョコは彼の口の中へ放り込まれ、暫くしてから彼は困ったように笑うから、酷く不安な感情が心を支配する。
「あの、やっぱり…おいしくなかった、ですか?」
あ、だめ…不安で、怖くて、悲しくてどうしても声が震えてしまう。
けれどレイジさんはそんな私の頭を優しく撫でてくれて未だに困った笑みを崩さない。
「いいえ、コレは私がもっともっと努力をして素敵なものを作らなければと、思っただけですよ。」
「え、どうして…だって、レイジさんのチョコ…」
こんなに素敵で、綺麗なのに。
台詞の途中で彼のキスで塞がれた唇は、そっと離されて残る甘い香りに熱を帯びてしまう。
「ね?花子さんの愛情がたくさん詰まっていて体の内側から溶けてしまいそうな程、素敵な味でしょう?」
「わか…わかん、ない…ですよ、」
恥ずかしくて、恥ずかしくて、嬉しくて
誤魔化すようにそう言えば再び触れる唇。
もう私の体温はこれ以上とない位急上昇してしまっている。
「なら、もう一度味わいますか?私の唇越しに…」
「も、もうキスしちゃってるじゃないですか!レイジさんの馬鹿ー!」
「おや、申し訳ない…我慢が効きませんた。お許しください。ね?花子さん…」
意地悪にそんな事を言われてしまって
すごく悔しくて、手がふさがってしまっているので頭でぐりぐりとレイジさんを攻撃してみれば彼はおかしそうに笑う。
「ふふ、痛い痛い。嗚呼、花子さんへの愛おしさで胸が痛いです。」
「うーうーうー!レイジさんの馬鹿…!」
顔を赤くしながらそんな悪態を付けば彼はやはり意地悪に笑って憎まれ口しか出てこない私の唇を指でちょんっと塞ぐ。
「ご存じありませんでしたか?私は貴女に関しては世界で一番愚かなのですよ?」
「も、もう…もう!レイジさん私の事好きすぎるじゃないですか!」
そんな嬉し過ぎる彼からの愛の告白に私の胸はぎゅうぎゅうと締め付けられてもう息が出来ない。
恥ずかしい台詞も態度も全てレイジさんなのに、余裕がないのはいつも私で、彼はいつもの様にしれっとしている。
そして彼はそんな余裕のない私を愛おしそうに見つめて最高の口説き文句を投下する。
「ねぇ、花子。こんな愚かな私をどうか捨てないでくださいね。」
捨てる訳ないじゃないですか。
紳士で女子力高い、時折野獣な私を愛しすぎている愚かな吸血鬼だなんてもったいなくて捨てる訳ないじゃないですか。
「…レイジさんこそ、捨てないでくださいね。」
「おや、愚問ですね。世界が滅んでもこの手は離すつもりはないのですが…」
「ああもう!恥ずかしくて死にそうです!」
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