祝えない


「生まれてきてくれてありがとうって言う日だったけ…?今日。」



「う、うん。ま、まぁ…そう、かな?」




シュウ君の腕の中で苦笑する。
うん、そうだよね。シュウ君達ヴァンパイアには誕生日を祝う習慣なんてないだろうし
彼からおめでとうって言葉を聞きたいだなんて少し、贅沢過ぎたのかもしれない。


今日は私の誕生日で、今までなら友達や同僚にお祝いの言葉やプレゼントをもらって笑顔だった日。
でも今年はこうやってずっと愛しの彼の腕の中で苦笑。
別に嫌じゃないし、幸せだけれど、やっぱり…少しだけ淋しいかもしれない。



ケーキもごちそうも何もない、只々いつもと変わらず彼の部屋で彼の腕の中で一日を過ごす。
なんだかそれが私が生まれてきたこともどうでもいいって言われているようで…


一度マイナスに考えてしまえば止まらない。
折角の誕生日にどうしてこんなに淋しくて悲しい気持ちにならなきゃならないんだろう。
全く、こう言う所、自分の事だけれど本当に呆れる。


ぎゅっと彼の腕の中で体を縮めて下を向いていれば不意に強まる私を抱き締める彼の腕。
どうしたんだろうと疑問に思う前に少しだけ震えていた彼の身体に驚いてしまう。


「シュウ君?」



「またひとつ、花子が離れた。」




彼のその台詞の真意が掴めなかった。
けれど体だけじゃなく、声も震えてしまっているシュウ君を放っておけるほど私は鬼じゃない。


先程までのマイナス思考を頭の片隅に追いやって絡められている腕にそっと手を添えながら出来るだけ優しく名前を呼ぶ。



「シュウ君…どうしたの?何かあった?」



「花子…花子は、何歳まで生きてくれるの」



彼のそんな切実な言葉に全思考が停止した。
嗚呼、そうか…私の誕生日って、シュウ君にとってはそう言う事になるんだ。


人間である私は吸血鬼と違って永遠を生きることは出来ない。
だから私が歳を重ねると言う事はシュウ君との別れが一歩近づいてしまうと言う事だ。



…そうだよね、お別れが近づく日を祝うなんて出来ないよね。




でも私は諦めが悪い方の人間だ。
もぞもぞと彼の腕の中で動いて向かい合って唇にキス。
そして不安そうな彼を安心させるように笑う。



「私、人間やめる。」



「花子、」




彼の瞳がゆらゆら揺れる。
きっと私の言葉に戸惑っているんだろうけれど…これは随分前に決めていた事だ。
只、彼に伝えいるタイミングを失っていただけ。
シュウ君がこんなに不安になっているんだから、丁度いい。




「あ、でも覚醒って苦しいんだよね!?その時が来たらシュウ君、ぎゅってしててくれる?」



「お前、怖くないのか?」



彼のその言葉が、覚醒の苦しみの事なのか、覚醒に失敗して死んでしまうかもしれないと言う事なのか
完璧に人間世界から隔離されてしまう事なのか、永遠に彼に囚われてしまう事なのか分からない。
分からないけれど私の答えはたった一つだ。



「シュウ君を独りぼっちにするのが一番怖い」




私が笑えばシュウ君も不器用に笑う。
うん、この大好きな笑顔を失うくらいなら私は人間のアイデンティティー位捨てちゃえる。


自分からもぎゅっと彼を抱き締めれば私の肩に埋められる彼の顔。
暫くしたらじわりと濡れてしまったけれど、ココは気付かないふりをしてあげよう。




「花子の誕生日なのに、俺がプレゼントもらったな。」




「えへへ、来年は…ていうかこれからは永遠に盛大に祝ってよね。」



別に私の存在ってどうでもいい訳じゃなかったみたい。
寧ろ大切過ぎて祝えなかったようで…
そんな理由ならって簡単に許しちゃえる私は正直単純だけれどそれだけ私もシュウ君を愛してる証拠だからいいかなって思う。




きっとこれから永遠に続くであろう私の誕生日を思って小さく笑えば早速突き刺さる彼の牙に今宵も只々声をあげる。



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