愚者の弱音


別に何があったって訳じゃない。
無いけれど、酷く気分が沈む。
人間だもの、そんな日もある。



「うー…」



ベッドの上で一人空しく唸って溜息。
元気だけが取り柄の私がこんな状態とか、笑える。
今の自分を誰にも見られたくなくて扉の鍵は厳重に閉めている。


「寝よう…それが一番いい。」



そうだ、きっと一度眠ってしまえば次目が醒めたとき気持ちだって切り替えられる。
そう思ってそのままベッドの中へ潜り込めばギシリと自分以上の重さにベッドが大きく沈む。
…きっちり鍵は閉めたはずなんだけどなぁ。



聴こえないように溜息を吐いて、いつも通りとはいかないけれど
それでも笑顔を頑張って作ってがばりと勢いよく起き上がればそのまま彼の腕の中へダイブ。


「どうしたのルキ君ー!ルキ君が私の部屋に夜這いとか珍しいね!!」


「花子、」


いつ通りしっかりと抱きとめてくれた彼に笑顔を向ければ少しばかり歪んでしまう愛しの表情。
そしてそのまま唇を塞がれてしまった。
いつもこんな事しないのにどうしたんだろう…少しばかり動揺してしまう。



「ど、どうしたの?夜這いとかルキ君からキスとか…う、嬉しいけど」



「笑うな、馬鹿。」



遂に怒ってしまったルキ君がコツンと私の額を弾く。
そしてそのまま彼に抱き付いていた私を離さないようにぎゅっと抱き締める。



「ルキ、く」



「最愛を独り泣かせたくなくて忍び込ませてもらった」



ふわりと彼の香りと感触に包み込まれて
安心しきってしまった私は今にも涙腺が崩壊してしまいそうだ。
けれどそんな大した理由もなしに勝手に沈んでいただけなのに彼を煩わせたくない。



「別に大丈夫だって!ちょーっと沈んじゃっただけだし。寝たらきっと直ぐ元通りに、」



「黙れ」



いつもの様におどけて必死に弁解すれば再び塞がれた唇。
ゆっくり離されればどうしてか彼は優しく微笑んでいた。



「今宵は花子の弁解も空元気も聞く気はない。…お前の泣き声しか聞き入れるつもりはない。」


「ぅ、ふ…っ、うぅ…で、も…うぅ〜!」



必死に堪えていてもどうしてもポロポロと数滴涙が零れてしまう。
けれど、それも彼に見られてくなくて両手で顔を覆う。
けれど参謀系ドSはそんな私の抵抗さえも許してはくれない。



「花子、顔を見せろ。」


「ゃだ、や…っ!今、酷い顔…」


「貴様の顔はいつも酷いじゃないか。」


「ま、まさかの大暴言!」



思わず叫べばその拍子に大きな涙がボロリと零れ落ちてしまう。
慌てて拭おうとすればその手は彼に抑えれて、そのままルキ君の唇に吸い込まれてしまった。



「ん、ホラ…花子、」


「ぅ…じゃ、じゃぁ…きょう、だけ…あの、」



おずおずと彼の優しさに甘えてしまおうと言葉を紡げばまた唇が塞がれる。
ああ、今日ルキ君はまともに喋らせてはくれない。



「今日だけなど…淋しい事を言うんじゃない、花子」



「ふぇ…る、る、ルキぐーん…うぇぇぇえ」



困ったような微笑みが酷く優しくて胸がギュって苦しくなって
もう限界を軽く超えてしまっていた私はそのまま盛大に彼の優しさに甘えることにした。


初めてじゃないだろうか、こうしておふざけとかじゃなくて真剣に彼の前で涙したのは。



大きな声をあげてぎゅっと彼に縋り付いてそのまま彼の洋服を自身の涙で濡らす。
けれどルキ君はそれを咎めることはしないで只々、優しく私の背中を撫でてくれる。



「ごめんね、ごめんね…ホント、大したことないのに…私、ううう〜!」



「…大したことだろう。俺としては大事件だ。」



「る、るきくん…?」




未だに涙腺崩壊中の私は沢山涙を零しながら首を傾げる。
ルキ君はそんな私をじっと見つめてやっぱり優しく微笑んだ。



「愛する花子が誰にも頼らないで涙を我慢しようとしていた。…大事件以外のなにものでもないな。」



「うええええん!!な、なんで…なんでそんなに優しいのー!!ばかー!!好きー!!」



優し過ぎるそんな言葉、今の私にとっては更に涙腺を崩壊させる材料になってしまうだけで…


ああ、もう…これじゃ私明日目、すっごく腫れちゃう…なんてぼんやり考えながら
ぐりぐり彼の胸に顔をこすりつけれればくすぐったかったのか小さく笑う声が聞こえる。



「花子が俺の優しさに溺れて、俺なしでは生きていけなくなれば…それでいい」




柔らかな、穏やかな声でそう言った彼に
そんなのもう今更だって言葉を含めたキスを贈れば幸せそうに笑う。


その顔を見て、私はようやく彼と一緒に心から笑うことが出来た。



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