勝者、わたし


「むいむい…むぁ〜ひゅうひゅん…」


「…………」



…先程の私の言葉を翻訳すれば「シュウ君」って言っています。
もうかれこれ数時間、私の頬はシュウ君の手によってむにーっと伸びたり縮んだりしている。
痛くはないけれどなんか…複雑な気分。



「むぁむぁ…むー」


「…やばい、楽しいかも」


私の頬は良く伸びるので彼はずーっとこうしてむにむにと頬を弄んでしまっている。
その瞳は新しいオモチャを見つけた子供のようにすこしばかりきらきらしちゃってるんだけど。
…正直弄ばれるなら唇がいいですシュウ君。



「花子、すっごい顔…ふふ、」


「むあー!!!!」



おかしそうに笑ってしまうシュウ君に遂に我慢の限界がきて
思いっきり手を伸ばして彼の頬も同様に伸ばしてやろうと思ったけれど悲しい事にリーチの差って奴で全然届かない。
くっそ!無駄にスタイルいい吸血鬼腹立つ!!


それでも負けじと限界までぐいーっと手を伸ばしてバタバタして
ようやく彼の胸までは辿り着いたのでそのまま腕を上下に暴れさせていれば不意に私の指はその胸板へと触れる。



「ん…っ」


「!?」



………………



ぎゅっと瞳を瞑ってそんな声をあげるもんだからされるがままだった私は大きく自身の目を見開いた。
そしてやって来た重すぎる沈黙。ニヤケまくる私の顔。



「ひゅうひゅん(シュウ君)」


「……………」



何か嫌な予感を感じ取ったのかシュウ君は無表情のまま
私の頬を弄ぶのをやめてスススッとその両手を自分の口に持っていってしまった。



「いやいやいや、シュウ君今更おくちチャックしたって無駄ですよホラホラもう一回。ワンモワセッ!」



「……………」



両手を口に当てたままふるふると顔を横に振るシュウ君に対して
私は勢いよくその手を掴んで思いっきり口からどかせる。



「ききたーい!シュウ君の可愛い声ききたーい!!」



「あーもー煩い黙れ盛るな馬鹿花子」



面倒な事が起きてしまったというような煩わしい表情のまま
私に押し倒されちゃったシュウ君は正直色っぽい。
ドキって胸が高鳴って、もう一度あの声が聴きたくて彼の胸に自身の手を這わせる。


「あ、コラ…花子…んぅ、」



「可愛い!シュウ君!ぎゃわいいよーぅ!!!」



気だるげなその声にテンションが上がりまくっていた私は
彼の顔の青筋に全然気付かなかった。



「いい加減にしろよ花子」



急に反転してしまった視界にびっくりしていれば
ギリっと手首を掴まれて思わず顔をしかめる。
けれどシュウ君に離してくれる様子はない。



「しゅ、シュウ君…おこ、おこ、怒ってる?」



「いーや?怒ってない。」



…いやいやいや怒ってる。絶対怒ってる。
声色、すっごく優しいし笑顔だけど…なんか、なんか…
オーラ的なものがすっごく黒い気がするんだよね!!


「あのあのあの!調子に乗ってごめんな、んぅぅ…」



「ん、は…んんっ」




必死に謝罪の言葉を紡ごうとしたけれど
それは途中で彼の深くて激しいキスに遮られてしまう。
卑猥な水音に耳まで犯されてしまえばもう抵抗する気なんてすっかりなくなってしまって…


名残惜しげに離されればシュウ君は挑戦的に笑う。



「俺に欲情しまくってる万年発情期のどうしようもない花子を今から沢山慰めてやるよ」



「すっごい!すっごい大暴言!でも否定はできない!!」



「あーもう煩い黙れ」



私のムードのない発言に眉間の皺を深くしてまた彼は私の唇を塞ぐ。
そしてそのまま離される寸前にペロリと甘味を味わうように一舐めして困ったような微笑み。



「俺の事が大好きすぎる花子に惚れた俺のまーけ」



降参ですと言った感じでくたりと首を傾げた彼に対して
愛おしさで胸が爆発しそうな私は感情のままに彼の首へと抱き付いた。



「えへへ、私の勝ちだよシュウ君。」



抱き付いた体勢のまま私の首元で呆れたような、諦めたような溜息が聴こえた気がした。



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