役立たずの憂鬱


三日三晩位ことこと煮込んでとろとろになったら
血も肉も骨も髪も全部全部貴方に捧げることが出来るのだろうか…



「花子…」



静かな甘い声で愛おしい人が私の名前を呼ぶ。
それに応えるように大きな手に自ら頬を摺り寄せて音を立ててそこに唇を落とせば
満足気に微笑んでくれる貴方が悲しいくらい愛おしい。



「シュウ、シュウ…」



大好き…だいすきよ。
私の持ってるもの、全部全部貴方にあげたいくらい大好きなの。
体だって心だって全部全部捧げてしまいたい。
捧げてしまいたいのに…



「う…ふ…っ、シュウ…だいすきなの…だいすき…」



「知ってる…知ってるよ、花子」




現実は酷く残酷でどれだけ体を重ねたところで彼にすべてを捧げる事なんて到底できはしない。
繋がった所でそんなの一時的なものだ。
ずっとずっと彼と一緒になんてどう足掻いたところでなれはしないのだ。




ぎゅっとその冷たい体で私を安心させるように抱き締めてくれるシュウはとても優しい。
寒い、寒いってずっと呟いているのにこうして私の心を温めてくれようと一生懸命愛してるくれる。
なのに私は彼の体を温めてあげる事すらできやしない。



嗚呼、何もできない恋人でごめんなさい



「シュウが私の事を食べてくれたらいいのに…」



「そしたらもう花子に触れられないじゃないか、こうやって…」



ちゅっと塞がれた唇は酷く冷たくて
ああ、私は自身の体温さえ彼に捧げることが出来ないんだと実感させられてしまう。
結局私とシュウは別の一個体で一つにはなれない。


けれど彼は愛おしげに何度も何度もその冷たい唇を私の身体中に落としてくる。
くすぐったくて苦しくて愛おしくて…
もう私の胸のなかはぐちゃぐちゃだ。



「俺と花子が別モノだからこうやって愛せるんだ」



「でも私はシュウに全部あげたい…」




酷く寂しがりやで人肌を求める貴方を温めるのは私でありたいの。
そんな我儘な独占欲をどうか見逃して…


ゆるゆると彼の手を絡め取って一時的にでもと自身の温もりを分けるようにしっかりと繋げば
嬉しそうに彼お瞳が細められる。



「ねぇシュウ、私が死んだら…体温が残ってる間にスープにでもして食べてね」



「花子?」




この呼吸が止まれば私の温もりは消えてしまう。
なら、ならその前にいっそ



「血も、肉も…骨も髪も全部全部溶かして、私の全てをシュウの中に入れてよ…」



そうしたら、私は貴方の体を温めることが出来るでしょう?
こんな、触れてる間だけなんて刹那的なものよりも少しだけ長い間貴方を満たせるでしょう?



「そう、だな…その時は…ありがたく頂くよ」



「そうして…」



私の言葉に淋しそうに笑った彼には申し訳ないけれど
私に出来る事なんてこれくらいしかない。



生きているうちに全て捧げられないと言うのなら…屍になった時くらい、捧げさせてよ。



最期は貴方を置いて逝ってしまう人間が出来る事はこれくらいだ。



「ねぇ花子…あたためて。………一瞬でもいいから、」



「ん、シュウ…」




私を離さないように懇願するその唇に弄ばれて彼の望むまま自身の体温を分けてやる。


嗚呼、どうか役立たずの私よ。
早くこの息を止めて愛しいこの吸血鬼を少しでも暖めてあげる存在になればいいのに…



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