サイゴの景色


ふわふわ漂う魚達。
とても優雅で可愛らしくて沢山の水槽たちに張り付いて瞳を輝かせる。


だって嬉しい。
いつもなら私が外出するだけでも酷く憤慨してしまうカナト君が
私の希望通りこの小さな水族館に一緒に来てくれたんだもの。



はしゃぐ私を後ろからニコニコして見守ってくれる彼は本当に優しくて
普段とは少しばかり違う態度に浮かれていた私は気付かない。



「あれ…?」



「どうしたの?花子さん」



私がピタリとある水槽の前で足を止めればカナト君も一緒に止まってくれて
じっと、私の顔を覗き込んだ。
けれど私は目の前の水槽に釘付けである。



「水槽…なにもいないね。」



「…ああ、きっと死んでしまったんですね。」



そう、そこには只海水が詰まった何もない空間が広がっているだけ。
きっとここにいたであろう魚は今はいない。
酷く寂しいその水槽にピタリと手を添える。



「残念だなぁ…どんな子だったんだろう」



「…………」



贅沢な考えかもしれないけれど
出来ればここにいたであろう魚にも会いたかった。
きっとこの水槽でふわふわのんびり泳いでいたんだろうに。


そんな事を考えていれば不意にカナト君もその水槽に手を添えてぽつりと静かに呟いた。



「きっと、溶けてしまったんだね」



「カナト君?」



彼の言葉の意味が分からず首を傾げれば
彼はじっと何もない水槽を見つめながら言葉を続ける。



「死んで、腐って…そのままドロドロになって水に溶けてしまったんですよ。…永遠を生きれない者は決まってそうです」



「カナト君…」



そんな事、ある訳ないのに。
きっと管理者が魚の死骸は早々に引き揚げたはずなのに
私はどうしてかその水槽の水から目を離すことが出来なかった。



きっと私もその魚と同じ運命なんだろう。
私は人間だから、きっといつかは死んで土に還る。
悲しいし怖いけれどそれが摂理というものだ。



「嗚呼、でも…」



不意にカナト君の手が頬に触れる。
少し驚いて彼を見つめれば今までに見たことの無いような
とっても嬉しそうな…優しい顔で微笑んでいた。



「花子さんは、平気だね」



「どういう…」



疑問符を投げかけようとすれば徐に手を引っ張られて
次の展示物コーナーへと連れていかれる。



「ホラ、こんな淋しい所なんていてないで、次に行きましょう花子さん」



「う、うん…」



嬉しそうにはしゃいでくれるカナト君に
嗚呼、彼も私と一緒に楽しんでくれているんだなぁ…なんて呑気な勘違いを起こす。



連れられるのは魚たちの剥製コーナー



「ほら、サイゴのコーナーですよ。楽しんで?」



「そうだね!」



彼の“サイゴ”という言葉の真意を掴むことをせずに
私は彼に促されるまま展示コーナーへと駆け寄った。




「きっと人形になた花子さんも、可愛いよね…」



だから、彼のそんな台詞なんて全然聞こえなくて、
この映像が私が最期に観る景色とカナト君の笑顔だったなんて




馬鹿で愚かな私はまだ気づかないままなのだ。



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