儚い桜
ひらり
ひらり
舞い落ちる花弁は美しい
けれど、同時に少しばかり悲しい
「明日は雨だって」
「………ふーん」
「もう、桜散っちゃうね。」
「…そうだな」
外の世界と隔離された一つの部屋でポツリ、呟けば
気のなさそうな返事が返ってくるだけ。
けれどそれはいつもの事だから私は只々苦笑するばかりだ。
外は今、曖昧な気温。
季節の変わり目だから寒かったり暖かかったりまちまちだ。
けれど、ココはずっと適温に保たれている。
自分が過ごしやすいようにと言っているけれど
きっとこれは私がここから出ていかないようにと整えられた環境だ。
心地よすぎるこの牢獄から一歩も出させてはくれない
本当に鬼のような彼は酷く優しく私を抱き締める。
「花子…見に行きたいの?………桜」
言葉だけ選択肢を与えてくれるけれど
その腕の力は次第に強まって、私の身体を酷く締め付ける。
ほら、いつだって私は整った部屋と貴方の腕との二重の檻で身動きが出来ないじゃないか。
「ううん、ココからも見えるから…べつに行かなくていいかな。」
「……………そっか、」
私の言葉でようやく彼の腕から解放されれば
今度は私が貴方を捕える番だ。
私を閉じ込めておいて貴方だけ自由だなんて許さない。
「シュウ…キスして?」
貴方を私に留める様にそんな台詞を吐けば満足そうに笑う。
ああ、結局は捕えられているのはどっちなんだろう…
隔離されたこの部屋では酷くゆっくり時間が流れている気がする。
ホラ、貴方も私もまるでスローモーションの様にゆっくり噛み締める様に互いの体を重ねるもの。
外の世界はあんなにも目まぐるしく変わっていくのに私達はいつだってスローテンポだ。
「ねぇ花子…桜、」
「あ…、」
彼の冷たい体温を感じながらその心地よさに瞳を閉じていれば
そんな台詞にゆるゆると視界を解放する。
窓際から見える美しい桜たちがいつの間にか雨に濡れていて
その花弁のほとんどを地面へと落としていた。
「はかない…ね、」
「ああ…儚い、な」
うわ言の様に、他人事様に二人して呟いて
再び重なる唇に滴り落ちたのは外の雨ではなくて二人の涙。
いつか来るその日まで
私も彼もずっとずっと緩やかだと錯覚したこの部屋で二人、愛を確かめ合うのだ。
隔離された世界なんて存在しない。
只錯覚しているだけ。
私はいつ貴方を残して逝ってしまうのか…
それはきっと窓の外の桜の様に突然で、それでいて儚いのだろう…
桜のような私を愛した貴方が悪いのか
変わる事のない貴方を愛した私が悪いのか
それとも…
「ねぇシュウ…愛してる」
ひらり
最後の桜が地面へと落ちて貴方はまた涙した。
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