魅惑の券売機


「…ねぇ花子、店の中なのに自動販売機があるのだが…どういうことだい?」



「違いますこれは券売機です恥ずかしいから大きな声出さないでください殴りたい。」




早朝から24時間営業の定食屋に連れてこればまじまじと券売機を覗き込む王様に大きな溜息。


…あのですね、すっごくイケメンのダンディな貴方様がそんな物珍しげに券売機ベタベタ触って感嘆の声あげてるから
店員さんの視線は私達に注目ですよ。他のお客さんもすっごく見てますよ。
今この場にいるすべての人間が貴方にいろんな意味で心奪われてますよ。



また小さくため息をついて彼に手本を見せるべく私は券売機の操作をゆっくり行ってあげた。



「これはお金を入れて自分の食べたいモノや飲みたいモノの食券を買うんですよ。そしてこうやって出来た券を取って席へ戻って…店員さんにこれを渡せばメニューが届きます。」



「…………おぉ。」




ひらひらと手に入れた食券を見せてみれば少しだけ目を見開いて感心するカールハインツ様は何だか子供みたいですごく微笑ましい。


…そうだよね、普段食事とかってきっと執事やメイドさん達がフルコース自動で作って持ってきてくれるんだろうから珍しいよね。



「では私は先に席に戻っているので、好きなものを買ってきてくださいね。」



「ああ、分かったよ。」




ニッコリ嬉しそうに微笑む彼に
ちょっぴり連れてきてあげてよかったかな…なんて思ってたけれど
それは20分後いとも簡単に壊されてしまうことになる。




「……………20分間券売機の前で何してるのかと思えば…っ!」



「ボタンを押すのがすごく楽しくてね。」



「何百枚食券買ってるんですか王様よぉ!!!!」



大きな声で叫び散らしても目の前の庶民的常識皆無な王様はご満悦で微笑むばかりである。
手には大量の食券。食券まみれだ。


…どうやら注文ボタンがお気に召してしまったであろう彼はそのまま何度も何度もひたすらボタンを押しまくっていたようで
やって来た店員も彼の手に持っている食券を思わず二度見してしまっていた。



全く…いきなり!大恥をかいてしまった!!



というか私も私だ。
ちゃんと彼を監視しておけばよかったのに…
そんな自分の非も認めてまた本日何度目かわからない溜息を吐いた。



「ふふふ…まるで机が鮮血に染まっているようですね」



「花子は赤がとてもよく似合うね」



「褒められても今は全然嬉しくないんだからねツンツン」



券売機を楽しんでご満悦の彼とは対照的にもはや死んだ魚の目の私は
抑揚のない声でそう呟いて目の前の鮮血もとい机にびっしり並べられてしまっているトマトジュースを一口口にした。


どうやら厨房にはまだまだトマトジュースが待機してしまっているようで。



「朝からトマトジュース200杯の刑とか初体験ですよ私は。」



「おや、どうやら私は花子のハジメテを奪ってしまったらしい…」




「取りあえず一発殴っていいですか?王様」



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