反抗期のICカード
「ほう…これが噂のカイテンマエの行列というやつか。」
「そうです、今日はバーゲンなので」
あれから私達はデパートのバーゲンセールの為に行列の最後尾へと並んでいる。
いつだって好きな時に来店して常にVIP待遇の彼としてはこれもまた新鮮らしい。
けれど申し訳ないがやはり見目麗しい彼はどうしても目立ってしまっていて
さっきからこそこそと女性たちが黄色い声をあげてしまっている。
そしてたまにピローンと言う携帯音。
…ちょっと、勝手に写真は駄目でしょ。
けれど当の本人は嫌な顔一つせず
むしろそんな彼女達に向かって素敵な笑顔を振りまいている。
…やはり人気者って慣れてるんだなぁこういうの。
「そう言えば花子…バーゲンとは?」
「あ、えっと…普段のお値段より安く商品を買える日です。だからみんなこうやって並んで少しでもいいものを買おうって争って、」
「…なるほど。バーゲンとは自身の欲望を満たすために互いが血で血を洗う戦争の事を言うんだね。」
「なんでそう物騒になるんですかもう!!」
ごくりと息を呑んで真剣にそう言っちゃうものだから
思わず吹き出してツッコめば「違うのかい!?」とまた驚かれて更に腹筋を持っていかれてしまった。
そしてそんな事をしているうちに開店の合図と共に、私は世間知らずな王様の手を引いて彼曰く戦争へと足を向けたのだ。
「ありがとうございます、こちら2980円になります」
「あ、じゃぁこのICカードで。」
あれからお気に入りの洋服を見つけた私はそのまま購入するためにレジへと向かった。
そして普段利用している店だからICカードで支払うようにお願いして
読み込みの電子機器にそれを触れさせて相変わらずの可愛い音の読み取り音を発生させれば事件勃発の合図。
「!…花子、これ…これ私も作りたいよ!可愛らしい声で鳴くではないか!」
「…わかりました、作りましょう。お会計終わったらすぐ作りに行きましょう。だからはしゃがないでください私を恥ずかしさで殺す気なんですか」
相変わらず大はしゃぎの彼に盛大に顔を赤くしてすこしばかり早口でまくし立てて
早速カードを作りにインフォメーションへと赴いた。
そしてダンディーなおじさまは似つかわしくないファンシーな可愛いICカードを手に入れてしまったのだ。
…これ、もしかしなくても私カールハインツ様ファンに怒られるのではないのだろうか。
「花子、行こう…早速私はこの子を鳴かせてみたい」
「あの、言い方卑猥って思うのは私だけですかね…って、あ!ちょ、ちょっと待って!」
私の言葉を無視して彼は徐に何だかすごく高そうな品物をひょいっとレジへと持っていき
早速そのICカードで支払うとわくわくしながら仰っていたけれど…
ちょ、ちょっと待って作ったばかりじゃソレ…
「残高がございません。チャージしていただけますか?」
「…ああ、やっぱり。」
「ねぇ、花子…私の子はどうしてか鳴いてくれないようなのだが」
そりゃそうだ。
作ったばかりなのだから中には何も入っていない。残高0状態だ。
けれどそんな事を知らないカールハインツ様は自身のICカードが可愛く鳴かない事に酷くしょんぼりしてしまっている。
挙句の果てには「この子も息子たち同様反抗期なのかな…」とか言い出してしまったから
慌ててチャージの意味と方法を教えてあげればその表情はすぐに明るいものへと変わってくれた。
あれ、もしかしてカールハインツ様って可愛いかも
「ではとりあえず1000万くらいチャージすれば大丈夫かな?」
「私の心の言葉は撤回します。カールハインツ様マジブルジョワ腹立つ」
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