サヨナラ庶民デート
「今日は本当にありがとう、花子…感謝しているよ」
「いえ、私も…楽しかったです。」
最後にお別れと言わんばかりにそんな挨拶をされてしまい
じわりと涙を浮かべてしまいそうになるけれどそこはグッと我慢する。
別に悲しくなんてない。ただ彼が元いるべき場所へ戻るだけだ。
出来るだけ笑顔を作って挨拶をすれば不意に腕を引っ張られて
彼の胸へと引き寄せられてしまった。
どうしたのかと思って固まっていれば徐に取りだされた彼らしい真っ黒でシンプルな携帯。
彼はその携帯をカメラモードにして少しだけ高く持ち上げる。
そしてその綺麗な顔をぴたりと私の頬へと寄せてきたのだ。
「え、か、カールハインツ様?」
「最後に記念写真…いいかな?」
耳元でそんな優しい声色を使うのはやめてくれませんか王様。
絶対逆らえないし、顔だって赤くなってしまう。
おずおず、じっとカメラのレンズに視線を向ければ彼の嬉しそうな笑い声が聞こえる。
ああ、本当に今日一日楽しんでもらえたようだ。
その事実が酷く嬉しくて心から笑えばいつの間にかパシャリとシャッター音。
びっくりして思わず彼の方へ顔を向ければとても嬉しそうに大事に携帯を抱えていた。
「これ、待ち受けにさせてもらうね?」
「えぇ!?ちょっとやめてくださいよ!恥ずかし過ぎます!!何考えてるんですか!!」
「申し訳ないがやめないよ。だって私の大切な日の記念日なんだもの」
クスクスとやっぱり嬉しそうに笑う彼を止める人なんてもはや存在しなくて…
今日最後の溜息をつけば不意に彼の唇によって塞がれてしまった。
余りにもの驚きに口をパクパクしていれば悪戯が成功したかのように無邪気に微笑む王様。
「今度は花子を私の世界に招待しよう…余裕なおじさまを魅せてあげるよ?」
「…私は今日のようなおおはしゃぎなおじさまの方が好きです。」
「おやおや、フられてしまった…手強いなぁ」
そんな会話を小さく笑いながらしていれば遂に日付が変わる合図の鐘が鳴り響く。
ああ、淋しいけれどお別れの時間だ。
けれど互いの立場をわきまえている私達は無駄に嘆く事なんてしない。
ただ、また今度と、もしかしたら二度とないかもしれない奇跡を言葉にして互いに正反対の帰路についた。
淋しいけれど…でもこれが最後と確定したわけじゃない。
きっといつかまた、この奇妙で楽しい時間は訪れるはず。
そんな事を信じて私は私の道へと足を進めた。
後日、カールハインツ様主催の晩餐に
彼のお気に入りであるいちごシェイクが並べられてしまい
カールハインツ様御乱心とヴァンパイア界が騒然としてしまったのはまた今度のお話の時にでも…
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