雌豚の失態
「わーわーわー!!すっごい!すっごいざらざら!!」
「…………」
現在私は海の生き物ふれあいコーナーにて大はしゃぎ中である。
ここでは普段触る事の出来ない生き物たちに実際に触れることが出来るから
好奇心旺盛な私はまるで小さな子供の如くテンションがうなぎのぼりなのである。
「花子、そろそろ帰んぞ」
「やだやだ!待ってユーマ君、もうちょっとだけ!!」
大きな溜息をついた巨人野生児ユーマ君にギロリと睨まれてしまったけれど
今はそれどころではないのだ。
もっともっとたくさんの生き物に触れてみたい!
けれど浅い水槽の中に付けられていた私の手はバシャリと大きな音を立てて引き上げられてしまった。
犯人はもちろん言うまでもない。
「ゆ、ユーマ君?どうしたの?」
「…………ん、」
相変わらず不機嫌な顔のまま
ユーマ君はピタリと水で濡れてしまっている私の手を自身の頬に添える。
ポタリポタリと彼の頬に水が伝い、やがて雫は地面へと落ちてしまう。
その光景はどうしてだか私の心臓を高鳴らせる材料となってしまう訳で…
少しばかり顔を赤くしてしまえば、彼の鋭いその瞳は私の反応を逃してくれるはずもなく
そのまま何度もすりすりと徐に頬を摺り寄せてきてしまう。
「ゆ、ユーマ君…顔、水で汚れちゃうよ?」
「ん?…んなの関係ねぇよ」
彼の顔の広範囲を水で汚せばピタリと張り付いてしまった茶色い髪がやけに扇情的で、この場に似つかわしくない雰囲気の彼にもはや私の心臓は爆発寸前だ。
最後にベロリと私の手に残っていた水滴を舐めとれば
ユーマ君は意地悪に微笑んだ。
「花子が俺以外に触れて興奮してるのが気に食わねぇ」
「こ、こ、興奮って…興奮って!!!」
確かにテンションは上がっていたが思いもよらない彼の発言に
とうとう私の顔面は立ててはいけない音を発して盛大に真っ赤になってしまう。
ユーマ君は相変わらず意地悪に笑って今度は耳元で私にだけに聞こえるように囁くのだ。
「オラ、俺に触れたから興奮しちまっただろ?花子チャン…帰んぞ」
「ち、ちが…ちが…ぁ!」
必死に反論しようとしても強すぎる力でぐいぐい引っ張られてしまえば
もはや抵抗出来る訳がなく…
何度も何度も躓きながらも必死に彼の後を追う。
「こ、興奮したのは私に触られたユーマ君の方じゃない!!」
苦し紛れにそんな言葉を吐いてみても彼はくるりとこちらを向いて余裕めいてただ微笑むだけだ。
「よーく分かってんじゃねぇか。…俺以外に夢中になった罰はきっちり受け取ってもらうからな」
そんなそんな。
只可愛い海の生き物と触れ合っていただけなのにこの扱い!!
理不尽すぎて涙も出ない。
「ゆゆゆゆゆユーマ君の馬鹿!自己中!野生児!!万年発情期!!!」
「…なるほどなぁ。花子チャンは酷く抱かれたいってか。なら盛大に痛くしてやんよ」
私の暴言の数々にビキリと青筋を浮かべてしまったユーマ君がギリッと私の腕を掴む力を強くしてそんな台詞。
ああもう、どうやらこれから起こるであろう私の運命はスーパーバッドエンディングしかありえないようで…
「うわん!もうユーマ君以外見ないのでせめて優しく抱いて下さい!!」
此処が未だに水族館館内だなんて忘れて
盛大に急けび散らかして彼に懇願してしまう私は相変わらず彼に飼育、管理されてしまっている雌豚なのである。
御主人意外に興味を向けたこの愚鈍な雌豚が全て悪いのです。
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