戸惑いの愛情
「ねぇ花子…手、怪我…したの?」
「え?あ…、怪我って言うよりかは荒れちゃったみたい。」
アズサ君が私の手を覗き込んですごく悲しそうな顔をしたので
自身の手を見てみれば指先が真っ赤になってしまっていた。
…なんだろう、水仕事とかもしかしたらプリントとか沢山整理したままケアしなかったからかなぁ。
ぼんやりそんな事を考えてればアズサ君が何かを思い出したかのように目を見開いて
ごそごそと自身のポケットを漁り始めた。
何が出てくるんだろうってじっと見つめてれば取りだされたのは一つの可愛らしいデザインのチューブ。
「花子…、手………だして?」
「?うん。」
彼に促されてすっと両手を出せば一瞬躊躇われたがそっと優しくその手をアズサ君が取って
チューブからクリームを出して丁寧に塗っていってくれる。
…彼はいつだって恋人の私に触れることを怖がる。
今回もそうだけれど、どうしてか私に触れるとき一瞬躊躇してしまうのだ。
最初は嫌われているのかなって思ったけど
どうやらそうじゃないようで…
「………はい、できたよ」
「…わぁ」
ゆるゆる解放された手はしっとりと潤いを帯びていて
ほのかに薔薇の香りがふわりと漂う。
どうやらチューブの正体はハンドクリームだったようで、私の手は今はすっかり綺麗にケアされてしまっていた。
「ごめんね花子…俺なんかが触れてしまって…でも、君の手…荒れてるの…かなし、くて…」
「アズサ君…」
申し訳なさそうに…けれど嬉しそうに彼は笑うけれど
私はいつだってそんな彼の言葉に酷く心を抉られている。
アズサ君はいつだって「俺なんかが」「俺みたいなのが」って言って触れてくれはしない。
よっぽどの事が無い限り彼から私には触れないのだ。
昔何があったかは少しばかりだけど知っている…けれど私は
私はアズサ君が大好きだからこの距離と壁が酷く悲しい。
けれどそんな我儘を言ったってきっと彼を困らせてしまうだけだから
私は只々優し過ぎる彼の愛を受け入れるしかないのだ。
「…ありがとう、アズサ君。………だいすきだよ」
「!…………花子、」
「え、あ、アズサ君!?ど、どうしたの!?」
私の言葉を聞いて急にボロボロと泣きだしてしまったアズサ君に動揺してしまって
大慌てで彼の顔を覗き込んだ。
未だに流れ続ける涙はとても綺麗だけれど、私は好きな人の泣き顔を見て喜べるほど鬼じゃない。
「ご、ごめんねアズサ君!わた、私何かひどい事言っちゃったのかな!?」
「ううん、ちがう…ちがうよ。」
顔面蒼白になってしまった私が彼に問えば必死に涙を拭いながら
途切れ途切れに…嗚咽交じりに彼は答えてくれる。
「あの、ね…さっきの…花子の言葉…すごく、むねが…じわって…あたたくなって…くるして…うぅ、」
「アズサ君…」
ああ、そうか…
彼はまっすぐな好意や感謝に慣れていないから…
さっきの私の言葉に酷く心が揺れてしまったんだね。
あんな些細な言葉なのに彼にとってはとても大きくて重大な言葉だったんだ。
なんて悲しくて、なんていとおしい…
未だに泣き続けているアズサ君はそれでもゆっくりと顔を上げて
じっとこちらを見つめる。
何か言いたいのかなぁ…
私に出来る事なら何でもしてあげたいけれど。
彼が言葉を整理するのを只々待っていれば
ゆっくり戸惑いがちに紡がれた台詞に私の不安げな顔はすぐに緩んだ幸せそうな顔へと変わってしまった。
「ねぇ花子…俺、花子をぎゅってしたい………だめ?俺なんかじゃ…やっぱり、だめ…かな?」
「ううん!駄目じゃない!!アズサ君がいい。アズサ君じゃなきゃヤダ!」
おずおず、自信なさげにそんな事言わないで。
私はアズサ君の彼女でアズサ君のものなんだから。
両手を広げて彼を受け入れる体勢を取れば
初めて戸惑いなしに感情のまま抱き締めてくれたアズサ君に今度は私が嬉しくて涙した。
ねぇ少しずつでいい…少しずつでいいから
私の愛を受け入れて、そしてアズサ君の思う通りに私を愛してね?
戻る