偶像的憂鬱
「ねぇ花子ちゃん、もう歌うのやめてくれない?」
「えへへ、それはコウ君のお願いでも難しいなぁ」
ボロボロと沢山の涙を零しながら
震える声でコウ君はいつもこういうんだ。
私にもう歌うなって
でもそれは私が酷く音痴だからとか、歌声が耳障りだからとかそんなんじゃなくて…
きっとコウ君は歌に乗せた私の愛を怖がってくれている。
ぎゅうぎゅうと彼に抱き付いてだいすきって言えばびくりと揺れてしまう体に苦笑。
ねぇねぇコウ君だいすき。だいすきなんだよ。
只のアイドルとしての偶像じゃなくて私は無神コウって人物が大好きなの。
偶像は崇拝はされるが決して誰かの一番にはなれない
それは悲しいけれど事実だろう。
アイドルだってそれは同じで好き愛してる、沢山そんな言葉はもらうけれど
けれどそれは真実であり真実でない。
いつだって偶像は飽きられ興味の対象外になれば古いオモチャと同じであっという間に捨てられてしまう。
だから偶像であり続けたコウ君はなかなか愛ってやつを信じる事が出来ない。
「ねぇコウ君、私、コウ君の事が大好きだよ?」
「うん、分かってる…わかってる、けど…」
じっと彼の目を見てそう言っても彼は未だに戸惑うのだ。
ああ、ちゃんと私の考えも心もその綺麗な瞳で読めているはずなのにどうしてここまで疑うのかなぁ…
やっぱり怖い?誰かを心から信じるって。
裏切られた時の喪失感を考えればきっと怖いと思う…
でも、だからって何もしないで偶像のままでい続けるの?
「ねぇコウ君…聴いてよ私の歌」
「やだよ…花子ちゃんの歌はココが痛くなるんだ。」
ぎゅって自身の胸を掴んでそんな台詞。
ああ、なんだ…ちゃんとそこに私の想いは届いているのか。
痛いのは当然だよ。
だって私、コウ君が思ってるより、コウ君が読み取ってる以上にずっとずっと熱く、激しく貴方の事を愛してるもの。
その気落ちを全て込めた歌声が痛く無い訳ないじゃない。
紡がれようとした歌声は彼の手によって塞がれてしまう。
もう聴きたくない、限界だと。
けれど私はそれでも笑う。静かに笑う。
だってほら、声にしなくたってきっと貴方には聴こえてるでしょう?
「花子ちゃん、やめて、お願い…歌わないで」
「……………、」
声は出していない、けれど彼はまたボロボロと泣きながらそんな事を言う。
貴方への歌はいつだって心から歌うから…だから喉を、おなかを震わせなくたって
この歌は心でずっとリピートされているのだ。
すき
だいすき
あいしてる
全部全部そんな気持ちを貴方にあげる。
どうしようもないくらい埋もれてよ…
怖がらないでいいよ。
大丈夫、私にとって貴方は偶像ではない。
だって本当に私が貴方をアイドルとして見ているのならば
こんな恰好悪く自分の感情に戸惑って泣きじゃくってる所を見た時点で冷めてるはずよ。
今はまだ私の気持ちを受け入れるのに戸惑ってるし、怖いんだろうけれど…
いつか、貴方が全部全部受け入れてくれるまで私は声でも心でもずっと貴方へのラブソングを歌い続ける。
それこそ怖がってしまった貴方がもし私の喉を切り裂いても
それでもずっと歌うよ…?
「コウ君…大丈夫だよ。私の愛はこわくないよ」
塞がれた手を取りはらってそう呟けば
彼は未だにこわごわと、それでいて何処か嬉しそうに微笑んでくれた。
どうかいつの日かその曖昧な笑顔が心からの笑顔に変わりますように。
―愛を信じる事の出来ない貴方へラブソングが届きますように。
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