絶対零度の楽園
「わぁ…いろんな色ですっごく綺麗!!」
「花子さんの方が…綺麗なんだけど、」
ぴったりと熱帯魚コーナーに張り付いてはしゃげば後ろからの恥ずかし過ぎる台詞に盛大に赤面してしまう。
思っている事をなんでもすぐに口に出してしまうのをやめてくださいアズサ君。
恥ずかしさの余りブルブルと震えていれば
アズサ君は隣のこのコーナーの説明文をじっと見つめてこちらを見てくたりと首を傾げる。
「この魚たちは…暖かい水の中に…いる、の?」
「うん、そうだよ。冷たい水じゃ死んじゃうから」
そう言いながら再び水槽へ目を向ければ
ガラス越しに写る愛しの彼の悲し気な顔。
「アズサ君、どうしたの?」
「じゃあ、花子さんも…しんじゃうのかな?」
そんな言葉と共にぎゅっと後ろから抱き締められてしまって
彼の言葉に今度は私が首を傾げてしまう。
するとアズサ君は悲しげな声でゆっくり噛み締めるように話し続ける。
「花子さん、は…この子たちみたいに…綺麗でかわいい…だから、冷たい躰の俺と…一緒に居る花子さんも…しんじゃうのかな、」
ぎゅっと抱き締められてる腕に力が籠る。
そうだね、暖かい人間社会で生きている人間と言う種族の私が
南極みたいに冷たいヴァンパイアの世界で生きてる吸血鬼のアズサ君と交わっていればいつか壊れてしまうね。
けれど、それは只…
「アズサ君、」
「花子さん?」
もぞもぞと彼の腕の中で動いて向かい合いになって
安心させる様に私からも腕を回して抱き締める。
すると彼の表情が嬉しそうにふわりと緩む。
「大丈夫だよ、私ならきっと絶対零度の水でだって泳げるもの」
ちゅっと自ら彼の唇にキスをして微笑めば
ぽかーんと口をあけてしまったアズサ君に苦笑。
だってもう私はとっくの昔に覚悟を決めている。
私はこの暖かいぬるま湯の世界からサヨナラをして
熱帯魚である自身を殺すのだ。
「暖かい世界も、アズサ君がいなきゃ私は温度を感じれないもん」
きっとこのままの世界は酷く心地が良いだろう。
けれど、彼と交われない世界じゃ心は冷たく凍えたままだ。
だったら私は迷わず彼の極寒の世界へと体を放り出そうじゃないか。
彼の指と私の指を絡める。
今は酷く感じるこの温度差がもどかしい。
「ほら、いこう?アズサ君…私はずっとアズサ君と一緒がいい」
「………うん、俺も…花子さんと一緒が…いい。」
お互いに微笑んで熱帯魚コーナーから距離を開ける。
向かうは次の南極コーナー。
ほら、二人でつないだ手
冷たいけど、どこか温かいでしょう?
それはきっと貴方と一緒で心がポカポカしているから。
絶対零度の南極だって私にとっては南国パラダイスなのよ。
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