躾
「うぅ…ふぇ、ル、ルキ君…」
「ね、ねぇルキ君…俺達ドS吸血鬼って呼ばれてるけど幾らなんでも花子ちゃん可哀想だ
よコレ…」
「問題ない」
先程からひっきりなしに聞こえる花子の泣き声に
コウが顔をひきつらせながら俺になんとも優しい彼女への慈悲深い言葉をかけるが
俺は再び本へと視線を戻して冷たく言い放った。
「お、俺は別に気にしないからさ!!ほ、ホント!花子ちゃんもう何時間も泣いてんじゃん!!」
「コウ…これは花子への躾なんだ。放っておいてやれ。」
必死になってコウがそんな事を言うけれど
俺はそんな優し過ぎる弟に対して笑顔で彼の頭を撫でてやる。
…相変わらず花子の泣き声はリビングに響きっぱなしである。
「うぇ…、ふえぇぇん…ルキ君…ルキくぅん…」
そしてこの花子の悲し過ぎる泣き声に限界を迎えたのは
俺ではなくて優しい優しいアイドル吸血鬼だった。
「もうもう!いい加減花子ちゃんをぎゅってしてあげてよ!!さっきからルキ君カラーのクッションぎゅうぎゅうして花子ちゃんの涙ですっごい濡れまくってるんだけど!!見てて可哀想!!」
「人前でいちゃつくなんて…はしたないだろう。」
「だーかーら!俺は気にしないって言ってるでしょ!?ルキ君のドS!!!」
そう、花子と俺は紛れもない恋人同士なのだが何ともまぁ所構わず抱き付いてはキスをし続ける花子にいい加減躾をしようと思い、現在決行中なのである。
そして彼女も健気に俺の言いつけを守って距離を取っているのだが、どうしても淋しくて仕方ないらしく、真っ黒なクッションを抱き締めながら先程からベソベソと情けない声をあげて泣いているのだ。
「うわぁぁぁん!コウくーん!ルキ君にぎゅってされたいよぉぉぉお!!」
「あああああ花子ちゃん…!ホラホラ泣かないでー?ねっ?」
「…………おい」
遂に我慢の限界を突破しすぎたのか抱いていたクッションを放り投げて
コウに縋り付きながら嘆く花子に対して自身でも驚く程低い声を放ち彼女の手を引っ張った。
「ルキく、」
「コウ…少し部屋へ戻る。」
「はいはーい。ちゃんと花子ちゃんにご褒美あげてよねっと。」
気の抜けた声で言われたその言葉に小さく笑って足を自身の部屋へと向ける。
勿論花子も一緒だ。
静かに部屋の扉を開けて彼女を放り込めばそのまま俺のベッドへと登って今度は置いてあった枕を抱き締めてまた泣き始める。
…どうやら未だに彼女の中の躾は有効らしい。
全く…もうここは俺の部屋だと言うのに。
「花子…」
一番優しい声で彼女の名を呼べば
震えて濡れた瞳でこちらを見る花子はなんとも愛らしい。
そんな彼女に苦笑して両手を大きく広げてやればその瞳は期待に満ちた色になる。
そう…後は俺の一言次第だ。
「花子…おいで」
「ルキ君…っ!」
その言葉に今日一番の大粒の涙を零した花子は勢いよく俺の腕の中へと飛び込んだ。
全く…こんなんじゃいつまで経っても躾が出来ない。
彼女の頭を優しく撫でてやれば「すき」「だいすき」「あいしてる」と先程まで言えなかった
愛の言葉の嵐が彼女の口から零れて俺を襲う。
ああもう…やめてくれ。
そんな事を言われてしまっては俺ももう外だろうが部屋の中だろうがお前の事をずっと離さなくなってしまいそうだ。
「花子…よく我慢できたな。…褒美をやろう」
“褒美”だなんてそんな建前を吐き捨てて
本当は一刻も早くその愛おし唇を塞ぎたかった俺はそのまま彼女へと噛み付いた。
そもそもちゃんと躾をしきれないのは俺を愛している家畜に甘すぎる主人の俺に原因があるのかもしれない。
(「うっうっ…躾と言う名の焦らしプレイ強要の最中にコウ君に抱かれたらそのままお部屋に連れていかれてご褒美とか…私もっとルキ君に夢中になっちゃう」)
(「………無神家どんだけ爛れてんの?」)
(「…誤解だ。誤解なんだ逆巻シュウ。花子も誤解を招く発言をやめろ。」)
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