鮮やかな世界


今まで毎日鳴っていた目覚ましが鳴らない。
代わりに私の目を醒まさせてるくれるのは優しい唇と甘い声。



「花子、起きろ…仕事、間に合わないぞ?」



「ん、んぅ…ルキく…」



彼のその言葉に意識は現実へと戻されるけれど未だに覚醒しきっていない。
只条件反射の様に手を上にあげれば苦笑しながら私を抱き起してくれるルキ君は本当に優しい。



「ホラ、おはよう…ん、」


「んっ…おは、よう…」


「まだ起きていないようだな…そんな感じで今までよく一人で生活出来ていたな。」



目覚めのキスでようやく目を開けば愛しい彼がニッコリ微笑んでいた。
じっと未だに回らない思考回路のまま見つめていると小さなため息と共に私の身体は宙に浮く。


「全く…花子はどうしてこうも手がかかるんだ。」


「んぅ…ルキ君…眠いよ。」


「ああ、昨日は少し無理をさせてしまったからな。…以後気を付けよう。」



彼に横抱きされたままごしごしと目をこすって擦り寄れば、そんな恥ずかし過ぎる台詞にようやく私の頭もさえはじめる。
すとんと降ろされたのは軽めの食事が用意されたテーブルの前の椅子だった。



「これ、ルキ君がつくってくれたの?」


「ああ、以前のお前の食生活が分からなかったから適当で申し訳ないが…」


「ううん、嬉しい。いただきます。」



素直にそう言って彼お手製の食事を口に運べば
少しばかり嬉しそうな笑顔に私の顔もほころぶ。
ああ、こういう時間…すっごくしあわせ。



「今日も遅いのか?」


「うん、そうだね。ちょっと残業かも…」


「そうか…暫く淋しいな。」



玄関前でそんな会話をしていればルキ君がビジネス用にセットされた私の頭に軽く口付ける。
もう口紅を塗ってしまっている唇にキスをすれば取れてしまうからという彼なりの気遣いだ。



ようやくすべての出社準備を整えて扉に手をかけるけれど
私だってすっごく淋しくて、チラリとルキ君へと振り返ってちょっとばかり我儘。



「ルキ君、帰りたい。」



「まだ家から一歩も出ていないだろう。」



クスクスとおかしそうにルキ君は笑うけれどその表情は何処か嬉しそう。
そして反対に私はふくれっ面である。



「違うもん。私はルキ君の腕の中に帰りたいの。」



「…あまり愛らしい事を言わないでくれ。本当に離したくなくなるから…な?」



ちゅっと音を立てて今度は首筋に唇を落とされて出てしまったのは
朝だと言うのにとっても甘くて高い自分の声。
ああもう、昨日夜だって散々だったのによくまだこんな声出るなぁ…


「ホラ、花子…いっておいで?帰ってきたら存分に抱いてやるから。」


「うぅ…はーい。行ってきますダーリン。」


「何だその呼び方は…ならば俺はハニーとでも呼べばいいのか?」



ルキ君がまたおかしそうに笑って私達の恋人から先に前進したであろう呼び名を呼んでくれる。
そう、昨日から私達は永遠に共にいると誓ったばかりなのだ。



「いいんじゃない?新婚さんらしくって可愛くないかなぁ?」


「悪くはないが俺はいつだって花子の名を呼んでいたい。」


「………イケメン発言は時として罪なのよルキ君。」



彼の恥ずかし過ぎる台詞に盛大に赤面して、誤魔化すように扉を開ければ後ろから「いってらっしゃい」と優しい声が聞こえた。。
扉を開けて外に出れば普段見慣れた景色が一層色鮮やかに見える。



ああ、きっとこれも全て貴方と一緒になれたから
世界がこんなにも色鮮やかに見えるのだ。



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