あまえてよ
少しだけ疲れているだけだ。別に平気。
こんな事で休んで仕事に穴開ける位なら死んだ方がマシ。
…自分で言うのもアレだけれど私はつくづく社畜だと思う。
だから私はそんな自分をとっても悲しげな瞳で見つける視線に気付かなかった。
「裏口に美形男子とか心臓に悪いからやめてくんない?」
「煩い黙れこのご老体。」
「…確かに私はシュウ君より年上だけれどその言い方は彼女に対してあんまりではないかね?」
いつもなら目の前の失礼すぎる彼氏様に大きな声で喚き散らすのだけれど
生憎今はそんな気力も体力も残っていない。
小さくため息をついて何処か不機嫌な彼の傍に寄ればひょいっとバッグを持たれてしまった。
…ん?なんかいつもと様子が違う。
「ていうかわざわざどうして迎えに来てくれたの?何か用事あった?」
「………うん。」
いつもならベッドかソファ、もしくは床で爆睡しちゃっているはずのシュウ君がどうしてわざわざ私の職場までやってきてこうして帰りを待っていてくれていたのか疑問で彼に直接質問してみれば少しばかりの沈黙の後に肯定の二文字。
えっと、何か約束でもしていたっけ。
うんうんと疲労困憊の思考回路を頑張って巡らせていると不意に触れた唇にシュウ君のソレ。
只触れるだけなのに私の心臓はびっくりするくらい鼓動を早くさせてしまう。
そっと離されれば先程まで不機嫌だった彼の眉は悲しげに垂れ下がっていてもう一度、今度は疲れ切っている瞼にキスされた。
「花子、仕事行く前からしんどそうだった…だから」
「う。」
まさかばれていたとは思わなかった。
確かに少しばかり日頃の仕事量に疲れが出てきていたのは事実である。
けれどそれを前面に出してしんどいですアピールなんてしたくなくて…
だからシュウ君の前でも普通を装っていたというのに何で気付いちゃうかな。
「なぁ花子…俺って頼りないの?年下だから?花子にしてみれば俺はやっぱりガキ?」
「え?は?あ、あの…シュウ君?」
いつもならこんなに饒舌ではないのに何でか今日に限ってシュウ君の不安は大爆発なようで
どう答えればいいのか分からず戸惑っていればその冷たく大きな腕に抱き締められてしまう。
「だって花子…全然俺に頼ってくれない…甘えてくれない。」
「………、」
…美形って言うのはふくれっ面も可愛いものなのか。
そんな呑気な事を考えながらもその可愛すぎる俺に頼ってアピールが私の疲れ切った心にとどめを刺してしまう。
電池が切れたように彼に向って全体重をかけてぎゅうぎゅうとそのまま抱き付く。
「つかれた、もうあるけない。しんどいの。」
「ん、」
堰を切って溢れだしてしまった私の弱音の数々に鬱陶しいはずなのにシュウ君は何処か嬉しそうで…そのままひょいっと私の身体を横抱きにして歩き始める。
いつもならこんな恥ずかしい事、やめてくれと叫ぶけれどもう彼に甘えるって決めてしまえば私の身体に力は入らない。
只今日一日辛うじて頑張った私にご褒美をあげるべくスリスリと彼の胸に頬を寄せて愛しいシュウ君の香りを胸いっぱいに吸い込む。
すると更にふわりと体から力が抜けて先程キスされた瞼がまるで魔法に掛かってしまったように重くなる。
ああ、だめ…今日はシュウ君と何も話していないのに。
「おやすみ花子…おつかれさま」
遠くでシュウ君の声が聞こえたけれど私にはそれに応える気力がなくて
只最後に虚ろな視界でとらえたシュウ君が嬉しそうに笑っていたから
私もへにゃりと微笑んでそのまま意識を落とした。
ああ、こうやって誰かに弱音吐いて甘えるのってクセになりそうでホント…怖い。
落ちていく意識のなかでぼんやり考えたけれど
きっとこういった私がシュウ君は好きなんだろうって思うとこのまま彼に依存して溺れるのも悪くないって
…大人な私がまだ辛うじて子供の彼に甘えるのが許されるのならばどうか、どうか…
私を包み込む冷たい体と唇に甘えさせてください。
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