許してね


ずっと一緒にいようね。
ずっと、永遠に愛してるよ。



そう誓い合ったのに神様って言うのはとても残酷で
易々と僕の腕の中から初めての最愛を奪っていくんだ。




「花子ちゃん…」



虚ろな瞳。
白い肌。
浅い呼吸。



今まで僕を映していたキラキラした瞳は既に白く濁ってる。
ああ、約束したのに酷いよ花子ちゃん。



「花子ちゃん…辛い?苦しいかな?」



「…、……、」



パクパクと唇だけ動かす花子ちゃんからはもうあの綺麗な声は出ない。
酷いのは花子ちゃんじゃないか…
キミを愛した化け物の僕だ。



「花子ちゃん…ごめんね、ごめんね?」



「…、」



何度も謝罪の言葉を口にする。
するとまた花子ちゃんの口がパク、パクと動いた。
もしかして「ライト君が悪い訳じゃないよ」って言ってくれてるのかな?
それともこんな風に自分に都合よく取ってしまうのは僕が自分の事可愛いからかな。




別にこういうのが初めてな訳じゃない。
覚醒できなかった花嫁なんてもう腐るほど見てる。
何も感じなかったし…あーあ、また替わりが送られてくるのかぁとか思うくらいだった。



けれど、こんなにも…
こんなにも僕の花嫁が覚醒できなくて苦しいのは初めての体験なんだ。




「花子ちゃん、花子ちゃん…ホントはすぐに君を殺してあげればいいんだろうけれど…僕は一秒でも君と一緒に居たいんだ。」




「…、……。」




あ、「わたしもだよ」って言ってくれた。
声は出なかったけれどきっとこれは確実だ。
長く彼女と一緒に居るから時折だけれど花子ちゃんの言いたいことが分かるんだよね。




なんでだろう…
なんでよりにもよって初めて心の底から愛したのが君だったんだろう。
なんで初めて永遠に一緒に居たいって思ったのが君だったんだろう。




君と愛ってやつを見つけることが出来たのに…
君と永遠を夢見ることが出来たのに…
どうして…どうして僕は。





「花子ちゃんごめんね…ごめんね…君を愛してしまってごめんね。…ゆるしてね。」



君の最期に写る僕は笑顔でいたくて
一生懸命笑って見せるけれどちょっと限界かも。
表情は笑顔を作ってるけれど目からはぽろぽろととめどなく涙が溢れてしまう。



ああ、いやだ…
もうすぐ花子ちゃんが僕をおいて逝ってしまう。




「ら、と…く…」



「花子ちゃん…」



掠れた、弱弱しい声で一生懸命僕の名前を呼んでくれる君に思わず目を見開いた。
もう彼女は笑顔を作るだけの力は残っていなくて、只々無表情だったけれど
その声は困ったように笑ってるみたいだった。




「むり、しな…で?ない…て、…い…」



「花子ちゃ、花子…っ」




嗚呼、君はこんな時でも僕に優しい。
無理して笑顔を作らないで、泣きたい時は泣いていいんだよって…
ああ、ごめんね花子ちゃん…こんな優しいキミを誰よりも愛している僕が…僕自身が壊すだなんて。



「う…うぅ…花子ちゃん…うぇ…」



「ら…、と…す、き…」




最後の最期で紡がれた愛の言葉と同時に彼女の命は闇に堕ちた。
ドラマや映画の様に死んだ後に綺麗に瞳は閉じる事はなくて
見開いたまま、もう彼女の網膜には届いてないはずなのにその瞳は尚も僕を映し続ける。




「花子ちゃ、花子ちゃん…っ!うぁ、う…あぁ…っ!」



初めて恋をした
初めて愛を知った




初めて死を嘆いた




ヴァンパイアにとって死は祝祭のはずなのに
どうしてこんなにも最愛の死は酷く心を抉り取られるのだろう。




生まれて初めて、僕は花嫁のなりそこないを腕に抱き
声を荒げて吠えるように嘆いた。





嗚呼、花子ちゃん
君を深く深く愛して壊してごめんなさい。



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