愛をちょうだい


ザクリ
さくり



切りつける
切り刻む。



別に嫌な事があったわけじゃない。
悲しいことがあったわけじゃない。
必要とされたいからじゃない。




ただ、彼の愛が欲しいだけ




「花子、またこんな…」



「ルキ、」



悲しそうな声が響いてようやく手を止める。
ゆっくりと振り向けば声色と比例した表情を浮かべている愛しのアナタ。



「ルキ、ルキ…痛い…痛いよ。」



「当たり前だろう。こんな…くそっ、」



ゆるりと傷だらけの両腕を伸ばせばパシリと掴まれて
ピリリとした痛みに顔を顰める。
別に私は病んでいる訳じゃない。
傷付けて生きていると実感したい訳でもなければアズサ君みたいな理由で傷を付けている訳でもない。



ただ、欲しいだけ



「ルキ、ルキ…ルキ。」



「ああ、ここにいる。花子が眠るまで此処にいるから…」



「……眠るまで?」



壊れた玩具の様に最愛の名を呼び縋る。
そっと包み込んでくれる大きな手は冷たいけれど酷く心地いい。
けれど彼の言葉は私の心を酷く不安にさせるには十分で…



そっと彼の腕の中で動きゆったりと腰を上げる。
傷は手当てしないまま彼の胸を這いあがったので服は私の赤で真っ赤に染まってしまった。



「ねぇルキ…眠るまでなの?眠ったら貴方は何処かへ行ってしまうの?私を置いて何処かへ行くの?ねぇ…ねぇ」



「……すまない。言い方を間違えた。花子…ずっと一緒だ。」



ぐっと顔を近付けて彼の瞳を覗き込めば揺れたそれが私を映し出したまま
優しい声色で安堵の言葉。


ほっと胸を撫で下ろして再度彼の胸へと擦り寄ると頬も赤く染まってしまったけれど
血を出し過ぎた私にはチーク替わりで丁度いいんじゃないだろうかなんて、ぼんやり考えてしまう。




「ルキ、ルキ…ずっと一緒よ。離れないで。」



「………わかった。ずっと、一緒だ。」




嗚呼、ほら
こうして自身を傷付けたときだけ…貴方は私に愛をくれる。




だからこれはやめられない。




「ねぇルキ…貴方が私から離れたら離れただけこの傷は増えるの。ルキに愛してもらいたくてたくさん増えるのよ?」



「花子………、」



「あ、」



プツ、と彼の牙が傷口へと埋め込まれて小さな悲鳴をあげてしまう。
ああ、いたい、痛い、イタイ。
けれど自身で傷付けるときより酷く気持ちよくて愛おしいのは彼が私を愛したうえでこの傷を牙で上書きしてくれているからだろうか。




「花子、他は?他はどこを傷付けた。この血の香り…もっと沢山つけただろう?」



「うん、あのね…」



そっと彼に腕を回して耳元での懺悔。
ごめんなさい。
でも私を淋しがらせる貴方がイケナイの。



傷付けた場所を全て暴露すれば小さな溜息と共に押し倒された体。
上に覆いかぶさる彼の表情は光の加減でよく見えない。



「ルキ、」



「もう花子如きに花子を傷付けさせたりはしない。…上書きも結構大変だからな。」



「じゃぁ…じゃぁ…っ」



一番望んでいた言葉を聴けて歓喜に打ちひしがれる。
そっと絡め取られた指さえも傷だらけだから酷くいたんだけれど今はそれどころではない。
早く…早くその言葉の続きを聴かせて?




「ああ、永遠に二人で“此処”にいよう?」




穏やかなその声に遂に涙腺は崩壊して
嬉しさの余り声をあげてしまった。




嗚呼、もうこれで愛を求めて自身を傷付ける必要はなくなった
ルキはずっと傍にいてくれる。
愛してくれる。
慈しんでくれる。




「ルキ、ルキ…すき…だいすきよ。」




求めたのは貴方の愛。
別にそれはおかしな事じゃない。
そしてそんな私に望んだものをくれたルキだっておかしくない。



「ずっと、ずーっと…一緒よ?」




永遠にここで二人
何処にもいかずに朽ちていくなんて



嗚呼、とても素敵で素晴らしい事だわ。



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