俺の充電器
「うわあああ!じゅうでんき!!俺の充電器がないいいいい!!!!」
「!?」
何もないある日の深夜、無神家に悲痛すぎる断末魔が聞こえたので
いつも通りすやすやと心地よい眠りについていたけれど勢いよく飛び起きて声のする方向へと猛ダッシュだ。
だってあの断末魔は私の大好きな大好きなイケメンアイドル君のモノだから…。
「ど、どうしたのコウ君!?何の充電器なくなっちゃったの!?携帯!?音楽プレイヤー!?それともビデオかな!?」
「…っ!花子ちゃん!!!」
バーン!と勢いよくリビングの扉を蹴破って両手に様々な充電器を持ちながら最愛に問えば
私に気付いた彼が振り向いてくれたけれどその綺麗な目にはいっぱい涙が浮かんでた。
ど、どうしよう!コウ君泣きそうだ!!
もしかして何かの機械の電源が今にも切れそうなの!?
彼のただならぬ様子を見て慌てて両手に持っている沢山のコードから彼が探しているであろう充電器を選別しようとするけれど
それはコウ君の手によって阻まれれ沢山の充電器たちは勢いよく宙に投げ出されてしまった。
「コウく…」
「あった…見つけた!!俺の充電器!!!」
「え、ど、どれ!?」
がしりと両腕を掴まれながらそう言われたけれど
その充電器たちは虚しく彼の後ろに転がってしまっているのでどれをさしているのか分からない。
そんな事を考えてればコウ君が有無を言わせないまま私の体を痛いくらい抱き締めてきてしまった。
「お、俺の充電器…あ、カチッ。」
「まさかのコウ君本体の充電!!そして申し訳なさげ程度に接続音とかいらない!!!」
すりすりとそのまま私の頬に頬擦りしてきちゃって幸せそうに笑うコウ君に大きな声で喚くと
「煩いよ!今俺は充電中なんだ!!」ってめちゃめちゃ怒られたけれどこんな理不尽な怒られ方したのは生まれて初めてである。
けれど、まぁ…うん。ここ数十日アイドルのお仕事で全然会えなかったから冗談抜きで私に会えず、彼の充電は切れかかっていたのかもしれない。
そう考えるとなんだかとても心がむずむずしてしまう。
「んんん!花子ちゃん…花子ちゃぁぁん」
「はいはいコウ君お疲れ様。今日はお休みなんだよね?ええと、ゆっくり充電してね?」
「当たり前だよね!!頑張った俺にご褒美がないとかありえないし!!」
…可愛くない。
ぎゅうぎゅうすりすりと、本当に今まで会えなかった私を補うように擦り寄ってきてくれるコウ君に恥ずかしいけれど可愛い事言ってみたにもかかわらず返って来た言葉が可愛くなさ過ぎて思わず顔が真顔になってしまった。
もっとこう…「花子ちゃん…今まで会えなくて寂しかったんだよ?」とか言えないものなのか。
けれどこうやって弱音と言うか媚び媚びスタイルをしない彼の方が好きなので甘んじて彼本体の充電器としてされるがままになった…
…のはいいのだが。
「ねぇコウ君。そろそろ充電完了するんじゃないの?」
「やだ。まだ駄目。俺、燃費悪いから充電あと3日はかかるんだもん。」
「うわあああん!!!いい加減離れてよ!!!兄弟達の視線が痛い!!!」
じたばたと彼の腕の中で大暴れしてみても圧倒的な力の差で押さえつけられて、余計にぎゅうぎゅうと抱き締められてしまう。
もうこうやって抱き締められ続けて早3時間は経つんですけど!?
ほら!!ルキ君呆れかえってるし、ユーマ君ずっとにやにやしながらこっち見てる!!!
アズサ君は…う、うん。そんな仲良しさんでいいなぁって目で見ないでくれるかな?アズサ君のそんな気持ちを裏切れずにコウ君から離れられないじゃないか。
「もおおおお!!じゅ、充電!!!充電終わり!!!」
「やだぁぁぁ!!!俺まだ10%も充電で来てない!!」
「ほんっと燃費悪いアイドルだな!!!」
相変わらず大きな声で喚いても全然離してくれなくて
この日は結局ご飯も二人羽織状態で済ませて、お風呂だって一緒。
寝るときなんてさも当たり前の様に私のベッド潜り込んできちゃったし…
なんか、うん。
もうどうにでもしてくれ状態だ。
「コウ君…そんなに淋しかったの?」
「あったり前だよ!!!すっごく淋しかった!!…花子ちゃんは淋しくなかったの?」
ベッドの中でも全然離してくれる様子のない彼に聞いてみれば逆に問われて苦笑。
そんなの、コウ君なら言わなくても分かるはずなのに言葉を求めちゃうからホント…
さっき可愛くないって言ったけど、ホント可愛い。
「ちょっとぉ。今俺の事可愛いって思ったでしょ。訂正しなよホラ。」
「いたたたたたご、ごめん。ごめんなさいコウ君。コウ君格好いいこの世の奇跡。」
私の目をじっと見つめていたコウ君がむぎゅーっと鼻を強くつまんできちゃったので
必死に謝罪と訂正をすれば「よろしーい」って言われてそのままちゅっと鼻先に唇を落とされてしまった。
そして再びじっと見つめられて私の言葉を待つ彼に小さく笑って自分からそっとその綺麗な唇にキスをした。
「淋しかった…すーっごく淋しかったよコウ君。」
「えへへ…だよねー。こんなイケメンスーパーアイドルコウ君が傍にいないとか悲劇だったよねー。ああ、可哀想。可哀想な花子ちゃん!」
可愛いドヤ顔で大袈裟にそんな事言っちゃう彼の腕の中でもう何度目かわかんない溜息。
でも淋しかったのは事実だしこうして大人しく今日は眠るまで彼に抱き締めてもらっててもいいかなって、思う。
そっと優しく頭を撫でられながら
その心地よさにひとり、目をつぶって夢の中へと旅立った。
ううん、こんなにべったりなので夢の中で充電されそうでちょっと怖いかな…なんて。
戻る