無敵代謝
「………」
「………」
「……何、さっきからジロジロ見て。」
「は!気付かれてましたか!!」
…そりゃ気付くだろ。
これだけじーっと一点集中みたいに何も言わずにこっち見つめられ続けたらさ。
かれこれ30分は経ってるんじゃないか?
「花子、どうした。」
「しゅ、シュウさん…失礼します!」
「は?ちょ、おい…っ!」
先程から無言で見つめている理由を問えば
そろそろと近付いてきた彼女が意を決したように呟いて突然がばりと俺の上着をまくりあげてしまったので思わずでかい声が出てしまった。
だってこんなの…いつだって恥ずかしがってそう言うお誘いなんてことさえしない彼女からはありえない行動だったのだ。
けれど花子の表情は至って真剣で、
数秒じっと俺の露わになった上半身を睨み付けたかと思うとそのまま右手が俺の腹部へと伸びてきてしまう。
すかっ
………。
「………何。」
「く…くぅ…!しゅ、シュウさんはこんな所まで無敵なんですか!!!」
いきなり腹をつまもうとした彼女の指が虚しく空気を掴んで
悔し涙を浮かべてそんな事言われても当の本人である俺は首を傾げるしかなかったのだが
何かが本気で気に食わなかったのか俺より小さい両手でぺちぺちと腹を叩かれるのでたまったもんじゃない。
「おい花子、痛いんだけど。」
「シュウさん!!シュウさんなんでいつも寝てばっかりなのにこんなお腹スレンダーなんですか!!!吸血鬼ムカツク!!!」
「は?」
流石に意味不明の行動にいらっとして俺を攻撃し続けるその両手を捉えて顔を近付ければすごく不機嫌なまま頬を膨らませてしまった花子に思わず吹き出した。
なんなの…その顔可愛い。
そして馬鹿すぎる不機嫌な理由に間抜けな声が出る。
チラリと自身の腹部を見てニヤリと意地悪顔。
ふーん…そういう事か。
「まぁ仕方ない。俺は高貴なお貴族ヴァンパイアだから代謝も無敵だ。どっかのダイエットしても一向に体重の落ちない庶民とは違うんだ。」
「ぎいいいいい!!!」
これでもかって言うくらいのドヤ顔を決めて厭味ったらしく言ってやれば、ぶわっと涙をあふれさせて喚き散らす花子に思わず声をあげて笑ってしまう。
そう言えばコイツ…ここ数日、ダイエットとか称して食事制限してた気がする。
そしていつだって吸っては寝て、吸っては寝ての繰り返しである俺がどうしてこんなスタイルを維持してるのか疑問に思ったと同時にずるいと思ったのだろう。
「ていうか何でダイエットしてんの。別に太ったわけじゃないだろ?」
「そうなんですけど…」
ぎゅうとそのまま抱き締めて、抱き心地を確認するが以前と全く変わらない事を述べても花子は声をどもらせるばかり。
じっと瞳を捉えて無言で理由を促せば、遂に観念したのか小さくボソリと言葉が紡がれた。
「…………アズサ君見てたら痩せたくなって。」
「…………花子はがりっがりになりたいの?」
馬鹿すぎる回答にそのまま返してしまった。
確かに無神の末っ子は細い。
…だがあれは流石に細すぎるというか見てて心配になるレベルだろ何でそれ見て痩せたくなったんだ馬鹿。
けれど花子は顔を赤くしながらも尚も言葉を続ける。
「やっぱりシュウさんも細い方が…スタイルいい方がお好きかなーって…思いまして。」
「…………ばーか。」
この、細いイコールスタイルいいって言う思考回路ってどの女も持ってるみたいだけど何とかなんないものなのか。
細けりゃいいってもんじゃないし、というか痩せようと思った理由が健気すぎてもう何も言えない。
ただこうして今の花子のままがいいと言う思いを込めて抱き締める腕に力を込める位しかできない。
「はぁ…今夜の晩餐は花子の好きなスイーツ用意させるか。…俺は大嫌いだけど。」
「え!?どうして突然!というか私は今ダイエット中で…!」
「うるさい。」
ちゅっと未だに煩い唇を塞いでむにむにと彼女の柔らかくて心地いい体をつまめば「やっぱりダイエットする!」って喚かれたけれど
ホント…ちょっとこの心地よすぎる抱き枕兼最愛がガリガリになるのは阻止したくて恥ずかしいし、キャラじゃないけどようやく思ってる事を言葉にしてみた。
「花子…俺の為に頑張るのは嬉しいけど、俺は今の柔らかで心地いい花子が大好きだからダイエットは金輪際禁止。」
「!」
すかっ
すかっ
次の日から花子の馬鹿みたいなダイエットは終わりを迎えたけれど
どうしても納得いかなかったのか暫くの間俺の腹をつまもうとして失敗し続ける彼女を見て弟達が首を傾げていたのはまた別の話。
(「おい花子、無駄だから。俺に余計な脂肪ついてないから。」)
(「万年ダル男穀潰しニートなのにするいですよシュウさん!!」)
(「…彼氏に向かって言うセリフじゃないよな、それ。」)
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