第五回王様ゲェェム!!!


ある日、一通の手紙が無神家にやって来た。



「………何だ?」



俺の後ろからコウ、ユーマ、アズサが顔をのぞかせ一緒に正体不明の手紙を開く。
すると一枚のシンプルな便箋にたった三文字の言葉。



「………ごめん?」



差出人さえ書かれていないがその文字は震えていて、便箋の隅には不自然な皺…
これはおそらくこの三文字を書いた本人の涙が落ちてそのまま乾燥したんだろう。




奇妙な手紙に四人で首を傾げていると突然玄関の扉が派手な音を立てて木端微塵に破壊されてしまった。
な、何事だ!?もうもうとした煙の先をじっと目を凝らして覗いてみると
招かれざる過ぎる客の姿が現れて俺は一気に血の気が引いた。



「シンから聞いたぞ。貴様ら…王の称号でくだらん戯れをしているそうではないか不快だ。王は私だけで十分だろう。」





「……………ねぇルキ君。この手紙アレだよ。アイツからだよ絶対。どうしよう俺初めて始祖に同情してる。」




「何で王様ガチ勢がわざわざ王様ゲームしに来たんだよこいつ等頭おかしいんじゃねぇのか?」



「また皆で…遊べるのかぁ…ふふ、嬉しいね、ルキ。」



「………………。」



煙の先から現れたのは始祖王である月波カルラで、なぜかその瞳には怒気が混じってしまっているので
もうここで問答無用で帰れなんて言えない。
俺はこれ以上家の中を滅茶苦茶にされて家計を火の車と言うか焼け野原にしたくないんだ。




「仕方ない、一回だけ…」



「あれ?また今日もやるんですか?王様ゲーム。」


「………。」



ひょいっと空気を読めない可愛い声が後ろから聞こえてしまい、
もうこれでもかという位長い溜息を吐いてしまった。
なぁ花子…今日だけは何処かに隠れていて欲しかった。




「さぁ!もうこれで五回目だけど始めましょう!!」



やはり変わらない可愛い声で司会進行をするのは花子だ。
折角初めて参加する人がいるのだからもてなしたいときかなくて任せたが正直心配でならない。
しかしそんな俺の心配なんてよそに花子はニコニコ笑顔でゲームを進めている。



「はい!王様だーれ、」



「貴様、王は私だと言っているだろう。その頭を割られたいのか。」



「!ご、ごめんなさい!!じゃ、じゃぁ王様カールラさんっ!!」




……何だこの接待ゲームは!!!!
花子の王様コールを遮り月浪の王様が睨みを利かせたのですっかり萎縮してしまった彼女はすんなりと王様の座を彼に譲ってしまう。
…殴りたい。花子を怯えさせるだなんて死刑ものだ。
しかし俺は今無神家の財布事情を背負っている。
自身の感情だけで動く事は出来ないんだ…!!!



「ふむ…そうだな、女。」



「は、はい!!」


ブルブルと怒りに体を揺らしていると彼は花子を再び睨んで彼女を指名した。
すっかり怯えてしまっている花子が上ずった声でその言葉に返事をする。
嗚呼、花子…可哀想に。
この下らない接待ゲームが終わったら沢山慰めてやる。



「女、貴様の名をこの王に言ってみろ。」



「え?えっと…花子ですけど。」



「花子…そうか、花子か…ふむ。次。」




は?


訳の分からない状態に固まってしまったが何だかこれは嫌な予感がする。
それはコウ、ユーマも同じなようで、二人はこちらを見つめて「この展開はまずい」と目で合図してくる。
分かってる。分かってるんだが…



俺は家を壊されたくないんだ!!!




「花子の好きなものを王に伝えろ。」



「えっと、かわいいもの…ですね。」



「次。花子の好きなひとを王に教えろ。」



「?る、ルキさんとシュウさんです。」



「チッ…では次、」




………やはりそうか!!!
先程からこの始祖王は王様ゲームと言う名の独裁ゲームを借りて次々と花子に質問をしている。
完全に俺達は無視だ。




まずい、コイツ…花子の事を気にいってしまったな!?
そう言えば先程彼女が俺の後ろから顔をだした時、月浪カルラの頬がほんのり赤くなったようななってないような…
これ以上ライバル増やしてたまるか!!!



ちらり、コウとユーマに目配せをする。
すると二人は小さくこくりと頷いた。




「次、花子は王の膝の上に跨り…」



「はいどーんっ!!!!!」




ぽすっ




遂に独裁ゲーム…もはやこんなの王様ゲームじゃないを利用して花子とのスキンシップに持ち込もうとした彼の言葉を遮って
その膝に可愛らしくきゃるんっと乗ったのは我が無神家随一のあざとアイドルコウだ。


そして驚きで固まっている月浪カルラ…独裁者の顔を覗き込みながらとんでも無く意地悪な微笑みで俺達のスーパーアイドルは言葉を続ける。



「ほらほら、花子ちゃん“みたいに体重の軽い俺”を膝に抱いた気分はどーう?セクハラ王様?んー?」



「貴様…っ!」



「わぁ!!いいなぁカルラさん…私だって滅多にお膝に乗ってくれないのに…羨ましい。」




激怒した彼はそのままコウを叩き付けようとしたが花子の天然発言が効いたのか、
大人しく暫くコウを膝に置いたまま重すぎる沈黙を守った。
………いい気味だな。



「…では次。花子はこのまま王の妃にな、」



「いやん、しあわせにしてね王様。」



「ぶふぉ!!!!」



遂に権力を乱用し始めた独裁者が花子に間接的にプロポーズをしようとした時、
ぽんと、彼の肩に確実に花子ではない大きなものが置かれ、その手の主の姿に思わず噴きだしてしまった。



というか貴様…王の権力の乱用など…その、あれだな。
過去的なアレはどうした。
そんな事さえ構ってられない程花子に夢中なのか?



いやしかしそんな事はどうでもイイ。
今は彼の肩に手を置いている気持ち悪すぎる女子高生が気になって仕方がない。



「き、き、貴様…っ!な、なに…っ!!」


「いやいや花子“みてぇな女子力全開の俺”を嫁さんに欲しいんだろ?幸せにしろよ王様よぉ」



流石に動揺を隠しきれない月浪カルラ…ガタガタと震えながらその女子高生と距離を取っているが
もう俺もコウも笑いで震えが止まらない。
だって仕方ない。その、女子高生…身長大体190cmはあるのだから。



「ゆ、ユーマ君かわ、可愛いよ…ぶふぉ…ミニスカート似合って…ぐふっ!!」


「か、髪飾りもか、可愛らしいとおも…くくっ!俺の弟をし、幸せにしてやってくれよ月浪カルラ…っ!」


「ユーマ…可愛い…ぎゅってしたい。」



アズサだけが違った感想だがもう何だか…うん、可愛らしい女子高生姿のユーマがこれまた可愛らしい髪飾りを付けて月浪カルラに迫っているんだ誰だって腹筋を持っていかれる。
どうだ月浪の長男よ…これが無神家の絆というモノだ花子は貴様なんかに渡さない。




ゼェゼェと肩で息をしている彼に向かって三人でニヤリと意地悪に笑う。
さぁ帰れ。このまま王様ゲームに嫌気をさして帰れ。



あと一歩のところまで来た時にアズサが不意に何もない扉に目を向ける。
何事かと思い、俺達も顔を向ければひょいっと嫌な頭が見えた気がしたが絶対気の所為だこんなの蜃気楼的なアレだ俺は信じていますカールハインツ様。




「また俺を仲間はずれにしてる。花子…ちょっとひどい。」



「しゅ、シュウさん!!」



ああ!やっぱり蜃気楼じゃなかった!!!
カールハインツ様!!信じてたのに!!!
険悪過ぎるこの雰囲気に限界ぎりぎりだったのか花子は一目散へ彼の腕の中へと逃げ込んで、すりすりとその胸に顔を埋める。
そして彼はそんな彼女の頭を愛おし気に二三度撫でて、動揺していた月浪カルラとじとりと睨みつける。



「王様はこの俺だ。あんたじゃない。」



「ほう…?吸血鬼ごときが始祖に逆らうのか?」



バチバチと火花が散る中すっかり置いてけぼりになったしまった俺達は只々見つめるしかできない。
そして逆巻シュウから放たれた当たり前すぎる言葉に俺達は目から本気でうろこが出そうになった。



「ゲームのルール一つ満足に守る事が出来ない輩に王の器なんてあるわけないだろ。」



「…っ!!!」



…逆巻シュウがカールハインツ様に見える位今の彼は俺達の救世主だ。
あれだけ好き放題していた月浪カルラが何も言わないまますっと静かに椅子へと戻り座ってしまった。
す、すごい…すごいぞ逆巻シュウ!!やはりあのお方の跡を継ぐのは貴様なのだろうか!!!



「で、事態の収拾をした俺をご褒美に一回王様にしてもいいと思うのでお前ら全員くじ引け。」



彼の行動に感動しっぱなしの俺達はそのテンションのまま言われた通りにに各々のくじを引いた。
なのでこの時点で彼はとんでもなく下衆な笑いをしたのを見逃してしまったのだ。




「さて、王様の命令だ。1番と6番、4番と2番と3番、王様と5番この組み合わせで一日互いを「たん」付けで呼びあいイチャイチャする事。」



………。


「あ、俺4番だ!!2番と3番誰〜?」



「俺…2ばん…コウたん…か、ふふ…なんだかもっと仲良しになった気分…ふふ、コウたん…」



「お?俺3番だわ。今女装してっから俺が彼女ポジか?コウたん、アズたん…ぶふぉ!おもしれぇなコレ。」



きゃっきゃと楽し気な弟達を遠目に俺は真顔である。
そして目の前に座っている某始祖王も真顔である。




…誰か嘘だと言ってくれ。




「あ!私5番です!!ええと…今日一日宜しくお願いします!シュウたんっ!」



「ああ、よろしく花子たん…くくっ」



きゃっきゃと王様と花子もイチャイチャし始める。
うん、こんな事だろうと思った。
少しでも逆巻シュウを尊敬した俺の気持ち返せ。




バチリと目の前の始祖王と目が合う。
あ、まずい…先程逆巻シュウに説教されてこいつ真面目にこの命令聞いてしまう気だ。吐きそう。




「宜しくルキたん。」



「………………よろしくカルラたん。」



そんな恐ろしい低音ヴォイスでルキたんとか言わないでくれ鳥肌が半端ない。
ギギギと花子といちゃいちゃしている逆巻シュウを見ればこちらに気付いた彼がニヤリと勝ち誇ったように笑う。




「アイツ本気で死んでくれないか。」


「ルキたん人の悪口はよせ、いい指導者になれないぞ?」


「……………そ、そうだな。」




結局この日一日中始祖王といちゃいちゃするという貴重な体験をした俺は一週間ほど寝込んでしまったが
それでも暫くあの低音での「ルキたん」が頭から離れずに死にかけた。




…カールハインツ様はどうして逆巻シュウを生かしてるんだろう。



戻る


ALICE+