ひとさしゆび
大好きな大好きなシュウさんと思いが通じ合って愛し合って交じり合って
遂に…
遂に!!!
「サヨナラ人間!こんにちは吸血鬼!!」
「……こんな底抜けに明るい吸血鬼とか初めてなんだけど。」
スパーン!とド派手な音を立ててクラッカーを鳴らせば
ソファで横になっていたシュウさんはながーい溜息をついてコチラをじとりと見ちゃうけれど今日はそんな冷たい目線で落ち込んだりしない。
だってだって今日はようやく私がシュウさんと遂に種族までお揃いになっちゃった記念日なんだもの!!
「明るくもなりますよシュウさん!覚醒の時すっごくつらかったけどこれでシュウさんとずーっと一緒なんですよ!!私頑張った!!えらい!!」
「…普通そういう事自分で言っちゃうわけ?…って痛い痛い痛い。」
ぎゅうぎゅうぎゅう。
正直覚醒の時の痛さと苦しさと言ったら本気で死んじゃうんじゃないかってくらいだったけど
我慢したから今この手に永遠があるんだって思うとシュウさんのお褒めの言葉を待てずに自分で自分を褒めてしまう。
そしてもっと自分にご褒美をあげようと自身のだいだいだーい好きなシュウさんに思いっきり抱き着くとちょっと切羽詰まった声が漏れたので慌てて力を緩めた。
…そうだった、吸血鬼って人間より力強いんだっけ。
抱き着く力は緩めたけれどそのまま彼を開放するわけではなく
最高にご機嫌な笑顔のままそっとその白い首筋に顔をうずめた。
「…………何してんの花子。」
「やっぱり吸血鬼になって最初に吸うのは大好きなシュウさんの血が…ていうかそれ以外ヤダ。」
初めての吸血鬼としての行動と、自身の最愛の血を体内へと運べる喜びにワクワクを隠せないまま
弾んだ声はそのままに生えたての牙を突き立てようとしたらぐいっと離されてしまう私の体。
そして数秒固まってすぐにじわりと瞳いっぱいに涙を溜めて我慢することなくぶわわと溢れさせ垂れ流す。
「やだぁぁぁ!!!しゅ、シュウさんの血!!!シュウさんの血が飲みたい!!それ以外はやだぁぁ!!うわぁぁぁん!!!」
「…っうるさい。てか、こら、暴れるな…ばか、っと」
「うわあああん!!血!!血がほしいよシュウさん!!喉乾く!!すっごい乾くシュウさぁぁぁん!!」
じたじたと引き剥がされたまま両腕をばたつかせても言う一度どうにかして彼の首筋へと近付こうとするけれど
顔面を鷲掴みにされてちっとも距離が縮まらない。
それどころかいつもならそのままソファに横になりっぱなしなくせに身の危険を感じたのか静かに立ち上がっちゃうものだから
もう私は余裕なんかなくてびたんと体を床に投げ出してじたじたと駄々っ子のように暴れまわる。
「吸血鬼になりたてのくせに俺の血吸うとか生意気。最初はネズミあたりから練習しろ馬鹿花子。」
「やだ!ぜぇぇったいやだ!!シュウさんが!シュウさんがいい!!」
「…………勝手にそうしてれば。」
じたじたと大暴れしていればあきれてしまったシュウさんがまたながーいため息をついて
コツコツと靴音を遠くへと持って行ってしまう。
そしてぱたりと閉じられたのは紛れもなくお部屋の扉。
一人取り残されて私は床へと顔を突っ伏させて先ほどまで喚き散らしていたのが嘘のように黙り込んだ。
シュウさん、血…飲ませてくれない。
私の事、もう好きじゃなくなったから飲ませてくれないのかなぁ…
そういえば私が人間だった頃、「花子は暖かかいな」って言ってた彼の表情がどこか柔らかかったのを思い出す。
…もしかしなくても同じ種族になって喜んでいたのは私だけなのだろうか。
覚醒の時だって一緒に居てくれなかった。
さっきだって私が同族になっても全然喜んでくれてなかった。
「う………シュウさ、」
じわり。
うつぶせになりながらじわじわと涙を零す。
あ、どうしよう…私がこんな、吸血鬼になってずっと一緒に居るのってシュウさんにとっては迷惑だったのかな。
「う…うう〜……うぇ、う、」
ひとりきりの部屋に響き渡るのは悲しい嗚咽だけ。
どうしよう…もう吸血鬼になっちゃった。
シュウさんが好きなのはこんな私じゃなかったんだ。
戻りたい…シュウさんが好きだった人間の私に戻りたい。
でもそんな事、もう出来るわけがなくて
今の私にできることといえばこうして一人で涙を流し続けることだけだ。
ガチャリ、
「……………なに。泣いてんの?」
「…………泣いてません。」
「嘘つくならもっとまともな嘘つけ。声も体も震えてる。」
どうしてだかもう一度扉が開いて気配で誰かがわかったので
今は酷い泣き顔をしているだろうから顔を突っ伏させたまま相変わらずあきれ返った声色に必死に答える。
けれどすべて見抜いてる彼から出てきたのはやっぱりため息だ。
「う…うう、」
「はぁ、花子。」
「……………。」
「ん。」
気が付けば傍にいた最愛。
私に視線を合わせるためにしゃがんでくれていた。
ちらりと顔を上げてみればひょいっと差し出された白くてきれいな人差し指。
………少しアルコールの香りがする。
「…………」
「何、吸いたくないの?」
じっとその指を見つめて固まっていると
少しだけムッとした彼の…シュウさんの声が響く。
…もしかして、指…初めての吸血で万が一を考えて消毒してくれて来たのかなぁ。
「………ううー、」
がぶっ
「!……っ!…いった、」
わかりにくすぎるシュウさんの優しさを見つけてしまい嬉しくて嬉しくて
ボロボロとさっきよりたくさん涙を流しながらその指に噛みつくと彼の体は大げさに揺れた。
……あ、そうか。
私、初めてだから上手に吸えないんだ。
「ちょ、もうちょっとゆっくり…って、おい花子聞いて…いったい、」
「んーんーんー!」
でもやっぱりこうしてなんだかんだで自身の指先を差しだしてくれた事実が嬉しくて嬉しくて
加減なしに必死に彼の血を啜るというかもうなんかジュースを小さなストローで必死に吸い上げるような状態になってしまって
そんな私を見た彼の小さな笑い声が響いてしまった。
このとき私はまだ知らない。
覚醒の時傍にいてくれなかったのは扉越しに私の苦しむ声を聴いて泣いていたからだなんて。
私が同族になってはしゃいでるとき、少しだけ彼の頬が桜色に染まっていたことなんて。
こうして彼が誰かに消毒までして念入りに手入れをして指を差し出したのが初めてだなんて…
「ちょ、ほんと…花子、マジで手加減…痛い、」
「んー!むあああああ!!」
この時点で何も知らない私は
彼には酷く滑稽に映っていたのだろう。
私は自分が思っている以上に彼に愛されていたようだ。
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