Game


「ああ、また負けてしまった…」



「相変わらず君つツメが甘いね。」




私の悔しそうな声と彼の余裕めいた声が響き渡る。
ここは誰も入ることが許されない不可侵の間…彼と私以外は。



「本当に、いつになったら君に勝てるのだろう、カールハインツ。」



「そのうち…そのうちさ、ソクラテス」



ぐたりとチェス盤の上に項垂れれば先ほどまでキチリと置かれていた駒たちはガチャリと床へ零れ落ちる。
そんな様子を見た友人は静かに笑うが私はその目をじとりと見つめながら最近の動向を問う。



「それで?……計画は進んでいるのかな?」



「ああ、アダムの林檎計画か。……そうだね、肝心のイブが…」




綺麗な眉を下げて困ったように笑うから
今回もまた計画は失敗したらしい…ああ、また君は不用意に時を戻すのか。



「ええと、イブ……花子と言ったっけ?」



「ああ、そうだよ。なんだい、ソクラテス。イブが気になるのかな?」



「………さぁ、どうだろう。」



カrネオ計画の要の名を問えばその金色の瞳は静かに細められたが
敢えて気づかないふりを貫き通す。
ああ、なんだ…もう新たなゲームは始まっているのか。



静かに項垂れた体を起こし、盤の上にかろうじて残っていたキングを立て直す。



「そもそも私はこの部屋から出ないからね。その花子と言う子も気にはならないさ。」



「……その割には彼女の名前は憶えていたんだね。少し怪しいよ。」



「ほう…君には私が怪しく映るか、ヴァンパイア王」



互いに表情は笑顔を作りながらも瞳で探りを入れる。
…このゲームも存外悪くはないね。



「万が一、私がその花子を気に入ったとしてどうすると言うんだい。…友の計画の邪魔をするとでも?」



「ああ、君には何戦ものチェスの恨みをかっているからね。……油断はできないさ。」



探り合いの視線が次第にバチバチと火花を散らす。
ああ、退屈なこの世界にはこれくらいの刺激は必要だ。




「邪魔はさせないよ。ソクラテス。」



「おやおや、神にも等しい君が焦るだなんて滑稽だよカールハインツ。」




飄々と言葉を交わしガタリと席を立った。
手に持つのは先ほど彼に負けたキングの駒一つ。



「ああ、いつになったら君に勝てるのだろう」



「そのうちさ…そのうち、」




先ほどと全く同じ言葉を互いに口にする。
裏に秘めた思いは両者口にしないまま。




積年の恨みは案外恐ろしいものだよ、カールハインツ




(花子は私がもらおうね。君の息子には渡さない)



(イブは君には渡さないよ。今回のゲームも君の負けだ)




もしかしたら私が花子を気に入った事さえ彼の掌の上なのかもしれない。
だが今回はただその上で踊るだけで済ませる気はない。




「駒に反旗を翻されるプレイヤーはさぞかし滑稽だろうね」




私のそんな言葉に
王は王らしからぬ小さな舌打ちをしたので
私はその様子を見てニタリと瞳を弧に歪めて微笑んだ。



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