クリスマス延長戦
クリスマス、聖なる夜。
恋人同士があまーい時間を過ごす素敵な日…
「おはようございます。」
まぁ社会人の私にとってはクリスマスだろうが何だろうが
平日ならば余裕で仕事なわけなのだが…
社畜な私にとってクリスマスなんてどこにでもある平日のうちの一つにしか過ぎない。
「ああ〜…疲れた。」
小さな独り言が誰もいない部屋に響き渡る。
クリスマス当日、定時に帰ってまったりなんて夢のまた夢。
そんな楽しい行事を過ごすことなく私は目の前のノートパソコンへと先ほどまでかじりついていた。
……クリスマス当日に正月企画の追い込みだなんて笑える。
「ま、皆様が楽しんでくださるならーってね。」
全ての資料を保存し、電源を切りチラリと壁時計を見ればもう23時30分。
………ううん、今年も一人ぼっちでクリスマスを過ごしてしまった。
みんながみんなクリスマスを楽しく過ごせるわけではない。
こうして私達みたいなのが前もって企画を立てて、働く人がいるから不特定多数は何も気にせず今日という日を楽しむことができるのだ。
…おそらく次はこうして前準備している正月だって同じこと。
いそいそとコートを羽織り帰宅準備も手早く済ませようやく退社。
今年も花子ちゃんはみんなが楽しんでる間に頑張りました。
「………うーわー」
外に出れば目の前は真っ白雪景色。
…いつの間に降ってたんだか。
ちらりと腕時計を見れば23時45分。
残り15分、更に一人ぼっちを実感させられてしまうとは思わなかった。
いまだにひらひらと舞い落ちる雪を見つめて小さくため息を吐けば
それは控えめに白くなって冷たい空気に溶けて消える。
……正直、やっぱりこんな日に一人ってさみしい。
「私もあまーいクリスマスとか過ごしてみたいなぁ」
「おや、随分と生意気な口を利くのですね私の下僕は」
「…仕事で満身創痍な女性にしかもこんなロマンティックなシチュエーションで下僕呼ばわりってどうなの。」
誰もいないと思ってもらしてしまった大人げない本音は
意外にも低くて愛おしい声に拾われてしまい、今度は大きなため息を吐いてジトリと現れた黒い人影をにらみつけた。
嗚呼、真っ白な世界に彼の黒い姿は悔しいけれどとても綺麗だ。
「お仕事お疲れ様ですとでも言って差し上げれば満足ですか?花子さん。」
「そう、それそれ。その言葉が欲しかったのに何でいきなり酷い事言っちゃってくれるのレイジは。」
「申し訳ない。……少し、意地悪をしてみたくなって。」
厭味ったらしく笑いながらもさりげなくビジネスバッグを私から取り上げる紳士に文句を伝えればその笑みはますます深くなる。
……何が意地悪だ。こっちはみんなの幸せトキメキクリスマスの裏側で頑張ってきたんだぞ馬鹿。
「酷いよレイジ。私頑張ってきたのにもっとこう…ハグとかキスとかしてくれてもいいのに。」
「おやおや、酷いのはどちらでしょう。こんな素敵な最愛をこんな日にひとりぼっちにさせてしまう貴女の方がよほど残酷だと思いますが。」
「…………寂しかったの?」
「ええ、少し。」
シャクシャクと積もった雪を踏みしめながら何気ない会話を交わして微笑みあう。
私のビジネスバッグは彼の左手に移動して、空いた手は私が転ばないようにと気づいたら腕をしっかりと支えてくれていた。
…こういうこと、息をするようにすんなりできちゃうのは少し狡いと思う。
吸血鬼のくせに聖なる日に私といることができなくて寂しかっただなんて奇妙な事を言っちゃうレイジに
いつもなら「おかしい」って茶化すけれど今日はそんな事できない。
………寂しいって思ってるのが私だけじゃなくてうれしい。
「……と言えば花子さんは喜ぶのでしょう?」
「うっわ、トキメキ。さっきのときめいた私の乙女心返して。」
「申し訳ない、先程貴女の数少ない乙女心は食べてしまいました。」
「きゅんってさせるかイラッとさせるかどっちかにしてくんないかな乙女心沢山あるよたぶんきっと恐らく…」
素直にときめいていたらまた放たれた意地悪な言葉。
チクショウ。この吸血鬼ホントに腹が立つ。
けれど私の表情は先ほどから緩みっぱなしなのだ。
幾ら彼に酷い意地悪を言われてもずっとゴキゲンのまま。
「おや、花子さん……これだけ言われてもそのような顔をされるだなんて。余程のマゾヒストなのですか?」
「んー……いやぁ、まぁ…そういう事にしておいてよ。」
「?」
しゃく、しゃく、しゃく
深夜と降り積もる雪と重なってあたりが酷く静かに感じる中での二人の会話はとても響く気がする。
レイジって本当に変なところでツメが甘い。
頭や洋服に雪は積もっていなかった。
勿論靴だって雪で濡れているわけではなく綺麗。
それだけ見れば彼がついさっき私を迎えに来たように思えるけれど…
「いやぁ、私の彼氏超かわいいって思ってさ。」
けれどなかった…
なかったのだ。
もし先ほど来ているのだとしたら周りにあるはずの彼の足跡が。
私の前に登場する時のもの以外は存在せず、当たりは本当に誰も踏み入れていないような感じで真っ白だった。
…それはつまり彼が雪が降り始める前から私をここで待っていてくれていたと言うことで…
クリスマス、働く社畜にくれたサンタさんからのプレゼントは
普段辛辣すぎる最愛の少しわかりずらいデレだったようだ。
「レイジって意外に健気でかわいいよねホント好き。」
「は?だから先程から貴女は何を言って…」
「部屋についたら教えてあげる。」
ちらりともう一度時計を見れば0時丁度。
クリスマスは終わってしまったけれど、23時45分から15分間…最高に素直じゃなくて可愛いレイジを見れたので幸せだ。
帰ったら私が笑顔な理由を教えてあげよう。
……きっとビックリする位赤くなっちゃうと思うけども。
さぁ少し、クリスマスの延長をしようか。
彼が赤くなって意地になり私を襲ってくれるまでが私の中でのクリスマスだ。
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